乗り物酔いにならない秘密は呼吸法 「最悪の船酔い」南極観測船の研究に学ぶ

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   車や電車、船、飛行機などの乗り物酔いは、医学的には「動揺病」と呼ばれるが、酔う人と酔わない人がいる。中でもハンパない「最悪の乗り物酔い」が、南極海の荒波に襲われる南極観測船「しらせ」の乗組員の船酔いだ。

   激しい船酔いになる人とヘッチャラな人の差はどこにあるのか。吐く息の二酸化炭素(CO2)濃度にあることを南極観測隊医療チームが突きとめ、日本耳鼻咽喉科学会誌「Auris Nasus Larynx」(電子版)2017年10月号に発表した。船酔いの予防につながる発見だという。

  • 南極観測船「しらせ」の激しい航海の様子(国立極地研究所の発表資料より)
    南極観測船「しらせ」の激しい航海の様子(国立極地研究所の発表資料より)
  • 南極観測船「しらせ」の激しい航海の様子(国立極地研究所の発表資料より)

観測隊隊員の半分は重症の船酔いに襲われる

   国立極地研究所の発表資料によると、激しいおう吐を繰り返す船酔いは南極海航海中の医務室受診理由の40%を占め、船内で調査研究を行う隊員の業務を妨げる大きな原因になっている。船酔い対策では症状が出る前に予防薬を飲む方法があるが、眠気や集中力の低下などの副作用が多いため、船酔いになりやすい人を選んで症状が出る前に服用させるのが理想的だ。

   一方、過去の研究では車に酔う人は呼気(吐く息)の二酸化炭素の濃度が低くなるという報告があるため、実際に南極海を航海中の隊員の呼気の二酸化炭素濃度を調べる実験を行なった。観測隊の長谷川達央隊員(医療担当)を中心とした研究チームは、オーストラリア・フリーマントルを出港後、南極へ向かう3日間、14人の隊員の船酔い状態と呼気を調べた。

   3時間ごとに隊員の船酔いスコア(10段階で吐き気・ふらつき・頭痛などの重症度を評価)を聞き取り、呼気中の二酸化炭素の濃度を測定した。その結果、船酔いの症状がまったくなかったり、軽くすんだりした隊員は7人で、重度の船酔いになった隊員が7人いたが、次のような違いが出た。

(1)船酔いの症状が重い隊員は、二酸化炭素濃度が乗船前に比べ航海中は約0.5ポイント低くなった。二酸化炭素濃度が低いということは、それだけ呼吸によって十分な酸素を取り込んでいないことになる。そのことが症状の重さにつながったとみられる。
(2)一方、症状がまったくないか、軽くすんだ隊員は、二酸化炭素濃度が乗船前より約2.5ポイントも高くなった。これは、何らかの方法で通常より多くの酸素を取り込み、船酔いを防いだことになる。

ヘッチャラな隊員は無意識で「ゆっくり呼吸」

   今回の結果について、長谷川達央隊員は発表資料の中でこう語っている。

「これまで船酔いになりそうな人の指標がみつかっていませんでした。今回の成果をもとに研究を進めれば、乗船後の呼気中の二酸化炭素濃度を測り、重度の船酔いになりそうな人を予想し、船酔いの予防薬を与えることができるようになります。船酔いの症状がない、または軽くすんだ人は、船が大きく揺れる環境にさらされた時、おそらく無意識に呼吸のテンポを遅くして(酸素を多く取り込んで)いたと考えられます。船酔いは釣り船や観光船にもみられます。今回の研究が船酔いの予防につながること期待します」

   乗り物酔い防止には、よく「ゆっくり呼吸」が効くといわれる。「腹式呼吸」や「ヨガの深呼吸」、あるいは「4-7-8呼吸法」など。これは、(1)4秒間鼻から息を吸う(2)7秒間息を止める(3)8秒間口からゆっくり息を吐く、というもの。改めて呼吸の重要さが示された形だ。

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