2024年 4月 20日 (土)

カジノは本当に健全なのか 「カモ」にされた記者体験談

   IR(統合型リゾート施設)推進法の可決・成立を受けて、政府は2017年から、具体的な制度設計などを進めていく方針だ。賛否両論を呼んだ審議の中、賛成派が繰り返したのは、カジノは極めて「健全」だ、ということだった。たとえば、「現代社会においては、カジノは健全・安全かつ公平・公正な空間として、いわゆる犯罪とか、そういうものとは無縁の世界となっているのが現実ではないか」(12月12日、参議院内閣委員会で、参考人として出席した美原融・大阪商業大学総合経営学部教授)といった発言だ。

   数年前にアジアの某国に誕生した大型IR施設で一度だけカジノを経験したJ-CASTニュースの記者が、そのバカラ体験を報告する。

  • 2017年はカジノ「解禁」へ向けた動きが、本格化する見込みだ
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「普通」の人たちが一晩に50万円は使う

   高級ホテルやショッピングモール、コンベンションセンターなどが一体となったその巨大な施設は、手持ちのデジカメを目いっぱい広角にしても、なかなか画面に入りきらなかったことをよく覚えている。その規模といい、著名人を招いた豪華な開業式典といい、まさに推進派がお手本とする、高級リゾートとしての「IR」だった。

   とはいえ、一番の売りはやはりカジノだ。

   オープン前には、建物を取り囲むほどの行列ができていた。客の多くは、中華系のアジア人だった。近隣の地域から、飛行機や船ではるばるやってくるのだという。それも、いわゆる富裕層、という雰囲気ではない。シャツにジャージの「普通」の男女だ。実直そうな老夫婦の姿も見える。そんな彼らが、早口に談笑しながら、平然と1枚5000円、1万円(当時の日本円レート。以下同じ)といったチップを場に投じていく。

「彼らは一晩に50万円くらいは平気で使いますよ。それも大金持ちというわけではない、『普通』の人たちがです」

   現地の事情に詳しいある日本人は、こともなげに語った。

   ゲームはスロット、ルーレットといろいろあるが、一番人気はトランプを使った「バカラ」だ。「バンカー」と「プレーヤー」、どちらかにチップを賭けて、自分が選んだ側の手札が勝てば儲け、負ければ没収。ほとんど丁半博打に近い。

   テーブルごとに、1度に賭ける「最低額」は決まっている。一番安い卓で3000円、高い卓なら3万円。1回の勝負はほんの2、3分だ。どんなに安い卓でも、10分も遊べば1万円以上が動く。

   さらに奥の方には、「VIPルーム」がある。そこでは、これよりはるかに大きな金額が動くという。もちろん、一般客は立ち入ることはできない。

軍資金5万円、気さくに話しかけてきた中華系の男

   記者はバカラの5000円の卓に着いた。軍資金は5万円だ。

   ゲームに参加するには、まずディーラーに、手持ちの現金をチップに変えてもらう必要がある。だが、その方法がまずよくわからない。紙幣を手にまごまごしていると、隣に一人の男が、にこにこしながら腰かけた。やはり中華系の、眼鏡をかけた優男だ。30代くらいだろうか。

「お兄さん、初めてかい?」

   ......というようなことを、おそらくは言ってきたのだと思う。向こうも言葉は通じないと察し、身振り手振りに切り替える。どうも、チップ交換の仕方をレクチャーしてくれているらしい。素直に従うと、無事に現金がチップになって返ってきた。

   その後も、男はジェスチャーで、あれこれアドバイスをしてくれた。チップはここに置け、タイミングはこう、返ってきたらこんな感じで受け取れ――「やけに親切だなあ」と思いつつ、正直それどころではなかった。

   普段なら1000円のランチを食べるのだって躊躇するのに、その5倍の金額が、1回のゲームで行き来するのである。テーブル上を行き来する、何万円分ものチップの山。興奮、陶酔に目がくらむようで、生きた心地がしない。

1万円分勝った後...

   何回かの勝負を終えて、1万円ほど勝っていることに気付く。とたんに我に返り、引き留める男に頭を下げながら、卓から逃げるように離れた。

   チップを窓口で換金して、ようやく一息をつけた。1万円。落ち着いて考えれば、結構な大金だ。思わずにやにやしていると、後ろから肩を叩かれる。さっきの男が、笑顔で立っていた。

   握手を求めてくる。どうやら祝福してくれているらしい。こちらも「謝々」を連発するが、男は微笑みを崩さないまま、自分の腹に手をやる。「お腹が空いた」と言いたいらしい。きょとん、としていると、男は指を1本立てた。そう、つまり男はこう言いたいのだ。

「これだけでいいから。金よこしな」

   背筋に冷や汗が流れる。何のことはない。記者は最初から、良い「カモ」だったようだ。従業員もそばを通るが、気づかないのか見てみぬふりか、そのまま素通りだ。「1」とはいくらか。混乱しながらも財布を取り出す。まごまごしていると、男はさっき換金したばかりの1万円分の紙幣を指差した。

   紙幣を手渡すと、男は素早くポケットにそれをねじ込んだ。相変わらずの笑顔だ。男は「それじゃ!」というように手を振り、再び賭場へと消えていった。

   それ以来、記者はカジノへ足を踏み入れる気になったことはない。

   政府は2017年内にも、カジノを実際に設置するために必要な、IR実施法案を策定、国会へと提出する見込みだ。合わせて、カジノを含むギャンブル依存症への対策を話し合い、法整備なども検討中と報じられている。

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