「赤ちゃんポスト」10年・・・預けられた子どもが語った「どこかに捨てられるより良かった」

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   熊本の慈恵病院に「こうのとりのゆりかご」、いわゆる赤ちゃんポストが設けられて10年になった。望まぬ妊娠のいわば駆け込み寺で、「命だけは救いたい」と設置に踏み切った熊本市の決断は、これまでに130人の幼い命を救った。その子供たちが自分の言葉で語り始めている。

   翼くん(仮名)はスポーツ好きの明るい少年だ。ポストに預けられた5か月後、里親に引き取られた。NHKは幼い時から翼くんを記録してきた。里親もポストの事実を隠さずに伝えた。翼くんは言う。「ポストに入れた時に見捨てたけど、それまでは大事にしてくれました。どこかに捨てるのでなく、ポストという守られたところに預けてくれたことを感謝してます」

   ただ、「生みの親はどんな人たちなのか。どうやって生まれたのかが知りたいですね」と話す。学校で生い立ち調べをした時、自分だけ生まれた直後の写真がなかった。「写真を残して欲しかった。この先もポストに託される子供たちに、自分と同じ気持ちを味わってほしくない。(実の親と)生きていた証を、親を知る手がかりを残してほしいです」

   将来については、「同じ境遇の子供達を支える仕事をしたい。子どもたちの悩みを聞いてあげて、1人でないことを教えてあげたいです」

   複雑な家族問題を多く作品にしている映画監督の是枝裕和は、少年の言葉に「立派な里親に育てられているんですね。『感謝してます』が重い。同じ施設で働きたいというのには、胸が詰まります」と語る。

半数が「養子」、実の親引き取りも2割

   熊本市のまとめでは、130人のうち、実の親が判明したのが103人(2017年5月現在)で、北海道から九州まで全国に広がっていた。依然わからないケースが27人いるが、慈恵病院の蓮田太二理事長は匿名性は必要だとする。「知られるくらいなら死ぬという人が現実にいるのだから」

   ポストに託した理由は、多い順に「生活困窮」「未婚」「世間体・戸籍」「パートナーの問題」「不倫」だ。社会的地位の高い人、収入に余裕のある人も複数いた。「留学したいから」と、匿名性が放棄を助長したようなケースもあった。是枝さんはしかし、「身勝手とも言えるが、誰にも言えず孤立する母親をどう救うかです。母親の母性にだけ頼っていると、どんどん事態は悪くなってしまいますよ」とポストの広がりに期待する。

   130人の子どもたちの29%が乳児院などの施設にいる。半数近い48%が養子・里親の元に。実の親が引き取りも18%あったが、時に想定外のことになる。里親が子どもを預かって2年経ったある日、児童相談所から「生みの親が返して欲しいと名乗り出た」と知らされた。ショックだった。子供は3歳、普通の親子になっていたからだ。何より子供の心の傷が心配だった。

   里親はあくまで預かるのが原則。親権は実の親にある。親権を移すには、特別養子縁組の手続きが必要だ。児童相談所も養子縁組を進めてくれて、実の親との話し合いに1年かかったという。

   どちらが子供にとって幸せか。この判断は難しい。慈恵病院はポストと並行して無料の電話相談に応じている。10年前に501件だった相談件数は、昨年(2016年)は6565件にもなった。相談の結果、病院で安全に出産して、養子縁組につながったケースもあった。

ドイツでは全国にポスト100か所。知られずに出産できる制度

   赤ちゃんポストはいまだに熊本だけである。ドイツでは赤ちゃんポストは100か所。母子が安全に過ごせるシェルターもあり、誰にも知られずに出産できる制度もある。親は行政機関に名前を届け、成長した子供が親を知りたいと思った時に知ることができる。

   是枝さん「国が考える家族、親子の形と現実が乖離しているんです。現実に悩んでいる母親に合わせるような制度を整備しないといけないのでしょう」

   しかし、国は積極的には関わらない方針だ。ただ、子育て放棄や虐待がしきりに伝えられる中、赤ちゃんポストだけが増えたりしたらどうなるのか心配になる。

クローズアップ現代+(2017年6月8日放送「僕の生みの親はどこに?~10年後の赤ちゃんポスト~」)

ヤンヤン

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