2024年 4月 27日 (土)

首相会見で追加質問はダメ 長崎市が地元新聞に「抗議」

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   就任直後から「内容がとぼしい」と評判の良くない菅直人首相の記者会見だが、平和祈念式典参列のために訪れていた長崎市で開いた会見で、ちょっとしたトラブルが起こっていた。事前に決められた質問以外の質問をした地元新聞社と地元記者クラブに対して、会見を仕切っていた長崎市が「信頼関係を失墜させる行為」などと非難する文書を送っていたのだ。記者会見での質問をめぐって、自治体が報道機関に抗議文めいた文書を出すのは異例だ。

   問題の発端は、2010年8月9日、平和祈念式典後に長崎市内のホテルで行われた記者会見だ。制限時間は10分以内だとされており、質問は地元の市政記者クラブから1問、東京から菅首相に同行してきた内閣記者会から1問とされた。

分かりにくい首相の返答に追加質問しただけ

官邸でも、首相会見が早めに切り上げられることが増えてきた
官邸でも、首相会見が早めに切り上げられることが増えてきた

   市政記者クラブからは、読売新聞の記者が核拡散防止条約(NPT)の維持・強化に向けた取り組みについて質問。内閣記者会からは、テレビ東京の記者が、菅首相の核抑止力についての認識について、発言の「ブレ」をただした。質問は、

「広島の会見では、『核抑止力は必要だ』と発言されています。一方で今日は、『核兵器を無くするために全力で努力』と発言されています。先ほどの被爆者団体からも指摘があったように、この二つの発言は相反しているように思われます。今後核問題について、どのように世界の中でイニシアティブを取って活動をしていくお考えでしょうか」

と、至ってシンプルなものだ。だが、菅首相の返答は、きわめてあいまいで、分かりにくいものだった。要約すると、「現状は核抑止力に頼らざるを得ないが、究極的には核兵器のない世界を目指したい」ということのようだが、あえて全文書き起こすと、以下のようなものだった。

「『核兵器をなくす』あるいは『核兵器のない世界を目指す』ということと、そうなれば核抑止力は必要なくなりますから、そういう意味で核抑止力を必要としないような、核兵器のない世界を作りたいと、こういうことを申し上げているわけです。現状は、残念ながら、まだそういう状況にはなっておりません。もちろん我が国自身は非核三原則の原則を守っていきますから。あー、ただ、あのー、北朝鮮の核開発を含めてですね、残念ながら現在は世界から核がなくなるという状況にはそれを実現していませんので、そういった意味で、残念ながら、まだ核抑止力が一切、それに…、なんて言いましょうか。あのー、頼らないで済む、そういう世界を目指すけれども、まだそれに至っていない中ではですね、そうした、必要性は将来なくしていきたいとは思いますが、現在は、あのー、そういうことを考えざるを得ないという、こういう趣旨で申し上げました」

   これに対して、長崎新聞の記者が

「総理、長崎新聞ですけれども、非核三原則の法制化というのは、菅総理の政権下ではやらないということでしょうか」

と質問。菅首相は

「非核三原則の法制化については、あのー、まだ私も政権を担当して2か月ですので、これからそういう、これまでの経緯を含めた議論を含めてですね、私なりに検討してみたいと思っています」

と、やはりあいまいな返答に終始した。菅首相が席を立とうとする中、記者が

「可能性はあるということですか」

と突っ込むと、菅首相は苦笑いしながら

「ですから、私なりに検討してみたいということは検討した中で判断したいということです」

と、同様の言葉を繰り返し、会見場をあとにした。

首相官邸からの「圧力」があった?

   記者が質問したことに正面から答えなかったり、返答が曖昧だったりした場合、その場で追加質問が飛び出すのは、記者会見の場では一般的なことだ。さらに、この質問をした記者が8月14日の長崎新聞のコラム「記者ノート2010」で記したところによると、予定されていた2問目の質問に対する返答が終わった時点で「残り時間はまだ4分以上あった」という。

   にもかかわらず、このやり取りをめぐって、長崎市は8月11日、「被爆65周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典後の内閣総理大臣記者会見等における取材方法について(要請)」と題した文書を、長崎新聞社と市政記者クラブに出した。内容は、

「信頼関係を失墜させる行為であり、誠に遺憾」
「円滑な運営・進行の妨げとなるような行為は一切行わないよう強く要請します」

などと、事実上の抗議文で、記者会見の進行について自治体がこのような文書を出すのは異例だ。

   長崎市の広報広聴課では、文書を出した経緯について、

「事前に『取材要領』を配布して、(地元)記者クラブからの質問は1問だと明記していた。にもかわらず、会見の進行が滞ったことを受けての措置」

と説明。文書は、あくまでも市の判断で出したとの立場だ。だが、同課によると、会見が行われた8月9日、首相官邸から長崎市に対して

「(地元からの)質問は1問だということは、きちんと話が通っているのか」

という趣旨の確認の電話があったという。これに対して、長崎市は

「文書を出して周知徹底する」

などと回答。その結果出されたのが、前出の文書だ。一連の経緯を、「官邸の無言の圧力」ととらえるか「長崎市の過剰反応」ととらえるかどうかは、見方が分かれそうだ。ただ、過去数回の首相会見は、予定の時間を数分間残して打ち切られている。今回の出来事で、官邸側が記者会見での対応に神経質になっていることが浮き彫りになったとは言えそうだ。

   なお、長崎新聞社の森永玲報道部長は

「そもそも、そんなことを言われる筋合いはないので、特に反応はしていません。事前に規定された以外の質問が出たぐらいで、このような反応があったことに、逆に驚いています」

と、文書を事実上無視する構えだ。

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