2024年 4月 20日 (土)

競技場のリプレー映像「混乱招く」として自粛要請 日本サッカー協会はなぜこんなことをするのか

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   サッカー、Jリーグ開幕20周年記念試合となった浦和対鹿島戦で、ゴール判定をめぐり騒動が起きた。浦和の得点に鹿島の選手は「反則があった」と猛抗議。スタジアムの大型ビジョンで流されたゴールシーンのリプレー映像で「確認」したことで、「誤審」の疑惑が増幅される格好となった。

   後日、日本サッカー協会(JFA)はこういった映像につき「混乱を招く可能性がある」として流さないよう要請したという。微妙なプレーでは「ビデオ判定」に頼る球技もあるが、サッカーは事情が異なるらしい。

プロ野球では、本塁打に「ビデオ判定」を導入

浦和-鹿島の試合が行われた埼玉スタジアム
浦和-鹿島の試合が行われた埼玉スタジアム

   JFAは2013年5月14日の会見で、11日の浦和-鹿島の試合で後半33分、浦和のFW興梠慎三選手が決めた得点について「誤った判定だった」と誤審を認めた。ゴールの瞬間、相手の鹿島の選手たちは一斉に手を挙げて「オフサイド」をアピールしていた。会場の埼玉スタジアムの大型ビジョンにこの場面が流されたため、審判に抗議した鹿島の選手やファンは「やはり反則だ」と不信感を募らせた。それでも判定は変わらず、鹿島は試合に敗れた。

   会見の席で審判委員長の上川徹氏は、得点シーンが競技場の大型ビジョンで流された点を問題視したという。微妙な判定の際は混乱を招く恐れがあり、Jリーグに映像の自粛を求めたそうだ。

   だが難しい場面こそ映像に頼った方が、正確なジャッジにつながるのではないか。例えばプロ野球では、本塁打の判定に「ビデオ判定」を導入している。米プロフットボールのNFLでは、主審の判定に異議がある場合、自軍のタイムアウトの権利1回分をかけて録画映像の確認を求められる。これにより判定が覆るケースもある。

主審の決定は最終、映像で判断変えられない

   一方サッカーには、同様のシステムはない。「サッカー競技規則」第5条「主審の決定」の項目には、「プレーに関する事実についての主審の決定は、得点となったかどうか、また試合結果を含め最終である」「プレーを再開する前、または試合を終結する前であれば、主審は、その直前の決定が正しくないことに気づいたとき、または主審の裁量によって副審または第4 の審判員の助言を採用したときのみ、決定を変えることができる」と定められている。審判によるジャッジがすべてと読み取れ、ビデオ判定を活用する規定は見当たらない。

   「フットボールレフェリージャーナル」のサッカージャーナリスト、石井紘人氏はJ-CASTニュースの取材に、「現状、審判は映像を見て判定を変えられません。それでもリプレー映像が出て相手の選手が『判定がおかしいじゃないか』と詰め寄られれば、混乱の原因になってしまいます」と説明する。

欧州会場でも得点シーンリプレー映像がすぐ流れる

   石井氏によると欧州のサッカーリーグの会場でも、得点シーンのリプレー映像がすぐ流れるそうだ。テレビ中継も同様で、微妙な判定ともなれば「日本以上に何度も繰り返されます」。一方、2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会では、期間中のある時期を境にリプレーは競技場で流れなくなったという。

   国際サッカー連盟(FIFA)は、得点場面での誤審を防ぐため「ゴールライン・テクノロジー」という技術の導入を進めている。ゴール裏にカメラ数台を設置して、ボールがゴールラインを割った場合に瞬時に主審に伝わるシステムだ。プレー後のビデオ判定とは違うが、より正確な判断を下す手助けになる。2012年12月のクラブW杯で用いられ、14年のW杯ブラジル大会にも登場する予定だ。イングランド・プレミアリーグも来季からの使用を承認したが、「導入には数千万円の費用がかかると言われています」と石井氏。Jリーグでは今のところ導入の話は聞こえてこない。

今回の誤審でJFAは担当した審判の処分せず

   今回の誤審で、JFAは担当した審判への処分はなしとした。石井氏は「(チームの)コーチであれば、甘い対応だと批判してもやむを得ないかもしれません」とする。だが審判員の資格を持つ石井氏は、今回の裁定に理解を寄せる。「サッカー文化が根付いている欧州では、審判がミスして、例えば1試合出場停止のペナルティーを科しても復帰すれば、ファンは『またがんばってくれ』と受け入れる土壌がある。一方日本の場合、一度処分を受けると『誤審した審判』とのレッテルが張られ、後々までつきまとう風潮があります」と指摘する。そうならないために、「おとがめなし」と配慮したのかもしれない。

   サッカーには、誤審にまつわる有名なエピソードが少なくない。最近でも2012年のロンドン五輪サッカー女子決勝で、日本代表が対戦した米国の選手の「ハンド」とも見られるプレーが審判に見逃され、試合にも敗れて金メダルを逃した。こういった「悲劇」を生まないためにも、ゴールライン・テクノロジーの導入が急がれるが、費用がかかり過ぎるのであればビデオ判定が規定化できないものか。石井氏によると、FIFAで議論されたことはあるようだ。しかし、仮に導入されて試合中何度もビデオ判定が行われれば、そのたびにプレーが中断して進行を大いに妨げる恐れがあるという。例えば「要求できるのは1試合に1回だけ」といった制限を設ける手もありそうだが、今のところ議論の対象にはなっていないようだ。

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