2024年 4月 24日 (水)

小泉進次郎氏はどう出る? JA全中の新会長に「守旧派」

   全国農業協同組合中央会(JA全中)の会長に、和歌山中央会の中家徹会長(67)が内定した。JAグループ内の代議員約250人による選挙戦(2017年7月5日集計)で、東京中央会の須藤正敏会長(69)を破ったもので、8月10日に開かれるJA全中の臨時総会で正式に選任される。

   JA全中はJAグループの中核で、全体を指揮するような立場にある。任期満了で退任する奥野長衛現会長(70)は、JAの自己改革に意欲的で自民党の小泉進次郎・農林部会長とも手を携える改革派だが、「守旧派」と目される中家氏が会長に就くことで農業改革が停滞する懸念がある。

  • 農協改革の行く末は(画像はJAグループ公式ホームページより)
    農協改革の行く末は(画像はJAグループ公式ホームページより)
  • 農協改革の行く末は(画像はJAグループ公式ホームページより)

ダブルスコアに近い圧勝

   政府内には奥野会長が再任することへの待望論もあった。安倍政権にとって以前より集票力が落ちている農業分野は、「改革」の成果を誇示するために手をつっこみやすいとも言えるからだ。実際、今17年夏の人事でも農水省事務次官人事で改革派の奥原正明氏(61)を続投させた。傍流ながら首相官邸の覚えめでたい奥原氏は、昨年夏の人事で通例を破って同期入省次官の後任に抜てきされ、さらに続投という農水省にとって異例の展開だ。しかし、JA全中の奥野会長は「70歳定年制」の内規を守って再選立候補しなかった。

   実は、新会長に内定した中家氏は、10年ぶりの選挙戦となった2015年夏の前回会長選にも立候補し、一騎打ちとなった奥野氏に敗れた経緯がある。この会長選は、任期途中で万歳章会長が退任するのに伴う異例のものだった。万歳氏は、JA全中が権限の源泉としてきた地域農協を監督・指導する権利の廃止などを盛り込んだ農協法改正案が閣議決定された2015年4月に辞任を表明。JA全中は万歳氏を先頭に改正案に反対したのだったが、最終的に受け入れざるを得なくなったことで組織を守れなかったとして引責辞任したとみられていた。

   その前回会長選では、中家氏は当初優勢と見られていた。自民党農林族やJA全中の守旧派の支持を得ていたからだ。しかし、守旧派に反旗を翻して選挙戦に持ち込んだ奥野氏が僅差で勝利したのだった。当時は、「JA全中幹部や自民党農林族らが中家氏当選に向けて旧態依然とした組織票まとめに入ったことで、全国の農協に嫌気が差した」とみる報道もあった。

   しかし、今回の開票結果は152対88。中家氏はダブルスコアに近い圧勝だった。敗れた須藤氏は奥野会長と親しく、「奥野会長から出馬を促された」との見方もあり、事実上の後継候補とみられていた。そのため、小泉氏と歩調を合わせて改革を進める奥野氏への批判票を中家氏が集めた可能性がある。須藤氏が都市部のJA出身という点が全国的な共感を呼びにくかったとの指摘もある。

「農業改革は必要」

   中家氏は7月5日に和歌山市で開いた記者会見で「農業改革は必要」と語り、奥野路線から急激な路線転換を進めない考えを示した。今回の会長選に臨むにあたって「政府の不当な介入には毅然とした態度で臨む」と述べていたが、ひとまず矛を収めた格好だ。そのうえで「自己改革をするために地域のJAで改革がどの程度進んでいるのか確認するところからスタートしたい」との方針を示し、「農家や地域にとって存在感のある組織を目指したい」と話した。

   そうは言っても中家氏の会長就任によって、農業改革が進むと見る向きは少ない。奥野氏と小泉氏が協調したこの2年間でさえ、自民党農林族らによる「骨抜き」が避けられなかったからだ。

   例えば、2016年11月に政府・与党がまとめた「農業競争力強化プログラム」は、政府の規制改革会議の改革案をことごとく退けることに成功した。改革会議は「1年以内」と時間を区切り、全国農業協同組合連合会(JA全農)は価格が高止まりして農家の負担が重くなっている農業資材の販売から手を引き、どこから資材を購入したらよいかなどをアドバイスする組織に衣替えすることを提案。また、信用(金融)事業を営む地域農協の数を「3年後を目途に半減させるべき」とも指摘した。これらの改革に進展が見られない場合は「第二全農」の設立を進める措置を政府に求めた。

   しかし、全農の資材の取り扱いについては自主的な改革を要請するにとどまり、農協金融の圧縮は消え去った。全農や地域農協がかかわることで国内の農業資材価格が隣の韓国に比べても高くなっていることを明らかにするなど小泉氏の動きに評価すべき点はあるが、万歳氏の辞任を招いた農協法改正に比べれば小粒と言わざるをえない。今後、改革派の奥野会長が退いた後に「昨年の農業競争力強化プログラムを超えるものが出てくるはずがない」(埼玉県の農協関係者)という見方が強い。足元では安倍政権の内閣支持率が急速に下がっている。改革を後押ししてきた首相官邸自体も、減ったとはいえ一定量はある農業票を意識して改革の速度を緩めようとする可能性もありそうだ。

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