京産大の提案書→21頁、加計側→2頁 なぜ加計側に軍配が上がったのか

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   加計学園の獣医学部新設を巡る疑惑についての閉会中審査が24、25の両日、衆参両院で開かれることが決まった。ようやく安倍晋三首相の出席を得ての開催となったわけだが、新しい証拠が出てこない限り真相解明にはつながらないだろう。

  • 前川・前文科事務次官が国会で和泉・首相補佐官と対決すべき(写真は衆院インターネット中継より)
    前川・前文科事務次官が国会で和泉・首相補佐官と対決すべき(写真は衆院インターネット中継より)

注目は前川前次官と和泉補佐官の対決のみか

   野党が拠り所としている一連の文部科学省の内部文書は、いわば二次情報だ。「総理の意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれてはいるが、直接、指示を受けた本人が作成した文書ではない。いわば、「又聞き」という二次情報。何度も同じような表現が出てくることを考えると、官邸の意向があった蓋然性はあるものの、文書に登場する官邸幹部が認めない限り「総理の指示」があったと断ずることはできない。見方によっては、加計学園の理事長が首相の親しい友人であることを慮った周囲の忖度とも受け取れる。あるいは、獣医学部を国家戦略特区の目玉にするために首相が早期実現を図ろうとしための指示とも推測できる。

   調査報道の経験のある記者ならわかることだが、二次情報だけでは、いかようにも逃げられる。案の定、前回の閉会中審査では、関係者にことごとく「言っていない」「記憶がない」と強弁され、それ以上の追及はむなしく空回りをしていた。

   次回の閉会中審査で、安倍首相は当然、「私は一切の指示をしていない」と答弁するに違いない。そのうえで国家戦略特区によって岩盤規制に穴を空けたことや獣医師会の圧力に配慮したことを強調し「加計ありき」ではなかったことを説くだろう。

   事実解明の糸口が見出される可能性があるとすれば、前川喜平・前文科省次官と和泉洋人・首相補佐官との直接対決だ。前川氏は、和泉補佐官に呼び出されて「総理は言えないから、私が言う」と早期の対応を迫られたと証言している。これは直接の会話の主の証言だから、見解が異なったとしてもどちらかが嘘を言っていることになる。いずれにしても、和泉補佐官が「首相から指示を受けた」などと証言するわけもなく、中途半端な質疑に終始することは目に見えている。

   「言った」「言わない」の疑惑解明は、一度、こじれてしまうと真相は闇に埋もれてしまうのが常だ。

今治と京都との「熟度」に差はないはず

   この疑惑の本質は、今治市・加計学園と競合した京都府・京都産業大学の獣医学部構想との比較検討が公正に行われたかだ。国家戦略特区諮問会議やワーキンググループ(WG)などの議事要旨や配布資料などの一次情報には、まだ疑問点が残されている。

   5日付東京新聞の朝刊に気になる記事が掲載されていた。国家戦略特区を担当する山本幸三地方創生担当相が記者会見で、加計学園と京産大の獣医学部構想を比較検討したうえで加計学園を選んだ根拠を語っているという。早速、政府インターネットテレビにアップされている記者会見の模様を視聴してみた。

   山本大臣は、「認定は1校に限る」ことを決めた後の昨年12月下旬から年始にかけ、両者の提案内容を、早期実現を図るうえで(1)専任教員の確保の状況、(2)地元への就職を勧誘する奨学金など地方自治体との連携、(3)(鳥インフルエンザなどの人獣共通感染症の)水際対策の実現―の3点を挙げている。そのうえで「京都府(の提案)よりも、07年から長きにわたり検討を重ねてきた今治市の提案の方が熟度が高いと判断した」と説明している。

   京産大も加計学園とほぼ同じころから、獣医学部設置を文科省に働きかけていたわけだから、「熟度」に、そんな差があるとは思えない。水際対策でも、京産大は鳥インフルエンザ研究センターを設置していて、これまで日本での鳥インフルエンザウイルス蔓延を阻止した功労者でもある、いわば専門集団だ。

   比較検討過程の議論の記録の存在を尋ねられた山本大臣は「内部の打ち合わせなので記録は取っていない」と否定したうえで、「両地区(今治市と京都府)の提案書がすでにあるわけで、それをもとに議論した」と説明している。

   山本大臣の言う提案書を探すために、過去の諮問会議や地域会議、WGなどの議事録要旨に目を通してみた。

山本大臣の言う提案書とは

   加計学園が獣医学部構想を初めて提出してきたのは今年1月12日のこと。今治市の獣医学部特区への公募が締め切られて加計学園のみが応募した直後の「今治市分科会」での会議だった。山本大臣が記者会見で明らかにした「内部での打ち合わせ」が12月末から年始にかけてだとすると、この時期にはまだ提出されていないはずだ。

   では山本大臣の言う、両者の提案書とは何を指しているのか。

   加計学園と組む今治市が15年6月に開かれたWGによるヒヤリングに提出したのは、2枚の資料だった。「国際レベルの獣医師養成」と「危機管理発生時の学術支援拠点」の2つを柱に掲げるが、具体的な内容がまったく記されていない。とても山本大臣の言う「熟度」を感じさるような構想には思えない。翌年の「今治市分科会」(16年9月)に配布された2枚つづりの資料も同様に具体性は見られない。

   議論はこれらの資料を元に交わされているが、委員からも「既存の獣医学部で対応できる話であって、新しい獣医学部をつくる云々、という話はまた別の話だと逃げられる可能性が非常にある気がする」など構想に注文がつけられている。

   一方の京産大が16年10月のヒヤリングに示した構想は21ページに及ぶ。既存の大学では対応困難な実験動物学の単位を増やすことや、地元の京都大学が開発したiPS細胞との連携や創薬などのライフサイエンス関係で獣医師が新たに対応すべき分野を示すなど、獣医学部を新設する際に必要だとして閣議決定された4条件を意識したつくりになっている。

   獣医でもない私が、両者の提案書の優劣を論じる力量も資格もないが、京産大の21ページと加計学園の2ページの提案書では、構想の具体性などの厚みが違う。この資料を元に、加計学園に軍配をあげたのだとすると理解に苦しむ。

   おそらく山本大臣は、加計学園の詳しい構想は12月時点で提出され、それをもとに比較検討したと弁解するに違いない。だが、京産大の具体的な構想はWGによるヒヤリングで議論されているものの、加計学園の構想は、今治市の公募が終わるまで一度も諮問会議やWGで議論されていないのだ。にもかかわらず議論していない加計学園が選ばれるというのは、どう考えても解せない。

京産大関係者の吐露

   両者がまだ競合していた16年11月9日の諮問会議で、文科省の制度改正を行う要件として「現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り」との取り決めが示された。原案にはなかった「広域的に」「限り」が加えられたことによって、同じ関西圏に獣医学部のある京産大は事実上、断念に追い込まれた。取材に応じてくれた京産大の関係者は、「加計学園が首相と親しいことはわかっていた。それでも露骨なことはしないだろうと考えていた。場合によっては、定員をお互いに減らして2校目に認定されることを目指していた。だが、この追加された文言によって断念した」と吐露してくれた。

   さらに「18年4月開学」というリミットが課せられ、年末には獣医師会からの強い要望に配慮する形で「1校限り」が付け加えられたという。

   次回の閉会中審査では、官邸側は前回と同様、議論の焦点を岩盤規制に穴をあけたことや、獣医学部に配慮した形で1校に絞ったことなどにすり替えるだろう。確かに文科省の岩盤規制については、WGによる省庁へのヒヤリングなどで何度も議論を重ねたうえで獣医学部新設にゴーサインが出されている。時代にそぐわなくなって形骸化した規制を排除することに異論はない。獣医師会に配慮した格好で1校に限定したことも、あながちウソとは思えない。

   だが、加計問題の最大の焦点は、岩盤規制でも、獣医師会への配慮でもない。加計学園と京都産業大学の2者が競合するなか、公平性は担保されていたのかどうかの一点だ。二次情報をもとに「言った」「言わない」「記憶にない」の不毛な議論を続けるよりも、一次情報に立ち返って真相に迫ってほしいものだ。

(ジャーナリスト・辰濃哲郎)

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