元少年Aの手記に被害者父親「2度殺された。子どもを殺され、また精神的に彼に殺された」

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   18年前、神戸で児童連続殺傷事件を起こした「元少年A」が、事件の手記「絶歌」を出版した。生々しい犯行時の様子も記され、被害者遺族の衝撃は大きい。表現の自由はどこまで許されるのか。「元少年A」と匿名での執筆への違和感もある。是非をめぐって各方面で激しい論争 起っている。

   事件では10歳の女児と11歳の男児が殺され、男児の頭部が中学校の校門にさらされた。犯人は「酒鬼薔薇聖斗」を名乗って警察に挑戦状を送るなど異様な犯罪だったが、14歳の中学3年生の犯行だったのはさらに衝撃だった。事件を機に少年法が改正され、刑事裁判にかけられる年齢が16歳から14歳に引き下げられたが、Aは当時の少年法通り、非公開の審判で矯正教育のため医療少年院に送られた。ここで6年を過ごし、21歳で退院して社会復帰していた。Aはいま32歳である。

矯正に携わった精神科医「積み重ねたものが崩れた。(矯正は)失敗といわざるを得ない」

   被害者の土師淳くん(小6)の父・守さんのもとに、毎年5月の命日にAから謝罪の手紙が届いていた。今年は従来の10倍もの長文で、初めて事件の経緯に触れていた。守さんも変化を感じ、これを区切りにするつもりだったという。それら1か月後、手記の出版を新聞で知った。「2度殺された。子どもを殺され、また精神的に彼に殺されたと思ってます」守さんはいう。出版社に販売中止と回収を求めたが、初版10万部に5万部が増刷された。

   関東医療少年院の院長としてAの矯正に携わった精神科医の杉本研士さんは「乱暴なことをしたな」という。少年院での矯正の主眼は贖罪の意識を高めることに置かれる。6年を経てAの内面のすさまじい葛藤は治まったとみた。しかし、今回の出版で「積み重ねたものが崩れた。(矯正は)失敗といわざるを得ない」という。

   手記では「書くことが唯一の自己救済であり、たったひとつの『生きる道』でした」と書く。Aは退院後、保護観察期間を経て仕事や住まいを転々としながら、だれにも過去を明かせない孤独の中を10年間生きた。杉本さんは「それが手記へと駆り立てたのではないか。書くことは恐ろしい力を持ちます。そこへ彼ははまっちゃった」と語る。

   ネットでは不買運動や回収呼びかけなど厳しい声が多い。淳くんの墓がある明石市は、遺族感情への配慮から犯罪被害者支援条例を適用して、市立図書館は購入しないと決めた。泉房穂市長は「表現の自由に名を借りた暴力的な行動だ」と、市内の書店にも「配慮」を呼びかける。全国図書館協会は「貸し出し制限には当たらない」という。これは正論だろう。

ノンフィクション作家・柳田邦男「重要な部分がない。どう更生に向かったかがないんです」

   ドキュメンタリー映画作家の森達也さんは「遺族の理解を得る努力が必要」という前提で、「いかなる言論も規制されてはならない」という。重大事件の実行者が手記を出した例は多いが、Aに対する批判はとくに強い。森さんは「いまもって少年法に守られ(匿名)、社会的制裁を免れていることへの不満がある」と見る。

   ノンフィクション作家の柳田邦男さんは、「Aがものを書くのは理解できます。追いつめられた疎外感、孤立感が10年続いて耐えられなくなったんでしょう」という。ただ、手記には「重要な部分がない。6年間少年院でどのようにして更生に向かったか。それがないんです」

   出版社は「少年犯罪を考える上で社会的意味がある」とお決まりの台詞だ。柳田さんは、「編集」に問題ありという。編集で遺族や内容に配慮するのは自己規制ではなく、表現の自由を守るために必要なものと話す。これが十分ではなかったというのだ。

   初版10万部という数字自体が化けの皮。村上春樹ならいざ知らず、超際物でしかお目にかからない数字ではないか。表現の自由が聞いて呆れる。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2015年7月2日放送「『元少年A』手記出版の波紋」

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