2018年 10月 23日 (火)

山里亮太、憲法を考える 第9条と総裁選の行方

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J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(南海キャンディーズ)
J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(南海キャンディーズ)

   自衛隊の在り方をめぐって第9条をどう読み解くか――。いま安倍政権がすすめている「憲法改正」についてさまざまな議論が行われています。

   明日投開票が行われる自民党総裁選でも「憲法改正」は大きな争点です。

   日本国のグランドデザインである「憲法」とはいったい何なのか。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太が、日本国憲法の第一人者である戸松秀典氏に、憲法の考え方を取材しました。

安倍首相は憲法を変えられない

憲法学者の戸松秀典氏
憲法学者の戸松秀典氏

山里: ニュースの見方もあると思うんですが、特に「第9条」の改憲問題がワイドショー的な取り上げられ方をみると、「日本がもう戦争できる国になっていいのか」「いやいや、そうじゃない。戦争にはならない」とか言われていて。ものすごく怖い話し合いが行われているんですよね。
憲法を変えることって僕らにとってすごく嫌なことが起こるんじゃないかっていう一面しか届けられていないと思うんですが。

戸松: 安倍晋三首相が変えるって言っているのですよね。しかし、そもそも、憲法を改正するのは、一国の首相や大臣の役割じゃないのですよ。憲法99条が定めるように、首相や大臣は憲法を尊重し擁護する立場にあります。もし現行憲法を変えたいと思うなら、首相を辞めて、一政治家として、憲法改正もしくは自民党の目指す自主憲法の制定を推進すべきです。

山里: そうなんですか。

戸松: ええ。政権を担当し維持する政党は、憲法をもとに、憲法のもとで形成する法秩序を推進しようとするものです。それを考えると、日本というのは、憲法の状況が諸外国と比べて「異常」です。日本国憲法の70年余りの歴史において、政権を握り、政権を担っている政党が憲法を改正したいと主張し、逆に、野党が憲法を守ると主張する状態がほとんどつづいているのです。こんな国はないですよ。日本は"逆"なんです。

山里: 言われれば矛盾はありますね。

戸松: 日本の法秩序というのは、合理的説明ができない奇妙な状態となっていることが少なくないです。そうした状態が長年続いていると、多くの人はこういうものだと思ってしまう。その具体例はあとで示すことにします。
ただ、私は、憲法学を専攻して以来、「いつか変わらなくちゃいけない」と思っていたのだけど、結局定年退職するまで変わっていないという感想をここで申しておきます。社会で、皆さんは、このままでよいと思い込んでいるのではないでしょうか。

山里: そうですね、70年間まったく変わっていない。僕が思うのは、生まれたときの時代背景には即しているけれど、もう何十年も経っているから、さすがにこれはもう合わないだろうっていうルールが生まれてくるんじゃないかなって。

戸松: 憲法は、一般的、抽象的なことばで書かれています。あくまでグランドデザインです。私は、法秩序を大樹にたとえると、幹にあたる部分が憲法で、枝葉が法律、条例、規則、命令などの諸法規にあたると説明しています。
みなさん憲法、憲法、と言いますが、憲法に書かれていることばは、概して一般的で抽象的です。
実際皆さんが、何をルールとして認識しているかというと、そのもとに形成されている法律や条例の定めるところです。法律は、憲法の規定から外れないように内容を具体的に定めている。法律に定めることについて問題となる場合、憲法からすぐ論理必然的に答えは出てくるはずはなくて、「この法律は憲法に合っているのかどうか」という議論や検討の過程をふんで、ルールを作っている。

山里: 具体的に法律を作って憲法に照らし合わせたときに、憲法の条文が意味を成すってことですね。

戸松: 第9条についてもそうですよ。

第9条2項の「戦力」や「交戦権」を考える

山里: 解釈の問題、ということでしょうか。

戸松: 第9条2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とあります。(下記参照)

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「戦力は、保持しない」と定めてはあるのだけど、この国は、自衛権を持っているはずだから、自衛のための必要最小限の戦力をもっていなくてはいけない。この考えを基礎に、自衛隊を設け、維持してきたのです。現状の自衛隊だったら、侵略するために存在しているわけではないですから、第9条の条文に合っているだろうと。大変な議論が交わされて年数を経てきましたが、こういう理屈で一応収まっている。
そこにはあいまいさを払しょくできないのですけども、もう一度9条2項を見てください。戦力を保持しないとあって、そのあとに、国の交戦権はこれを認めないって書いてあるでしょう。

山里: はい。

戸松: 先ほどの話の最初に戻りますけども、憲法を守りたいとする護憲派の政治勢力の人たちは、その戦力の不保持や交戦権についてもきちっと解釈する、すなわちきわめて厳格な解釈をしてきました。そのため、現実離れした議論になってしまいます。

山里: どういうことでしょうか。

戸松: 自衛隊が自衛のための必要最小限の戦力を持っていても、交戦権は保持できないという部分を厳格に解釈して、およそ武器の使用を自衛隊がいっさいできないとする場合を考えてみて下さい。今度総裁選にでる石破氏も先日ラジオで、「自衛力を持つために戦力をもっており、万が一の際は戦わなくてはならないことがあるでしょう。これを交戦権といっていいでしょう。侵略のための交戦権は認めないかもしれないけども、自衛のための交戦権は行使するのは当たり前でしょう」と。
しかし、野党は、それをいうと憲法を改正することに等しくなるから、交戦権の行使は絶対に認められない、というふうに主張してきました。

山里: 先生はどう解釈されていますか?

戸松: 9条の平和主義とか天皇制は、純粋な法論議よりも、理想主義的な理念や歴史的遺産をどう具体的政治場面に生かすかといことに判断の多くがかかっているため、法解釈の合理性を突き詰めるようなことができないといえます。したがって、私は、これまで議論には参加しない方針で研究をしてきたのです。感情的でヒステリックな議論も大嫌いでしたしね。憲法学者の中には私のことを「憲法学者なのに9条に触れないなんて、それは憲法学者じゃない!」などと言った人もいますけど(笑)。
でも、まあ、そうですね......。自衛のための戦力を行使するため戦闘となることは事実として否認できないのですから、そのことを交戦権の行使に当たると言わざるを得なく、これは、自衛隊の存在を前提とした憲法9条の範囲内にあると言っていいと思うのです。
このようにいえば、安倍晋三首相の提案する自衛隊をうたった9条3項を設けるという憲法改正を言わなくても、今の自衛隊のままでよいのではないかということになるのですけど。

山里: 有事の際は自衛隊が交戦できる、ということですか。

戸松: その有事の際とはどのようなことかがまず問われます。事実からかけ離れた単なる机上の議論は、よろしくないと思います。
それはともかく、自衛隊員に気の毒なのは、向こうが撃ってきたら、それに対して応じなければいけないはずなのに、いかなる意味の交戦権をも認めないことになっていたら、一方的に攻められるだけで、自身も国も守れないことになってしまいます。
以前、稲田防衛大臣は、自衛隊の南スーダンの日報問題で、「戦闘」があったのか、国連の平和維持軍としての行動に憲法の禁ずる交戦行為があったのかについて、国会で追及されましたが、その背景に、9条2項の解釈をめぐる対立が存在していたのです。 憲法上は交戦権を認めていないから自衛隊は交戦権を行使してはいけないことになっている。そのため、戦闘状態があったとしても、交戦したことを認められない。それで、政府は、交戦について認めたくなかったのでしょう。
本当は、どうだったのでしょうか。事実が重要です。そこをはっきりさせないで、「戦闘」いや「衝突」であったなどと、ことばの使い方のレベルに終始していたのは、奇妙なことです。
しかし、この問題は、だからといって憲法が悪い、だから変えようという話にする問題ではなくて、日本の法秩序の維持の仕方が、ごまかしごまかしだということに注目しなければならないと思うのです。

安倍氏、石破氏ともにトーンダウン

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山里: これから総裁選の投開票が始まります。やはり改憲なのか護憲なのか。9条のことなのか。緊急事態条項なのか。いろいろニュースが飛び交ってくると思うんですけれど、われわれはどういう風に、ニュースを受け止めればいいのでしょうか。
憲法を選挙の道具に使っているようにどうしても見えてしまう国民もいると思います。

戸松: それでもニュースをよく見てください。安倍首相の掲げた公約のなかでも、最近は、憲法改正の比重が落ちているよう感じられます。他の施策をいくつか示し、任期の最後として成果をあげ、歴史に名を残そうという意気込みは強いと言えます。たとえ憲法改正が、それも9条3項に自衛隊をうたうという改正ですが、国会の発議にまで至っても国民投票で否決されるおそれは大ですから、そのような冒険をあえておこなうほどの情熱を感じることができません。
そういうわけで、安倍首相はちょっとトーンダウンしているし、石破氏は、憲法改正なんて正面に出していないです。連立政党の公明党は、憲法改正には消極的です。

山里: なるほど。

戸松: いろいろなバランスを考えると、安倍さんが提示している憲法改正は実現しないないでしょう。その前にもっと経済的な問題、財政に関する問題、地方創生問題、あるいは、災害被害への対策、さらには議会政治の効率化をめざした改革などについて取り組むべきでしょう。
いずれにしても、総裁選の行方もそうですが、今後の私たち国民は、政治の動きの中で、憲法と法律によって形成されていく法秩序について強い関心を向け、各自の考えを互いにぶつけ合う雰囲気を作り上げていかなければならないと思います。

(続く)




プロフィール

戸松 秀典(とまつ・ひでのり)
憲法学者。学習院大学名誉教授。
1976年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。新・旧司法試験委員、最高裁判所一般規則制定諮問委員会委員、下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員、法制審議会委員等を歴任。

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