2018年 8月 16日 (木)

消えない民間金融機関の懸念 ゆうちょ銀 「通常貯金の限度額撤廃」論議

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   ゆうちょ銀行の貯金の上限規制「預入限度額」を撤廃する議論が佳境を迎えている。郵政民営化以来の古くて新しいテーマであり、「民業圧迫」をめぐる官民対立の構図が続いている。

   民間金融機関の預金に当たる貯金は、郵便局の窓口や現金自動受払機(ATM)で出し入れできる通常貯金と、貯蓄性の高い定期・定額貯金があり、預入限度額は現在、全部合わせて1人1300万円。2007年の日本郵政の株式会社化以降では、16年4月に、それまでの1000万円から引き上げられた。

  • 民営化以来続く議論、どうなる(画像はイメージ)
    民営化以来続く議論、どうなる(画像はイメージ)

綱引きが続いてきた歴史

   株式会社となった当初は、持ち株会社の「日本郵政」の傘下に郵便事業、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4子会社がぶら下がる体制で始まり、2012年に郵便事業と郵便局が統合され、現在は3子会社体制。15年に日本郵政と金融2子会社が株式上場している。

   なにせ日本一巨大な金融機関の民営化であり、郵便、かんぽと一体の経営形態であることから、民営化当時から、ゆうちょ銀に対しては「官業による民業圧迫」への批判、懸念が付きまとう。一方、ゆうちょ銀からは、顧客の利便性向上、業務範囲拡大と経営の自由度の向上の願望が強い。その綱引きが続いてきた歴史がある。

   そうした宿命的な対立を緩和する「装置」が政府の郵政民営化委員会だ。郵政民営化の進捗状況を総合的に検証し、郵政民営化推進本部(本部長=首相)に意見を述べる機能で、具体的に今回のような事業の規制を緩和する場合は、委員会の意見を聞かなければならない。

「民業圧迫」懸念

   日本郵政は「通常貯金の限度額撤廃」を要望しており、2018年3月15日に開かれた民営化委員会で、長門正貢社長が正式に表明した。これは、通常貯金の限度額はなくし、定期・定額貯金は1300万円の限度額を維持するという意味とされる。同委員会は郵政の要望に沿う方向で議論し、3月中にも報告書をまとめる段取りだったが、民間金融機関側の猛反発で目論見通り進むか、不透明感が出てきているのが、現在の状況だ。

   ゆうちょ銀が限度額撤廃を望む理由はいくつかある。まず、限度額の管理の事務コスト。限度額に到達した際の利用者への案内など、バカにならないという。二つ目に、退職金や相続などのまとまった資金が入る場合に1300万円の限度額に収まりきれず、他の金融機関に持っていかれてしまうことが少なくないという。

   これに対して民間金融機関は断固反対の立場だ。政府が日本郵政の株式の過半を持ち、その日本郵政がゆうちょ銀に7割超出資しており、政府の信用力を背景とするゆうちょ銀に対する「民業圧迫」懸念が根本にある。全国銀行協会の平野信行会長(三菱UJFフィナンシャル・グループ社長)は3月15日の定例記者会見で、郵政側の動きに対し、「民間銀行の預金がゆうちょ銀行にシフトするといった意図せざる結果を招く」と懸念を示した。地銀協の佐久間英利会長(千葉銀行頭取)も、その前日の会見で「地域別に預貯金の動向を見ると業態によってはゆうちょ銀の伸びが民間を上回る地域もある」とし、「今後金利が正常化した場合は資金シフトが起こる可能性が高く、地域の金融システムへの影響が懸念される」と具体的に反対論を展開している。

   最大の論点は、この資金シフトだ。預入限度額が1300万円に引き上げられた2016年4月以降、ゆうちょ銀の貯金の伸びは民間金融機関の伸びを下回っており、貯金残高は17年12月末時点で181兆円と、16年3月末に比べ3兆2000億円程度の増加にとどまる。家計の金融資産に占める貯金の割合も15年3月末の9.9%から17年9月末では9.6%に低下しており、資金シフトがあったとは言えないようだ。

政治的判断も

   ただ、これが「自然体」での結果ではないとの指摘もある。ゆうちょ銀が資金集めに苦労しているというより、むしろ資金が集まり過ぎるのを避けようと、意図的に抑えたのではないかというのだ。その理由が日銀の超金融緩和、超低金利、マイナス金利政策。ゆうちょ銀は巨額な資金の運用に苦慮しているのが実態で、だぶついた資金を、日銀の当座預金に置いておく「ブタ積み」が10兆円にも達する。これにはマイナス金利が適用され、「ペナルティー」が課される。単純計算で年間100億円もの損失を垂れ流している計算になる。コストをかけて貯金を集めても意味がないという判断というのだ。

   もう一つ、地域金融機関との正面衝突を避けたいとの政治的判断もあるといわれる。というのも、ゆうちょ銀は地域経済活性化に貢献するためとして、2016年度から地銀などと連携し地域活性化ファンドに出資しており、その数、全国で10ファンドになる。だからこそ、がむしゃらな貯金集めは控えているということだ。

   今回、日本郵政が定期・定額貯金を含む限度額の「完全撤廃」を求めなかった背景にも、こうした地域金融機関への配慮もあるといわれる。

   そうはいっても、地銀や信金などは、通常貯金の限度額撤廃だけでも「限度額の規制があるがためにゆうちょ銀を使っていなかった取引先の中小企業が、代金決済用口座をゆうちょ銀に移す可能性がある」ことなどを懸念している。兆円単位で資金が動けば、影響は計り知れない。

民間銀行側の反発は簡単に収まりそうになく、議論はなお、もつれそうだ。

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