岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 
アメリカ人はいつから銃を持つようになったのか

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   コロラド州の大学院で学ぶ寺澤潤(28)が、いつものように冗談を言いながら教室に入っていくと、空気がいつもとまったく違うことに気づいた。クラスメートらは一様に暗い表情だった。

   その前夜の2017年10月1日に起きたラスベガスでの銃乱射事件が、アメリカ人に与えた衝撃の大きさを改めて感じた。

  • 全米ライフル協会(NRA)のホームページから
    全米ライフル協会(NRA)のホームページから

個人所有の銃は約2億7000万丁

   死者59人、500人を超す負傷者を出した事件後、テレビのトークショーの司会者でコメディアンのジミー・キンメルは、涙ながらに銃規制を訴えた。民主党議員らは、銃規制を強化する内容の法案を米議会上院に提出した。

   トランプ大統領は全米ライフル協会(NRA=National Rifle Association of America)から支持を受けているため、銃規制強化に消極的だと批判されている。

   NRAは事件を受けて、半自動小銃に取り付ける連射装置の規制を支持すると、異例の声明を出した。

   しかし、「今回の事件のような悲劇を理由に、人々が自分の命を守る権利を奪うことは容認できない」、「銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ(Guns don't kill people, people kill people.)」とのスタンスに変わりはない。

   これまでにも銃射殺事件が起きるたびに、銃規制の動きがあったが、米国には銃の個人所有を禁止している州はない。個人所有の銃は約2億7000万丁と、世界で最も多い。銃が原因の死亡者は、年間約3万人だ(うち2万人は自殺)。

   ワイオミング州在住のピーター・デイヴィス(48)は、「有名人や政治家には、自分たちの命を銃で守ってくれるボディガードがいるじゃないか。僕たちほとんどのアメリカ人は、そんな恩恵をこうむっていない」と銃規制に反対する。

   NRAは、銃所持の理由に「自己防衛」をあげているが、銃がらみの事件のほとんどは、正当防衛ではなく殺人という調査結果もある。

   銃を所有している人の割合は、共和党支持者では44%なのに対し、民主党支持者では20%に過ぎない。

NRAもかつては「銃規制」を支持していた

「最初に街で銃を撃ったのは、8歳の時だった。いつも肌身離さず、持っていた。私が育ったのは、犯罪の多いスラム街だったからね。私が教授になるなんて、家族の誰も夢にも思わなかった」

   私が1年間留学したオハイオ州の大学の教授(70代)が、前に私にそう話したことがある。彼は同州北西部に位置する工業都市、トレドの出身だ。

   市民が銃を手に、イギリスから独立を勝ち取ったアメリカ。銃規制反対の根拠になっているのは、合衆国憲法修正第2条だ。そこには、「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」と書かれている。

   つまり、専制国家になるのを防ぐには、地域の武装した民兵が不可欠ということだ。これを、民兵を組織する州の権利とする説と、銃を所持する個人の権利とする説がある。

   銃で自分の身を守る伝統は、アメリカ人にとってごく当然のこととして引き継がれてきた。広大な土地に互いに離れて暮らし、警察官や保安官がすぐに駆け付けてくれるような状況ではなかった。

   今では銃器の製造や販売の業者、銃愛好家による圧力団体として知られるNRAは、もともと射撃技術の向上を目的として設立された。1871年の発足以来、その目的は100年間ほど変わることなく、銃規制を支持していた。1934年には米議会でNRA代表が、「銃所持は厳しく制限されるべきだ」と述べている。

   NRAが銃規制反対を声高に叫ぶようになったのは、1960年代以降のことだ。この頃から都市部での銃犯罪が急増。1963年にケネディ大統領、1968年にはキング牧師が銃で暗殺された。銃規制の動きが活発化する一方で、1970年代に入ると、多くの人が自己防衛のために銃を持つようになった。

「一人暮らしだったら、身を守るために拳銃を持つ」

   ダイアン・ラッチョウ(59)は、カリフォルニア州に夫とふたりで住んでいる。

   「トランプはNRAに買収されている(Trump is bought by the NRA.)。我慢ならない」と、彼女はトランプ大統領を激しく批判する。

   ダイアンの家に、銃はない。「身を守るために銃を持っている友だちは、一人もいないわ。夫も銃器は大嫌いで、手を触れたこともない」。

   「銃なしで生活することで、身の危険を感じることはある?」という私の質問に、彼女は答えた。

「怖くなどないし、身の危険を感じることもないわ(I'm not afraid and feel safe.)」

   私はダイアンをよく知っている。筋金入りのリベラル派である彼女が、最後にこう付け加えた。

「でも、一人暮らしだったら、身を守るために拳銃を持つわ(However, if I lived by myself, I would get a handgun for protection.)」

(敬称略。この項続く)(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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