2024年 4月 26日 (金)

戦争の下でもたくましく優しく生きた「すずさん」たち・・・「この世界の片隅に」であらためて考える庶民と暮し

   まもなく終戦から73回目の8月15日を迎える。いま、戦争の悲惨さだけでなく、当時の庶民の日常をつづった手記が注目されている。空腹の戦時下に買った忘れられないあの食べ物、空襲で九死に一生を得た時の忘れられない風景など、普通の人が暮らしをありのまま綴った「戦争中の暮らしの記録」(暮らしの手帖社)、その続編「戦中・戦後の暮らしの記録」も先月24日(2018年7月)に発売された。

   そこには、映画・ドラマで好評の「この世界の片隅に」の主人公「すずさん」のように、前向きに力強く生き抜いてきた人々の姿がつづられている。

「子供に食べさせたい」蓄えはたいて買った哀しいスイカ

   ゲストの千原ジュニア(芸人)が「戦争中の暮らしの記録」に収められエピソードを朗読した。「連日の空襲で焼け出されるか、今夜は死ぬか、夫の留守を守る私は、母と2人の子供と悪戦苦闘の毎日でした。爆弾も焼夷弾(しょういだん)も落ちてこない安全な場所がほしいと思っているところへ『山を売るよ』という人。私も一口、乗ることにしました。自転車をこぎながら、懐にある財布50円入りを確かめたその時、見てしまったんです。農家の縁側に巨大なスイカ。横にキセルを手にした番人みたいなお爺さん。『スイカ売るの?』と私。『売ってもいいぜ。でも高いよ、35円」。闇値とはいえ、山の土地70坪分は高い。人の足元見て何よ!と思いながらも、買って帰れば子供も母もきっと大喜び。盛んに迷っていると『無理ならいいんだぜ。なんぼでも売れっからよ』の声に、私ははじかれたようにスイカを両手で押さえました。何年もの積み重ねが、たった1個のスイカで見事崩壊。私の馬鹿。『本当にこれ食べていいの』と子どもたちは大騒ぎです。いつも優しい母が、いつになく冷たい口調で『気でも狂ったの。戦地のお父ちゃんに申し訳ないと思わないの』と、それはえらい剣幕で怒りました。私もさまざまな想いがこみ上げて泣きくずれ、食べたスイカの味、わかりませんでした」

   この私記を書いたのは、栃木県大田原市に住む今井瞳さんの母、乙女さん(享年90)だ。スイカを高値で購入したのは終戦の年の夏で、連日の空襲で家族の空腹がピークに達していた時期だったという。「以来、母は子どもたちに、スイカはこうして種ごと食べるのよと、口癖のように言っていた」と今井さん語る。

   ゲストの映画「この世界の片隅に」の片渕須直監督はこう話す。「戦時中、スイカは作付け禁止作物だったんです。そんななか、山一個分のお金を払ってもスイカが食べたかったのは、(空襲以前の)普通の日々のことを思い出されたのだと思いますね」

空襲の業火に包まれる町・・・「不謹慎だが、きれいに見えた風景」

   次のエピソードは愛媛・松山市の空襲体験の話。「松山が燃えたのは、終戦の20日前です。夜中に空襲警報のサイレン。火を付けた蝋燭(ろうそく)の束のような焼夷弾が5つも6つも落ちてきて、一気に家が燃えていきました。私は、離れに寝かしたお祖父さんを助けようと庭に出ました。駆け寄ると、部屋の中は煙がまいて、お祖父さんの姿がおぼろげにしか見えません。お祖父さんは、自分で体を動かすことがままならないからどうすればいいのか。その時、お祖父さんが煙りの中から手を振るのが見えました。『みっちゃん、みっちゃん逃げておくれ』そう言いました。諦めきれない私がもう一度『一緒に逃げましょう』と言うと、お祖父さんは『みっちゃん、早う逃げておくれ』と、さらに手を振りました。『お祖父さん、すいません』と叫んで、涙を流しながら逃げました。

   通りへ出ようとしたけれど、火が屏風を立て込んだように燃え盛っている。ここを抜けなければ死ぬ。空を見上げると、米兵が機銃掃射をしてくるのがはっきり見える。松山城のお堀の水に飛び込んで息を詰めました。機銃の弾が水に入って、ビシビシいう音が聞こえる。いつの間にか、飛行機が来るのが止んで、燃えている街が見えました。火の粉がキラキラキラキラ飛んで、火が街の形のままに燃え盛る。堀端に腰かけ、呆然と『ああ、美しい』って思いました。不謹慎だと思うけれど、あの風景は私が今まで見た中で一番きれいな風景です」

   このエピソードを投稿したのは、今も松山市で暮らす宮内道子さん(93)である。「怖いも悲しいも追いつかんのですよ。みな燃えてしまって」と当時を振り返った。

   米爆撃機による日本本土への本格空襲が始まったのは、米軍がマリアナ諸島に上陸して4か月後の1944年11月末だった。終戦の8月15日までの10か月間続き、日本のほぼすべての都市が焼かれた。

   武田真一キャスター「その中で、全国のすずさんたちが、一日一日を生きていくことの尊さを、今の私たちに教えてくれている気がします」

   それと同時に、すでに軍事的敗北は分かっていながら、敗北を認めず、すずさんら庶民を猛烈な空爆にさらし続けた日本人の失敗の本質とは何か。きちっと向き合う必要があることも教えてくれる。

*NHKクローズアップ現代+(2018年8月1日放送「あちこちのすずさん~庶民がつづった戦争の記録~」

文   モンブラン
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