2024年 4月 18日 (木)

医療業界

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現状

少子高齢化のあおりで国内市場は飽和へ

  日本製薬工業協会東京証券取引所に上場する製薬29社を対象にした調査によると、バブル崩壊後の過去10年において、他産業の売り上げや利益が大きくマイナス成長を余儀なくされるなかで、製薬業界だけは売上高の伸び率は2%、平均営業利益の伸び率も5%成長という比較的高めの成長を維持することができた。

  しかし国内市場に限って言えば、マーケットは次第に飽和状態に向かいつつある。現在の日本は少子高齢化にともなって、医療保険制度が破綻の危機に直面している。そのために、日本政府は2年に1度の割合で薬価の引き下げを実施するなどして、医療費つまり医薬品への支出額を全体として抑制しようとしているからだ。

医薬品の大量投与にブレーキ

  難しい手術や先進的な治療を行う「特定機能病院」である82の病院に対して、2003年4月から、包括評価制度が導入された。同制度は一般病棟の入院患者の診療報酬について、1日当たりの報酬を「定額」で支払うと言うものだ。従来の「出来高」払い制度では、診療行為ごとに所定の診療報酬が支払われ、使用した医薬品の金額も使用された量だけ青天井で医療機関へ支払われた。しかし包括評価制度では、医療機関はあらかじめ定額の枠が課せられる。そのため、その予算制約の中でやりくりしなければならず、医薬品の使用に対してもおのずとブレーキがかかるようになった。

大手製薬会社は輸出ドライブかける

築地の国立がんセンター中央病院 
築地の国立がんセンター中央病院 

  一方、国内市場の成長の行き詰まり対策として、1990年代末頃から、一部の大手製薬会社は輸出拡大に動き始めている。輸出比率が10%を超えているのは、武田薬品工業エーザイなど6社に及ぶ。日本からの薬の輸出高に占めるこの6社のシェアは、この10年間で7割から実に9割まで上昇している。国内市場が伸び悩むなかで、海外展開できる販売網と開発力を持つ大手企業と中堅企業との格差が徐々に広がりつつある。

歴史

米国に次ぐ世界第2の市場

  日本の医薬品市場は、米国について世界第2の市場である。米国市場は05年まで年率11%強の高い成長が見込まれているのに対して、日本市場では年率2%強の低成長が続くと予想されている。日本の医薬品には、医師の診断が必要な医療用医薬品と、処方箋なしに誰でも自由に薬局で購入することができる大衆薬と呼ばれる一般用医薬品がある。このうち、医療用医薬品が、全医薬品の9割を占める。
武田薬品工業、三共、山之内製薬など大手製薬会社の多くは、医療用医薬品を中心に製造・販売しているが、大衆薬も一部で手がけている。  しかし、大衆薬は市場が比較的小さく、一般消費者への広告宣伝費用がかさむことから、収益性が低く、その多くが赤字だと見られている。
大正製薬のように大衆薬を中心に事業を展開して高い収益を上げている大手の製薬企業もあるが、大衆薬中心の製薬企業は中堅以下の会社が多くを占める。大衆薬の最大手は大正製薬で、2位はエスエス製薬である。大正製薬はドリンク剤で4割のシェア、総合感冒薬で3割弱のシェアを誇る最大手である。大衆薬の大手企業には、大正製薬のようにドリンク剤や総合感冒薬で高い実績を上げている大手が多い。

制度改革の柱は薬価改定と医薬分業

   国内の医薬品市場は90年以降、低成長が続いている。それは政府が、増大する一方の医療費の負担を抑えるために、医療制度の改革を進めているからだ。医療制度の改革に柱は、薬価改定と医薬分業の2つである。
 薬価改定とは、薬の公定価格を見直して、実勢の市場価格に近づけることを指す。これまでは、製薬会社が公定の薬価より低い価格で病院などに薬を販売し、病院はそれより割高の公定の薬価で国に診療費を請求する。その結果、その薬価と実勢価格の差額(薬価差)が病院などの利益になってきた。これは裏を返せば、保険組合や国が過剰な医療費を支払っていうことを意味する。
  国の財政赤字が大きく膨らんでいる現在、そんなムダを続けている余裕はない。 そして政府が打ち出した対策は、二つ。1.原則として2年に1度、薬価を実勢価格にできるだけ近づける改定(値下げ)を行うことと、2.薬漬けの診療を排除するために医薬分業を進めるということだ。

医療用を中心に再編の動きが活発に

全薬工業の工場でフィルム梱包される風邪薬
全薬工業の工場でフィルム梱包される風邪薬

  医薬分業とは、患者の治療と処方箋は病院に任せ、薬の販売は薬局が行うという分業化を進めようというものだ。病院経営から薬販売の利益を切り離すことで、医師は診療に徹底させて、患者への薬の過剰投与にブレーキをかけることを狙ったものだ。
 その結果、医療用医薬品を扱う国内企業を中心に、再編の動きが活発になっている。三菱東京製薬とウェルファイドは2001年10月に合併し、三菱ウェルファーマとなった。中外製薬はロシュ(スイス)の日本子会社である日本ロシュと2002年10月に合併、第一製薬は酒類・飲料業界の大手サントリーの医薬品事業を買収した。大衆薬の最大手である大正製薬は、2001年に田辺製薬との経営統合を発表したが、その後、白紙撤回する結果となった。しかし、2002年8月には富山化学工業と包括提携、2003年4月には医療用医薬品の販売を統合した。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
新薬開発の大きなリスク

 今後の医薬品業界を占うキーポイントは、再編、分業化、外資買収の3つである。
まず、業界の再編の動きが加速することが予想される。医療制度の改革は、医薬品業界に大きな影響を与えている。医療費(薬剤費)を抑制しようとする国の政策は、医薬品市場の伸び悩みに直結している。 そこで大手の製薬会社では、冒頭でも触れたように、新薬の開発に力を入れる一方で、米国など海外への進出を積極的に進めることが課題になっている。

医薬分業が確立し、患者に薬を販売するのは病院ではなく、薬局にゆだねられている
医薬分業が確立し、患者に薬を販売するのは病院ではなく、薬局にゆだねられている

  相次ぐ薬価改定が製薬会社の利益が大きく減少させる原因になっていることは、すでに紹介した。製薬会社が利益を高めるには、画期的な新薬の開発を進めることが急務となっている。画期的な新薬は、発売後、時間を経た製品に比べて、薬価が高くなるからだ。
  しかし新薬の開発には、膨大な研究開発費が必要とされる。しかし、それだけの資金と投入したからと言って、有望な新薬を開発できるとは限らない。大きなリスクを抱えるビジネスとなっている。一説には、新薬の開発においては実際に発売にこぎつけられるのは、6000分の1の確率と言われ、1つの新薬を発売するまでに10年以上の歳月と150億~200億円の費用がかかるとも言われている。

大型合併で2強時代突入か

  また、せっかく膨大な資金を投入して新薬の発売までこぎつけることができたとしても、20年間の特許期間が切れてしまえば、独占的な製造・販売ができなくなり、収益性は大幅に低下してしまう可能性がある。
 そのため、膨大な研究開発の負担を軽減するため、世界的な規模で業界再編が進んでいるが、日本の製薬会社も再編のうねりとは無縁では済まされなくなっている。有力な製薬会社同士の合併によって、経営規模が拡大すれば、新薬の開発負担が相対的に軽減されるからだ。

  2003年に米国のファルマシアを吸収した新生のファイザー(米国)の医療品の売上高は400億㌦以上に達する。これは国内首位である武田薬品工業の6倍弱の規模だ。
  しかし、国内でも売り上げで業界3位の山之内製薬と5位の藤沢薬品工業が05年4月に経営統合をすることをすでに発表している。もしこの大型合併が実現すれば、武田薬品工業に肉薄する国内第2位の企業が誕生する。こうした勝ち組同士の大型合併を機に、これまで立ち遅れていた国内の製薬業界の再編も一気に加速する可能性がある。

ポイント2
研究開発と生産の分業体制

  こうした業界再編をきっかけにして、業界内での分業化が進むことになろう。02年7月に薬事法が改正されて、医薬品の製造承認制度の見直しが行われた。従来は、新薬の開発会社は、自社の工場で製造すること(少なくも製造工程の1つは自社で受け持つこと)が義務付けられていた。改正後は自社で開発した新薬でも、製造をすべて他社に委託することが可能になった。
 その結果、大手製薬会社の中では、新薬の開発に経営資源を集中させ、生産を丸ごと外部に委託する動きが出ている。一方、中堅クラスの製薬会社の中には、新薬の開発は一切行わず、こうした受託生産に特化しようとする動きも出てきている。研究開発と生産の分業化である。

ポイント3
欧州勢の日本攻勢

 仏アベンティス、英グラクソスミスクライン独ベーリンガーインゲルハイムなど欧州の大手製薬各社が日本市場で新薬攻勢をかけてきている。生活習慣病や中枢神経系の病気など市場拡大を見込める分野に焦点を当てて、販売品目を増やしている。
 日本は米国に次ぐ世界第2の市場であり、欧州各社のシェアはまだ低く開拓の余地は十分だ。すでに米国の最大手であるファイザーが日本での事業展開を積極化させているほか、ロシュが中外製薬を傘下におさめた。この結果、外資のシェアは3割を超えている。こうした日本市場をめぐる日米欧企業の激突は、日本製薬業界の再編にさらに拍車をかけることは間違いない。

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