2024年 4月 19日 (金)

円安なのになぜ輸出増えない 貿易赤字、最長記録を更新中

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   円安が進み、2014年9月9日には約5年11か月ぶりに1ドル=106円台をつけた。このアベノミクス最大の成果とされる円安。だが、貿易赤字は実に25か月連続という最長記録を更新中だ。

   今年上半期(1~6月)の赤字は7兆5000億円と前年同期の約1.6倍に膨らみ、7月も1兆円近い高水準が続く。様々な構造的要因が赤字を減りにくくし、また増やす要因として働いているとされ、赤字基調が続くとの見方が一般的だ。

教科書通りにならない

「教科書通り」にならないのはなぜ(画像はイメージ)
「教科書通り」にならないのはなぜ(画像はイメージ)

   財務省のまとめでは、7月の貿易収支は9639億円の赤字で、前年同月から6.6%減ったが、依然高水準。赤字が2年以上も続くのは、原発停止に伴う液化天然ガス(LNG)などなどの輸入が増加している一方、輸出は円安にもかかわらず低迷している、という両面から説明される。

   まず輸入。1~6月の輸入は前年同期比10%増の42兆6500億円と、上期として過去最高だった。LNGが前年同期比11.6%増、原粗油が同5.1%増と増えたのが目立つが、それだけではない。例えば輸出を支えてきた自動車産業でも、自動車部品の輸入が同29%も増えている。「円高を経て自動車メーカーが海外からの安い部品調達に切り替え、円安になっても元には戻らない」(シンクタンク)といい、震災前の2010年上期からは1.7倍に増えている。

   生鮮野菜も、今年上期の輸入は前年比8%増えた。日本農業の供給力が10年で5%減少し、外食産業などは国産品だけで必要な量を確保できない状況で、「中国の食肉の使用期限偽装などがあっても、海外依存の流れは変わらない」(同)とみられる。

   他方、輸出は上半期に同3.2%増の32兆500億円と、輸入の伸びを下回った。7月は5、6月の前年割れから3か月ぶりに増加に転じたものの、水準は低い。

   円安になると国内で作った製品の円建て価格は同じでも、円安の分、海外で安く売ることができるので競争力が増して数が売れるようになり、輸出が増える――という理屈だが、今回、教科書通りにならないのはなぜか。

日本企業の収益にはプラス

   2013年の輸出価格は、2012年に比べて、円ベースで11.6%上昇し、契約通貨(ドルなど)建てでは1.9%下落している。一方、輸入価格は円ベースで14.5%上昇したが、契約通貨ベースでは1.7%下落している。

   輸入は円安で為替変動に連動して膨らむ一方、輸出は為替変動が現地通貨建て価格に反映していない、つまり、日本企業は円安でもほとんど契約通貨建ての輸出価格を引き下げなかったということだ。

   だから、契約通貨建て価格下落→輸出量の増加という流れは起きず、輸出が低迷から脱せられないのだ。円安メリットは、企業の円建ての輸出の手取り増加という形で企業の収益にはプラスになっても、日本経済の拡大には貢献していないということになる。

中国向けに、製造に使う機械や部品を輸出する役回り

   円安が理屈通り輸出増に結び付かないのは、いくつかの要因が絡んでいる。第一に、自動車をはじめとする企業の海外生産シフトだ。内閣府の2013年度企業行動アンケートによると、日本メーカーの海外生産比率は20.6%(2012年度実績)と過去最高になっており、2018年度には25.5%に増える見通しという。

   こうした海外シフトは、個々の企業として「世界に打って出る」という意味で前向きなら、海外でのもうけが配当などの形で国内に還流する部分もあるので悪くないが、深刻なのは国内で作らないだけでなく海外へのシフトもしていない、国際競争に敗れた分野だ。

   電機産業が典型で、例えば携帯電話など通信機の貿易赤字は2兆円を超えていて、経済産業省の統計によると日本の情報通信機械は半分弱が輸入品になっている。まさに、競争力の劣化で輸入が膨らんでいるわけで、一度こういう状況に陥れば、巻き返すのはほぼ不可能だ。

   これを裏返してみると、日本は「世界の工場」として様々な最終製品を作る中国向けに、製造に使う機械や部品を輸出する役回りになっているということになる。実際、このところ中国向けに金属加工機械や液晶関係部品の輸出が増えている。

   もちろん、日本からは新興国で生産できない付加価値の高い製品の輸出はなくならないが、こうした製品は「為替よりも輸出先の景気の影響を受けやすい」(シンクタンク)。これも、円安でなかなか輸出が増えない一因となっている。

   赤字の大きな要因とされるLNGなど燃料輸入も、大和総研の試算では、原発停止に伴う鉱物性燃料の増加量は10%、これによる輸入額の増は年間4兆円で、貿易赤字全体(2013年11.5兆円)の半分にも満たない。

   米国の景気回復期待を背景にした早期利上げ→日米金利差の拡大の連想で、ここにきて円安・ドル高が一段と進み、ついに1ドル=106円台に突入した。期待の輸出が伸びにくい構造の中、輸入価格上昇、輸入額の膨張という円安のマイナス面が、一段と強く意識される局面に入りつつあるのかもしれない。

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