2024年 4月 30日 (火)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち アイルランド系「移民」の歴史が語ること(前編)

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政権中枢に多くの「末裔」たち

   過酷な差別の時代を乗り越え、人口の多さを武器に、アイルランド移民は結集した。政治的パワーを持ち、アメリカ社会全体に影響を与えてきた。ジョン・F・ケネディ氏などアイルランド系アメリカ人の大統領が誕生し、今のトランプ政権の中枢にも、マイク・ペンス副大統領、大統領の右腕で「陰の実力者」といわれるスティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問、ショーン・スパイサー大統領報道官、ポール・ライアン下院議長など、アイルランド系が目立つ。

   アイルランド系アメリカ人のなかには、「ジャガイモ飢饉の時、自分たちも難民同様だったのに、それをすっかり忘れてしまったのではないか」と新政権を厳しく批判する声もある。

   パレードの日、トランプタワー近くで、行進する人々に向かって大声で叫び続ける50代くらいの白人男性がいた。

「God bless America! God bless freedom and democracy! (神よ、アメリカを祝福したまえ! 自由と民主主義を祝福したまえ!)」
「アイリッシュを祝福し、アメリカを祝福する素晴らしいパレードだ」

   そして、くるりと振り返ると、パレードを見ている人たちにこう呼びかけた。

「God bless you. Enjoy the parade. Thank you for being a part of it!(あなたたちに神の恵みがありますように。パレードを楽しんでください。これに参加してくれて、ありがとう)」
   

   周りから、拍手と歓声が沸き起こる。

   パレード参加者にも見物客にも、アイルランド系でない人たちはたくさんいる。パレードを見に来なくても、アイルランド系でなくても、当日は緑色のものを身に着ける人が多い。自分たちを移民として受け入れてくれたアメリカに、この日、感謝の思いを新たにする人たちは、アイルランド系だけでない。

   トランプ大統領の移民政策で大揺れに揺れるアメリカで、しかも、ニューヨークではトランプタワーの目の前で、移民国家アメリカを祝福する人たちの声がこだまする。

(後編に続く。随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。


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