2024年 4月 25日 (木)

これがレスリング協会不信の原点――伊調パワハラ告発の弁護士が明かす「重大事故」

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   「内閣府への申し入れの原点である大学生の事故」――。レスリングの伊調馨選手へのパワハラ問題で、告発状を提出した弁護士が内閣府の聞き取り調査を報告した文書にある一節だ。

   告発状が出される前、大学生の選手が日本代表合宿で重傷を負った。日本レスリング協会は保険をかけていなかった。「本当にカネがなかったのか」。さまざまな疑問が生じた原点はここにある。

  • 伊調馨選手と栄和人監督
    伊調馨選手と栄和人監督
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「国からの助成金はどう使われているのか」

   栄和人・強化本部長によるパワハラ実態の告発状を内閣府に提出した貞友義典弁護士は2018年3月13日、同府の公益認定等委員会による聞き取りを受けたことを明かした。

   ともに聞き取りを受けた安達巧氏(告発状の「B氏」、バルセロナ五輪代表)は「内閣府への申し入れの原点である大学生の事故」について、「本当にスポーツ団体保険金を掛ける金もなかったのか」などの調査を求めたという。

   貞友弁護士が14日、J-CASTニュースの取材にこう語る。

「『協会には協賛金やテレビ放映権料など多額のお金が入っているのに、どうしてこの保険をかけなかったのか。国からの助成金はどう使われているのか。帳簿上の数字があっているかだけでなく、その中身を調査していただきたい』といったことを、安達さんは内閣府の聞き取りで強く訴えていました」

   17年9月、全日本の男子レスリング代表強化合宿のスパーリングで、拓殖大学の谷口慧志選手が「頚椎損傷」の重傷を負った。この件を報じた週刊文春17年11月30日号によれば、谷口選手は首から下が自力で動かせず、車いすに乗るためのリハビリをしている。合宿の責任者は栄氏だったが、事故の対応は別の強化副本部長に一任。協会から公表などはされなかった。

   元ナショナルコーチで日本体育大学監督などを歴任してきた安達氏がこの問題を見過ごせず、医療裁判も手がけている貞友弁護士に知人の紹介で相談を持ちかけたという。

「従前から合宿中の練習については協会が保険加入していない」

   貞友弁護士は、頚椎損傷の事故をめぐり「安達さんから『事故を公表していない。補償もされていない。お母さんと会って相談に乗ってあげてほしい』と依頼を受けて、12月1日夕方に多摩の病院に行きましたが、協会の人間に門前払いにされ、谷口さんのお母さんとは会えませんでした」と明かす。

   そこで、12月6日付でスポーツ庁に質問状を提出。それによると、「強化合宿中のスポーツ安全保険などの団体保険も掛けられておらず、本来なされるべき高額の補償や賠償がされていないのではないか」「強化合宿責任者の責任逃れの隠蔽工作がされているのではないか」「現在の選手や学生に仮に事故が起きても補償がされず自分の事故についても闇に葬られるのではないか」との不安が広がっているなどと訴えたうえで、複数の質問を投げかけている。

   これを「内閣府の問題だ」として同庁は受けつけず、12月14日付で内閣府公益認定等委員会に改めて質問状を提出した。ところが12月26日、「うちは関係ないと言っていたスポーツ庁から電話で連絡がありました」という。

   同庁は質問状に対し、「事故当日夕方JOC(日本オリンピック委員会)の職員から報告があった。容態もJOCを通じて報告を受けている」とし、事故の検証と再発防止については「レスリング協会においてなされるものである。ほかの選手への影響があるとのことで、どのような状況であったかを問い合わせた。協会の返事はVTRなどを検証したが、通常の容態のスパーリングであったとのことであった」などと回答した。

   そして保険や補償については、

「従前から合宿中の練習については協会が保険加入していない。大会に参加する際には保険をかけている。谷口君については所属団体が保険に入っている、その保険が使えるかどうかは現在不明である」

と答えたという。

   貞友弁護士は、今回の頚椎損傷での賠償額は「裁判例から2億円という計算になりました。2億円もらわなければ合いません」と明かしている。

「具体的に協会のガバナンスの問題を積み重ねないとダメだ」

   公益財団法人の監督官庁である内閣府からは回答がなかった。そこで、18年1月18日付の告発状につながる。

「安達さんとは、具体的に協会のガバナンスの問題を積み重ねないとダメだという話になりました。その中で田南部さんと伊調選手へのパワハラの実態を知りました。栄さんが、伊調選手を引退に追い込み自分の支配下の選手を五輪代表にしようとするそのやり方が大きな問題だと感じました。国際大会にも気に入っていれば全日本5位の選手を出す。そのようなことが協会ぐるみでなされていると知り、これもまさにガバナンスの問題だと。それでこの件は告発状を出すことにしたのです」

   伊調選手とは一度も会ったり話したりしたことはなく、今後もその予定はないという。貞友弁護士は「電話一本でも話を聞いたほうがいいのではと安達さんにも言われましたが、もし私と話したうえで協会が何も変わらなかったら、『お前は告発に加担したのか』と伊調選手が引退に追い込まれるのは目に見えています。ですから積極的に関わることはありません」と話していた。

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