2024年 4月 20日 (土)

エレクトロニクス

現状

日本の半導体業界、再編完了し、業績も回復

  日本のエレクトロニクス産業のうち、代表的な半導体(セミコンダクター)業界の2002年度生産額は経済産業省によると3兆9713億円で、従業員は17万5000人だ。
半導体のうち、「DRAM」と呼ばれる汎用メモリー事業は、かつてはNEC日立製作所三菱電機富士通東芝の5社が手がけていた。しかし1999年にNECと日立が合弁でDRAMの専業会社を設立した。現社名はエルピーダメモリという。残る3社はDRAM事業から撤退した。

「フラッシュメモリー」などでも生産統合の動き

  一方、高度なデータ処理を行う「システムLSI」という半導体に関しては、日立と三菱電機が合弁会社「ルネサステクノロジ」を2003年に設立した。半導体の世界ランキングではベスト3に入る大企業だ。NECはシステムLSIなどの高付加価値の半導体部門を02年に分社化し、「NECエレクトロニクス」とした。これ以外の富士通と東芝、ソニー松下電器産業は社内の事業部でシステムLSIを生産している。富士通はこのほか、携帯電話などに使う「フラッシュメモリー」に関して、米AMDとの間で共同出資会社「FASL LLC」を設立し、フラッシュメモリーの生産を統合した。
また、ソニーと東芝、米IBMは「セル」(CELL)と呼ばれる次世代の半導体を共同開発中だ。このセルは映像処理能力で優れており、インテルが現在提供中のパソコン向け半導体を映像面では凌駕するような設計にしたい考え。セルを薄型テレビやDVDレコーダーなどのデジタル家電の中に組み込み、超高速で映像処理が行えるようにしていく方針だ。

各社とも前向きな投資に乗り出す

半導体の最新製造ライン(ルネサステクノロジの工場で)
半導体の最新製造ライン(ルネサステクノロジの工場で)

  日本の半導体業界は海外勢に押されて長く低迷が続いた。しかし抜本的な事業統合を行ったことに加えて、2003年ごろからデジタル家電向けの需要が急拡大しており、業績が回復しつつある。パソコン用メモリーとして使われるDRAMのエルピーダメモリに至っては証券市場へ上場を果たしたほどで、回復ぶりが著しい。加えて、各社は前向きな投資に乗り出している。エルピーダメモリの場合、2004年から数年間で4500-5000億円程度の設備投資を行う。デジタル家電や携帯電話に使うためのDRAMを大量生産していく方針だ。
携帯電話やハードディスク付きDVDレコーダーの内部は、半導体の塊といっていいほどで、さまざまな半導体が使われている。特に携帯電話では高度な機能が要求されているため、システムLSIも多層にパッケージングする技術や、多くの半導体を一つの部品にまとめる技術など、高度な部品作りが要求されている。

日本勢は微細加工技術の分野で強み持つ

  こうした要求に応えられるのは日本の半導体メーカーだ。きめ細かく要望を聞いた上で、微細加工技術をフルに生かし、改善を徹底的に行う。こうしてできた半導体が、携帯電話などの中で活躍しているのだ。今後、世界の半導体業界では、回路線幅がより狭い半導体の開発が進んでいく。この幅が狭ければ狭いほど、半導体が小さくできるため、各社は開発にしのぎを削っている。日本勢はこうした微細加工技術の分野で強みを持っているため、今後の競争を有利に展開できるとの見方が一般的になっている。

自動車分野など新たな市場開拓に向かう

  一方、日本の半導体メーカーは、従来から需要が多かった家電分野だけでなく、自動車分野などの新たな市場を開拓しようとしている。自動車分野では近年、エンジンやタイヤなどを制御するために半導体が大量に使われている。ルネサステクノロジなどはこうした状況を好機ととらえ、自動車向け半導体の拡販をねらっている。高温にも耐える品質が必要であることから、日本メーカーにも十分に出番があるとみられている。 また、微細な電子部品の需要も今後増えそうだ。日立製作所は最小で0・3ミリ角のICチップ「ミューチップ」を開発した。これは「ICタグ」(電子荷札)と呼ばれている。これをさまざまな商品に取り付けることにより、商品の流通履歴を把握することができるようになる。

歴史

テレビの普及で部品メーカー急成長する

Junk shops of DVD
Junk shops of DVD

  日本のエレクトロニクス産業は、はじめにラジオやテレビの人気により火がついた格好だ。戦中戦後はラジオの需要が拡大し、1964年の東京オリンピックではカラーテレビの需要が急増。これに伴い、内部で使うエレクトロニクス部品の産業が急成長したのだった。 ラジオやテレビには大量の電子部品が必要となる。こうした部品には半導体のほか、半導体素子やコンデンサーなど、さまざまな部品が必要となる。こうした部品を作っている京セラTDK村田製作所などは優良企業として知られている。時には最終製品を作っているソニーや松下などのいわゆる「セットメーカー」よりも多い利益を出している。ただ、最近では国内の労働力のコストが海外に比べて割高になっていることから、中国など外国に生産工場を作って活路を見いだす企業が多い。

90年代半ばに世界市場の約4分の1を占める

  かつては大手電気各社が手がけて群雄割拠の状況にあった日本の半導体事業は、世界のベスト10のうち、5社がランキングするほどで、日本メーカーの売上高合計額は90年代半ばには世界市場の約4分の1を占めるほどであった。しかし、韓国のサムスン電子などアジア勢などの追撃を受け、事業は衰退。事業統合や撤退の動きが相次ぎ、現在ではかなり整理された形になっている。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
徹底的コストの低減できるか

  特にDRAM業界では韓国サムスン電子を筆頭として、世界的に有名な企業がいくつもあり、アジア拠点などを使って徹底的な低コスト製品を出している。これに日本のエルピーダメモリが対抗するためには、規模を拡大して量産効果を出すなど、徹底的なコストの低減が必要となる。システムLSIの会社でも同じことがいえる。海外に比べて割高といわれる間接費の削減も急務だ。また、コストの低減を通じて、利益率の改善を行うことも不可欠になる。

ポイント2
国家的プロジェクト運営で国内勢の結束保てるか

DVDのジャンクショップ
DVDのジャンクショップ

  海外勢がコスト面での優位性を出している中、日本勢はコストだけでなく技術的な面でも十分対抗できることを強調していく必要がある。現在、経済産業省が主導している国家的半導体開発事業「MIRAIプロジェクト」や、半導体の知的財産を有効に活用するための「ASPLAプロジェクト」などが行われている。国内勢が結束し、こうしたプロジェクトを実効性のあるものにしていく必要があるだろう。

ポイント3
海外への販路拡大できるか

  日本の半導体メーカーは国内では圧倒的な強さを発揮しているが、海外への販売は遅れている。米国では今後、デジタル家電の販売が増加する一方、自動車へのシステムLSIの採用が拡大するのは必至である。日本の半導体メーカーは、こうした面で世界市場に一定の存在感を示していく必要がある。

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