俳優・高倉健を支えた「人と出会い、みんなで映画を作る感動」いい風が吹きそうなところへ体と心を持っていく
「人が人を思う。これ以上美しいものはないよね」
歳を重ね役を重ねて、数々の映画賞を授章する。68歳の99年に「鉄道員(ぽっぽや)」で年老いた鉄道マンを演じた。死んだはずの娘に出会うシーンで、台本にない涙があふれた。「感動していたんでしょうね。出すつもりがなくても出て困った」。演じることが人生そのものになっていた。
2005年には中国映画「単騎 千里を走る」に出演した。病気で倒れた息子との約束で、中国を旅する父親の役だ。役通りに付き人も伴わず、たった1人で中国へ行った。これにNHKが密着した。
張芸謀(チャン・イーモウ)監督は、あえて農村の普通の人たちを出演させた。「健さんの友情や感動をこの映画に込めたかった」という。健さんはNGを連発する青年の緊張を解くため、頬をマッサージしたりする。3時間経ってようやくOKがでたとき、青年は真っ先に健さんに駆け寄った。通訳の張景生さんは「スタッフが寒さで震えていると、健さんはそっとカイロを渡す。それは現場の隅々にまで伝わりましたよ」と話す。
健さんも得るものがあった。農民が演ずる仮面役者が生き別れの息子に会いたいと泣くシーンだった。涙を流し鼻水をたらす姿に、健さんは「新鮮ですね。芝居とは何かをつきつけられた。今頃になって遅いけど...」
クランクアップでは爆竹が鳴って、誰彼なく抱き合って祝った。健さんもNG青年と抱き合って涙を流していた。戻りの車の中でいう。「人が人を思う。これ以上美しいものはないよね」
最後の出演が12年の「あなたへ」だ。妻の遺言で故郷の海での散骨に1人旅をする男の物語である。NHKのカメラが人々と触れ合う健さんを捉えていた。「やっぱり出会いだな。いい人に出会うといいものをもらう」
「同じことは、クローズアップ現代でも言っていた」と国谷はいう。いい出会いを求めて、いい風が吹きそうなところへ、意識して体と心を持っていくんだと。
健さんの演技は時に暗すぎて息がつまりそうになる。しかし、撮影現場では饒舌だったとだれもがいう。やっぱり三田佳子がいうように「俳優 高倉健を演じていた」のだろうか。おいそれとできることじゃない。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年11月20日放送「『人を想う』~映画俳優・高倉健さん~」)