高級料亭「船場吉兆」が牛肉や菓子・総菜の産地を偽装していた問題で、同社は改善報告書を提出、初めて幹部らに偽装の認識があったことを認めた。だが、記者会見に臨んだ長男の湯木喜久郎取締役(45)は、報道陣からの質問に対して返答に窮する場面になると、そのたびに、母親でもある佐知子取締役(70)が助け舟や指示を出し、それを「オウム返し」にしゃべるだけ。いわば「マザコン会見」の様相を呈していた。偽装は会社側に責任があったことを認める船場吉兆のウェブサイトでは「経営陣を刷新する」とうたっている船場吉兆は2007年12月10日、一連の食品偽装について、会社の責任を認める改善報告書を農林水産省近畿農政局に提出した。この報告書で新たに27品目の偽装が発覚し、これまでの問題とあわせると、偽装していた品目数は実に44にのぼる。従来同社は、一貫して「偽装は現場の担当者が勝手にやったこと」との立場をとり続けてきた。例えば、同社が運営する「吉兆天神フードパーク」で菓子の消費期限や賞味期限を偽装していたことについては、「パートの女性が勝手にやった」と主張。一方のパート側は異例の会見を開き、会社側の指示があったと反論したが、それでも会社側は主張を変えることはなかった。また、同社がブロイラーを地鶏と表記して販売していたことについては、仕入れ元の鶏肉店に責任転嫁。会見で店名を名指しして「裏切られた」とまで言い放った。ところが、同日開かれた会見では、これまでの主張を覆したのだ。「従業員の独断、判断はあったんですか?」との記者の質問に、佐知子取締役が「ございません」と答え、「一切なかったんですか?」との確認にも「はい」と断言し、偽装は会社側に責任があったことを認めた。佐知子取締役と、その長男の喜久郎取締役が、約40秒間も頭を下げ続けた。会見では、佐知子取締役は質問に即答していたのに対し、喜久郎取締役は、言葉に詰まる場面も多く、佐知子取締役が助け船を出す場面もしばしばだった。特に「助け船」が多かったのは、同社が顧客を欺く意図があったかどうかについて詰問された時だ。例えば、こんな具合だ。記者が「お客様を欺くという意識はなかったということでよろしいですか?」と聞くと、横から「なかった、ないよ」との佐知子取締役のつぶやき声が聞こえ、これを受けて喜久郎取締役が「結果的に欺くことになって申し訳なく…」と力なく発言。さらに記者が「結果的に欺くことになったのは分かってるんですが、その時点で欺くということに意識があったかどうかを聞いてるんです」と突っ込むと、喜久郎取締役は「ございませんでした。もうしわけございませんでした」と応じ、佐知子取締役も「ない、ない」と、納得した様子。さらに記者が「九州産の牛肉を仕入れて、但馬牛という名前で売ることに、欺くという意識がなかったわけですね??」と念を押すと、佐知子取締役が「ないですー。ないですー」とつぶやくが、喜久郎取締役は「申し訳ございません」と答えるのが精一杯だった。佐知子取締役は、改めて「はい、ないですー。ないですー」と頷いていた。また、「大きい声で、目を見て」「しっかり言わんかい」などと檄を飛ばす場面もあった。「頭が真っ白になっていて」と母親の指示のままさらに、喜久郎取締役の「操り人形ぶり」が露見する場面もあった。これまでの説明を覆した理由を質され、喜久郎取締役が言葉に詰まると、佐知子取締役から「頭が真っ白で、頭が真っ白で…。(数秒の空白)頭が真っ白になっていて、頭が真っ白に…」との声。その直後に、喜久郎取締役は「はい、あのー、初めてのこういう記者会見という経験でございまして、あのー、まぁ頭が真っ白になっていたといいましょうか…」と、本来は自分の話すべき場で、母親の言葉をまさに「オウム返し」してみせたのだ。また、今回の不祥事で、佐知子取締役の夫である正徳社長(74)、喜久郎取締役、その弟の尚治取締役(39の3人は引責辞任する一方で、佐知子取締役自身は残留を表明。「佐知子さんは取締役を辞めないんですか」と聞かれると、喜久郎取締役への質問はよく理解できていたにもかかわらず、奇妙なことに「ちょっと耳が遠いんで聞こえないんですけども…」と返答。臨席した弁護士から質問内容を耳打ちされて、やっと「本来なら退任しないといけませんけども、現状を踏まえた場合、皆様のお許しがいただけるならば、残らせていただいて、なんとか再生させていただきたいと思っています」と、続投の意図を説明した。佐知子取締役は、創業者である故・湯木貞一氏の3女。父への思いについて聞かれると、「父に対して申し訳ないという気持ちでいっぱいでございます。『お前はなんてひどいことをしたんや』と言うて叱られると思います」と涙を流した。涙を流して詫びる対象は消費者ではなく父親、と取られかねない。これで消費者の「お許し」がもらえのだろうか。
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