2024年 3月 29日 (金)

「主人の口座に振り込まないで!」 給与を奥さんの口座に振り込めるか

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   厚生労働省のパワハラ6類型では「個の侵害」として、上司が部下の私的なことに過度に立ち入ることを諌めている。業務に関係ないことに、会社が関わりすぎてはいけないというわけだ。

   しかし、プライベートな事柄でも、放置しておくと仕事や会社に影響が出るものもある。ある会社では、工場長の夜遊びが過ぎると奥さんに「なんとかやめさせるよう会社も協力して」と泣きつかれてしまい、人事が頭を抱えている。

「キャバクラ通いで家計は火の車。部下へのおごりもやめて」

――製造業の人事です。ある工場で工場長を務めるAさんの奥さんから、人事に電話がかかってきました。内容は「Aさんのキャバクラ中毒」についての相談です。

   Aさんは、今年春からキャバクラに通いはじめ、いまではすっかりハマってしまったようです。地元の駅近くにある数軒のキャバクラを、週に1~2度必ず回っています。

   キャバクラへは部下を何人か連れて行き、お酒を飲んで気が大きくなって、最後は会計をぜんぶ自分で引き受けてしまいます。奥さんは、こう嘆いています。

「子どももまだ小さく、私も時間を見てパートで働いているのですが、ただでさえ家計がギリギリなのに、これでは生活が持ちません。蓄えの底が見えてきているので、主人には『いい加減にお店に行くのはやめて。少なくともおごりは禁止』というのですが、耳を貸さないのです」

   そして、キャバクラ通いを阻止するために、毎月の給与を奥さんの銀行口座に振り込むよう変更をしてほしいというのです。

   もちろん労働基準法に「賃金の直接払いの原則」があるので、奥さんの要望に簡単に応えられないのは承知していますが、確か単身赴任中の給与の振込先を複数にする例はあったと思うのです。

   工場長の家庭破綻は仕事にも悪影響を及ぼすので、会社としても何か手を打ちたいのですが、どういったことが考えられるでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
本人名義の口座なら複数に分けて振り込むことができる

   賃金は、裁判所の手続によって差押えがあった場合などを除き、直接労働者本人に支払わなければならない原則があります。例外として「本人の使者として受け取りに来た者に支払うこと」が認められています。具体的には、本人が病気などで賃金を直接受け取ることができない場合、電話等で「これから妻を賃金の受け取りに行かせますので、給与を渡してください」と伝えることは認められますが、妻が夫の委任状を持って受け取りに来るとか、妻名義の銀行口座に支払うといったことはできません。

   相談者さんが書いている「給与の振込先の複数化」は、いずれも本人名義であれば問題がありません。夫が管理する口座と、夫名義で妻が管理する口座に分けて給与を支払うことは可能です(そのための事務的な手間を会社が許容するかどうかは、会社によります)。これを応用すると、Aさん本人の同意が必要ですが、給与の一部を別口座にあらかじめ退避することは考えられるのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
プライベートな行為でも会社が禁止することができる

   従業員のプライベートな行為を会社が問題視できるのは、それによって業務に支障が出ている場合や、そのリスクが相当高まった場合に限られるのが原則ですので、普通のキャバクラ通いをとがめることはできません。しかし、仕事中に居眠りをするなど問題行為があったり高額な出費が目に余るような場合には、アルコール依存やギャンブル依存と同じような一種の依存症と捉えて会社として対応することもありうると思います。この手の依存症は、横領などの二次的被害や犯罪行為につながるおそれがあるからです。

   奥さんの同意を得て、Aさんには奥さんからの相談があったことを伝え、キャバクラ通いをやめるよう注意し、会社として禁止することも可能だと思います。その上で、精神科やカウンセラーに相談し、依存症からの脱却方法を講じてもらうことも考えられます。夫婦関係の問題が原因でキャバクラに心の安定を求めていうような場合には、夫婦でカウンセリングを受けることが望ましいでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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