「残尿感」に悩み続けて10年 ずっと見逃されていた本当の病気
大腸や膀胱の壊死が進んでいた恐れ
最初に違和感を覚えてから5年、残尿感だけでなく、排尿時に尿道を針でチクッと刺されるような痛みを感じるようになった。
抗生物質を飲んでも効かず、残尿感も以前より強く現れ始めた。原因を突き止めるため、内科や婦人科、精神科も受診したが、どこの科でも「問題なし」。結局泌尿器科で処方される抗生物質に頼るしかなかった。
それからさらに5年経ったある日、いつものように抗生物質をもらうため総合病院を訪れたが、午前に予約していたのに誤って午後に行ってしまい、担当の医師が変更になった。
それが大学病院から派遣された非常勤の医師で、これまでの症状や経緯を細かく話すと、「うちの大学で詳しく調べてみては」と勧められ、従うことに。この偶然が本当の原因究明の一筋の光となった。
上島さんを救ったのは、滋賀医科大学医学部附属病院で泌尿器科を率い、「日本泌尿器科学会の第一人者」と言われる河内明宏氏だ。
通常検査技師や看護師が行う超音波エコーの検査を自ら行い、1万人以上の不調を見つけ出してきた。医師が選ぶ名医「ベストドクター」に2014年から2期連続で選出されている実力者だ。
上島さんから「排尿時に尿道からオナラのようなガスが出る時がある」と問診で聞き出し、膀胱の内部を直接見る「膀胱鏡」の検査、さらに大腸のCT検査で導き出した病名は、膀胱炎ではなく「大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)」だった。
腸壁の一部が袋状に飛び出し、そこに便などが詰まって炎症になる病気で、推定患者数は約230万人と言われている。
さほど珍しくない病気だが、上島さんの場合、憩室炎が起きたのが、1万件に1件あるかないかというかなり珍しい位置だった。
膀胱と隣り合った「S字結腸」の一部分で、飛び出した箇所が膀胱へと広がり、腸と膀胱が癒着、穴が開いてつながってしまっていた。その穴から大腸にあるはずの便が膀胱に侵入し、雑菌が繁殖し続けて膀胱炎を繰り返していたのだ。
気付くのがもっと遅れれば、大腸や膀胱の壊死が進み、命の危険を招くおそれもあった。上島さんは手術を受け、現在は病院で療養しながら快復へ向かっている。