日産自動車がトヨタ、ホンダに対する環境技術の遅れを取り戻す決意を固めたようだ。06年12月11日に発表した「ニッサン・グリーン・プログラム2010」では、2010年度を目標に自社開発の後輪駆動(FR)ハイブリッド車(HV)の北米・国内発売、100キロメートルを3リットルのガソリンで走る「3リッターカー」の国内投入、次期排ガス規制をクリアするクリーンディーゼル車の国内・北米中国での発売など、意欲的な二酸化炭素(CO2)排出削減対策を打ち出した。徹底した収益志向で業界トップクラスの利益率をあげながら、次世代技術の仕込みが不十分と見られがちな日産が世評を覆せるかは、今後世に出す商品の出来にかかってくる。コストに優先順位を置く保守的な技術アプローチだった「ニッサン・グリーン・プログラム2010」を発表する志賀俊之COO「研究開発投資はルノー分も考慮すれば決して劣っていない」「これまではコミュニケーションに問題があった」―日産のグローバル環境委員会議長を務める志賀俊之COO(最高執行責任者)は日本の”ビッグスリー”のライバルであるトヨタ、ホンダに対して環境技術で出遅れている、との見方をやんわりと否定した。しかし現実にトヨタ、ホンダが圧倒的な勢いで研究開発を行い、しかも重要な点は投資リスクを冒して量産に踏み切ってきたのは明らかだ。トヨタとホンダは90年代からHVを市販し次世代ディーゼルも開発と量産を視野に入れている。ガソリンエンジンでトヨタは吸気管内に燃料を噴射する「ポート噴射」と、高圧燃料を燃焼室内に直接噴射する「筒内直接噴射」を併用する「D4S」をレクサスで実用化した。ホンダは高度なバルブコントロールが可能な進化型VTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)を投入する。これに対しルノーと提携後の日産は摩擦抵抗を減らした新型エンジン、燃費を改善するCVT(無段変速)など地味な従来技術の積み上げに重きを置く姿勢を貫いてきた。コストに優先順位を置く保守的な技術アプローチの背景には業界最高水準の利益率を保つというコミットメントがあったと見られる。象徴的なのは02年9月の歴史的な共同会見。米国カリフォルニア州の規制対応の必要に迫られ、HVシステムをトヨタから調達することにしたのは、再建過程とはいえ日産技術陣のプライドをトップマネジメントが押し切った大きな決断だった。2050年に新車のCO2排出量を70%削減するそんな収益第一の日産がコストとリスクをかけて環境技術の強化に本腰を入れるのはなぜか。環境性能、とりわけCO2排出削減につながる燃費性能が自動車会社の避けて通れない優先度第一の課題になると判断したことが大きい。志賀COOは「Q(品質)C(コスト)T(時間)にCO2を日産のマネジメントウェイに加える」と話す。QCTまたはQCD(デリバリー=納期)はメーカーが重視する3要素。これにCO2を合わせ「QCT・C」にするというわけだ。「ニッサン・グリーン・プログラム2010」は究極のゴールを「日産の企業活動と日産車の使用過程から生じる環境負荷を自然が吸収可能なレベルに抑える」とし、2050年に新車のCO2排出量を70%削減する必要があると想定。内燃機関(ガソリン・ディーゼル)の燃費向上とHV、EV、FCVなど電動車両の普及が具体策となる。CO2排出削減に日産のパートナーであるルノーの技術がどれだけ寄与するか。電動車両技術を持たず、ディーゼルの評価も高いとはいえない。「すべての技術が成功を収めるわけではない。しかしニーズがどこに発生するか分からない。だからこそすべての技術開発に着手しなければならない」(カルロス・ゴーン社長)。厳しい環境技術競争において、ますます日産の奮起が求められることになるだろう。とくに、研究開発から量産に移行する際にはケタ違いの投資が必要になる。ここで新技術が見捨てられる現象は「死の谷」と呼ばれる。経営陣が死の谷を越える決断をするかが次世代商品の革新性に大きく影響してくる。
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