2024年 4月 20日 (土)

ポスト福井の日銀総裁人事 「武藤後継優先」で利上げを断念

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「金融政策を舵取りするコックピットから見ると、2007年は夏以降、視界不良、乱気流気味の操縦を余儀なくされた」

日銀の福井俊彦総裁は2007年末の政策決定会合後の会見でこう述べ、同年3月以降、追加利上げを行えなかった無念さをにじませた07年夏以降、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が深刻化し、証券化市場など欧米の信用市場を麻痺させ、シティバンクなど大手金融機関に不良債権問題を発生させたうえ、米経済の失速懸念を生み、日銀の追加利上げを封じた。だが、福井総裁の言葉にはそれ以外にも言外に政治的な要因から自らの任期切れとなる08年3月までの"花道利上げ"を完全に諦めたことから来る一種の無力感が漂った。

OBの擁立工作一切行わず「次の次の総裁」狙い

次期総裁には誰が選ばれるのか
次期総裁には誰が選ばれるのか

   政治的要因とはズバリ日銀にとって最重要事項であるポスト福井の総裁人事の行方だ。日銀法の規定では正副総裁は衆参両院の同意を経て内閣が任命する。だが、衆参両院での与野党のねじれ状況の中、年明け後も人事の先行きは不透明なまま。平時なら財務省大物次官出身で03年春の前回人事決定時から、次期総裁含みが政府(当時の小泉政権)と暗黙の了解となっていた武藤敏郎副総裁の昇格が順当だが、金融界や財界、学界など外部からの起用説が消えず、実際、植田和男・東大大学院教授や三木繁光・三菱東京UFJ銀行会長、氏家純一・野村ホールディングス会長らの名前が取りざたされている。

   武藤総裁実現は、日銀にとって「過去の財務省(旧大蔵省)次官OBと日銀生え抜きによる総裁タスキ掛け人事の復活とは言え、安倍前政権誕生で、一時、竹中平蔵元総務相の次期日銀総裁就任説が高まったように、外部のおかしな人材」を押し付けられて組織をかき回されるよりははるかに好都合」(幹部)。だからこそ、ポスト福井で日銀はあえて山口泰前副総裁らOBの擁立工作を一切行わず、財務省とともに武藤氏昇格で一枚岩に徹してきた。むしろ今回の人事で日銀は副総裁職にプロパーを充て、「次の次の総裁」の席を予約することを目指している。

   そんな重要な局面だけに、政治との関係には最大限配慮せざるを得ず、野党・民主党の出方が定まらない以上、日銀としては与党の福田政権を頼りにせざるを得ないのだ。このため、日銀はサブプライム問題が表面化した直後の9月以降、口では早期の追加利上げを探る姿勢を強調しながら、現実には利上げによる金融政策の正常化路線の一時棚上げを模索する"二枚腰"の姿勢を取ってきた。日銀の金融政策の独立性にこだわって、政治の怒りを買えば、次期総裁人事というお家の一大事で取り返しが付かないしっぺ返しを受けかねないという思惑からだ。

武藤総裁実現でも「政治に大きな借りを作ることになる」

   そんな中、強気でなる福井総裁だけは秋以降も何とか追加利上げを行えないか、「ナローパス(隘路)」を密かに探っていた節がある。実は日銀法では総裁の再任も可能で、デフレ退治に注力し、金融政策で大きな失点のない福井氏は制度上、今回の任期切れで辞める必要は必ずしも無く、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長のように長期にわたり金融界の"法皇"の地位に居続けることも可能だったのだ。実際、官僚天下り批判から武藤氏昇格に難色を示しつつ、具体的な人選に頭を悩ます野党・民主党側からは「福井氏再任が出来れば、最も好都合だったが……」との声も漏れている。

   また、財務省との関係で再任が実現しない場合も、本来なら次期総裁人事に関して発言力を行使できる立場にあるはずで、金融正常化を名目とした追加利上げと武藤氏の総裁昇格の両立を図れる可能性もあった。しかし、村上ファンドへの投資問題が仇となり、福井氏は現実には総裁再任はおろか「日銀次期総裁選定への発言権もほとんど無い」(与党幹部)。福井総裁が07年末に「花道利上げ」を早々とギブアップせざるを得ない状況に追い込まれたのにはそんな背景もある。

   政策より人事・組織防衛を優先するのが中央官僚の常とは言え、現在の日銀は金融政策の独立性へのこだわりはあまりに淡白。武藤総裁が実現したらしたで、「政治に大きな借りを作ることになり、その面でも金融政策が縛られるのは必至」(内閣府幹部)と見られるだけに、金融正常化は遠のくばかりだ。

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