2024年 4月 18日 (木)

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
立憲民主「公務員人件費カット」の正体 労組へ見せる「いい顔」との矛盾

   立憲民主党が打ち出した「公務員人件費カット」が話題になっている。政策の実態はどうなのか。結論から言えば、旧民主党時代から代わり映えしていない、劣化コピーである。

   立憲民主のツイッターで、「公務員の労働基本権を回復し、労働条件を交渉で決める仕組みを構築するとともに、職員団体などとの協議・合意を前提として、人件費削減を目指します」とあった。

  • 立憲民主党が打ち出した「公務員人件費カット」が話題に。
    立憲民主党が打ち出した「公務員人件費カット」が話題に。
  • 立憲民主党が打ち出した「公務員人件費カット」が話題に。

労働基本権回復と人件費削減の関係

   これをみた立憲民主の支持者らから、人件費削減はあってはならないとの反応があった。この文章をきちんと読んでみると、(1)労働基本権回復、(2)労働条件を労使交渉、(3)人件費削減の三つの部分からなっている。

   労働基本権とは、団結権、団体交渉権、争議権のことであるが、公務員については、団結権はあるものの、団体交渉権は現業公務員を除き認められておらず、争議権はまったくない。つまり、(1)労働基本権回復とは、団体交渉権、争議権の獲得を目指すもので、公務員労組向けのメッセージである。

   そして、労働基本権が得られれば、公務員の労働基本権の制約からくる不利益を解消するために設けられている人事院は不要となる。その結果、公務員給与の人事院勧告もなくなり、(2)労働条件を労使交渉で決める、となる。この意味で、(2)はなくてもいい。(1)からの当然の帰結になるからだ。(1)の結果、どうなるかと言えば、労働基本権を背景にして労使交渉するので、公務員給与は結果として上がるだろう。つまり、(3)人件費削減とはならないのだ。

   実は、この奇妙な3点セットは、旧民主党時代からあった。その理由は、公務員労組のために(1)を言うが、国民一般からは公務員の給与アップは不人気なので、(1)と矛盾する(3)の人件費削減を政策として掲げていたのだ。

人事院と厚労省、国税庁の「調査対象の違い」

   公務員の給与については、今の制度では人事院勧告によって官民比較して決められている。しかし、人事院勧告は、人事院の「職種別民間給与実態調査」により、事業所規模50人以上を対象としている。実は、これはかなりの大企業ばかり。人事院の調査対象となる事業所は約5万5000か所で、これは全国554万事業所のうちわずか1%にすぎない。つまり、民間のトップ1%だけを調査対象として、その事業所の給与を国家公務員に適用するのだから、残り99%から見れば、国家公務員の給与は高くなってしまうのだ。

   ちなみに、民間給与の統計については、トップ1%だけが対象の人事院調査のほかに、事業所規模10人以上を対象とする厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」、事業所規模1人以上を対象とする国税庁の「民間給与実態統計調査」もある。すべてを調査対象とする国税庁統計の方が一般人の感覚に合っているが、それを使えば、国家公務員人件費は2割程度削減してしまうだろう。

   旧民主党は、この点を指摘されるとお手上げなので、(3)人件費削減を入れ、公務員組合と一般国民の二つに「いい顔」をみせていたのだ。この奇妙な話は、立憲民主にも引き継がれている。

   もっとも立憲民主の支持者は、公務員給与が民間一般に比べて高いという事実は認めず、単に(3)人件費削減に反対している。立憲民主は、かつての民主党ではなく公務員労組向けに「純化」したのだから、(3)人件費削減ではなく、給与アップがいいだろう。せめて適切な給与水準確保だろう。もっとも、そうした一部の人だけを代弁するのであれば、政権交代を放棄したのと同じでもある。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「ついにあなたの賃金上昇が始まる!」(悟空出版)など。


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