2024年 4月 18日 (木)

日本人の精神構造の変化が モノ売れない時代つくった
インタビュー「消費崩壊 若者はなぜモノを買わないのか」第2回/精神科医・和田秀樹氏に聞く

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   「周りの人が買わないから、自分も買わない」。こんな人たちが近年の日本には増えていると、精神科医の和田秀樹氏は指摘する。ひたすら周囲に自分を合わせようとする「統合失調症」の傾向を持った人が増加したためだ。

   これは国が豊かになり、「周りと同じようにしていてもそれなりに幸せになれる」と日本人が思うようになったことが原因だ。このような精神構造の人は、消費に向かわせる「仕掛け」をしない限りこれからもモノを買わないだろうと、和田氏は警告する。

他人がユニクロ買えば自分はブランド買わない

日本人の精神構造が変化したという和田氏
日本人の精神構造が変化したという和田氏

――「モノが売れない」と最近よく言われます。日本人がモノを買わなくなったのは、以前と比べて精神構造に何か変化が生じたのでしょうか。

和田 ご質問にお答えする前に、日本人の性格の傾向をお話ししましょう。どの先進国でも共通していますが、原因がはっきりしない精神病である「内因性精神病」は2種類しかありません。ひとつは「シゾフレニア」、つまり統合失調症で、もうひとつは「メランコリー」、すなわちうつ病です。統合失調症になると、他人が気になって誰かに嫌われたり無視されたりするのを恐れ、ひどくなると「みんなが悪口を言う」「私は誰かに狙われている」と妄想するようになります。一方、うつ病は、自分が悪いと強く責めたり、重い病気にかかっていると思い込んだりします。
   私は、精神状態が正常な人でもある程度、統合失調症あるいはうつ病の傾向があると考え、人間の性格傾向はいずれかに分類できると仮説を立てました。そのうえで、前者を「シゾフレ人間」、後者を「メランコ人間」と名づけたのです。私が観察したところ、日本は、1955年より前の世代はメランコ人間が多いのですが、徐々に両方が混じっていき、1965年生まれ以降はシゾフレ人間が多くなってきました。

――シゾフレ人間の増加と、モノが売れないことにどのような因果関係があるのでしょう。

和田 シゾフレ人間は、とにかく周りのことが気になります。主体性がなく、ブームに流されやすい。みんなと同じでいたいので、今日のように周囲の人が買い物を手控えると、自分も同じように買わなくなる、というわけです。ほかの人がユニクロの服を買っている時に、自分だけ高級ブランド店に行こうとは思いません。ブランド品を持って周りから「浮く」ことが耐えられませんからね。
   逆に、周りが買えば自分も買うことになります。60年代後半以降に生まれた「シゾフレ」が20~30代に成長した90年代は、音楽で売り上げ100万枚以上の「ミリオンセラー」が続出しました。ヒット曲がさらに売れる「メガヒット」が顕著になります。それ以前は、100万枚を売り上げるのは珍しいことでしたし、山口百恵ですらミリオンセラーはありませんでした。

――ただ、90年代と今とを比べると、今の方がモノは売れていないのではないでしょうか。90年代も若者のシゾフレ化が進んでいたと思いますが、どう違うのでしょう。

和田 繰り返しになりますが、シゾフレの特徴は「周りにあわせる」です。いわゆるバブル景気の頃は、周りがモノを買うから自分も買い、高価なブランド品にも無理して手を出していたのです。
   今日では、40代半ばより若い世代は「シゾフレ多数派」で、日本社会全体でもマジョリティーになりつつあります。日本に限らず海外でも、国が豊かになればシゾフレ化は進みます。周りと同じようにしていれば食べていけるのですから、わざわざ「他人と違うことをしよう」と思わなくなるからです。一方、昔の日本に「メランコ人間」が多かったのは、国自体が貧しくて競争に勝たないと食べていけないような社会だったからだと考えられます。

「消費が美徳」と教育できるかがカギ

――では、メランコ人間に消費をけん引してもらうことは可能でしょうか。

和田 メランコ人間は、生真面目で頑張りすぎるほど働く一方、自分の価値観にこだわって他人と一緒を嫌がります。周りを気にせず、ブームにも影響されにくいのです。
   おっしゃるように本来であれば、たとえ周囲がモノを買わなくても自分が欲しいと思えばお金を使うメランコ人間の購買行動には期待できるでしょう。多くのシゾフレ人間がモノを買わない方向に傾いている今日でも、メランコ人間の性格であれば惑わされないはずです。ところが、メランコ人間は現実的・理論的でもあるため、今日の不況や年金問題など社会保障への不安から、今後の人生設計を考えて出費を抑え貯蓄に走っていると思われます。

――そうなると、やはり今後増えていくシゾフレの人たちを消費に向かわせることが重要だと思いますが、方策はありますか。

和田 「個人消費を増やす」ための施策として、私の提案は2つです。ひとつは、「お金を使った方が得」と思わせるような税制に変えること。例えば、サラリーマンの所得税率を引き上げる代わりに「必要経費」を認めてはどうでしょうか。所得税率が2倍になるけれど、食費や家賃など生活費にかかわる支払いも、きちんとした領収書さえ出せば経費として所得から差し引きます。お金を残しておけば高い税率がかかってしまいますから、「使ったほうがマシ」という心理がはたらくのではないでしょうか。これは、多額の財産を子どもに残そうとする傾向にある日本の「お金持ち」も、消費に向かうきっかけになるのではと思います。

――もうひとつは何ですか。

和田 教育です。昔は貯蓄や生産が美徳でしたが、「消費が美徳」という教育に切り替えるのです。シゾフレ人間は、周りがお金を使い出せば自分も同じ行動をとりますから、「みんながお金を使わないと国はどんどん寂れていく」と教育し、理解させる。

――しかし、昔から日本は節約や「清貧」をよしとしてきましたから、その考え方を180度転換するのは大変ではないですか。

和田 確かに、難しい。バブルのときですら「消費が美徳」ということはありませんでしたからね(笑)。
   しかし、日本の製品の質や生産技術が向上してきたのは、モノを買う消費者の要求水準が高かったからです。単に生産性を伸ばせ、技術を磨けと言ったところで、「客がいないモノは伸びない」のです。国がどこまで本腰を入れて、消費の重要性を教育できるかによるでしょう。
   シゾフレ化した社会を多少メランコに戻す教育も考えられます。そのひとつは、「みんな一緒がよい」というのを改め「競争も大事」と教育することです。昨年、ハイブリッド車がヒット商品となりましたね。不況の世の中でも、「環境に優しい」というように、買うことに意義があると認めれば購入するのがメランコの人たちです。「感情の老化を防ぐために遊んだり買い物をすれば、医療費は減り病気になりにくい」などと理屈に合った動機づけがあれば、メランコ人間は回りに流されることなく消費するでしょう。
   日本を含む先進国は、将来的に人口の減少が予想されますから、このままいけば消費が増える見込みはありません。一方生産性は高まっていますから、このままでは生産と消費のギャップは広がるばかりです。これまでのように生産性アップの取り組みではなく、消費を増やす施策が必要です。

和田秀樹(わだ・ひでき)プロフィール

精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学国際・公共政策大学院特任教授。1960年大阪生まれ。85年東京大学医学部卒業後、東京大学精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェロー。老年精神医学、精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書は『学力崩壊』『大人のための勉強法』ほか多数。テレビやラジオにも出演し、心理学、教育問題、大学受験など多くの分野で発言している。

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