2024年 4月 18日 (木)

仁徳天皇陵?大山古墳?メディアも混乱 考古学者に見解を聞いてみた

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   宮内庁が大阪府堺市にある国内最大の前方後円墳について、地元自治体と初の共同調査を始めると発表した。この古墳について、各メディアはネット版の見出しで「仁徳天皇陵」「仁徳陵」などと報じている。一方、本文では「大山(だいせん)古墳」と併記する。

   一方、こうした見出しを目にして、学校で「大仙古墳(伝・仁徳天皇陵)」と習ったとして、ツイッターで違和感を示す人も相次いだ。「せん」の文字が「山」でなく「仙」になっている人も多い。教科書での記述の変遷を指摘する声もあり、ちょっとした混乱状態だ。どういう表記が標準的と言えるのか、J-CASTニュースが考古学者に意見を聞いた。

  • 堺市サイトの関係ページでは「仁徳天皇陵古墳」の記載が(画像は同市公式サイトより)
    堺市サイトの関係ページでは「仁徳天皇陵古墳」の記載が(画像は同市公式サイトより)
  • 堺市サイトの関係ページでは「仁徳天皇陵古墳」の記載が(画像は同市公式サイトより)

同じ社でもバラつきが

   共同調査は、宮内庁と堺市が2018年10月15日、発表した。堺市発表のリリースによると、「仁徳天皇百舌鳥耳原中陵(大山古墳)」の保全管理のために行う。宮内庁が管理する歴代天皇や皇族の陵墓の発掘で、外部機関が参加するのは初めてとなる。

   このニュースを報じるメディア(断りがない場合はネット版、15~16日配信)の見出し部分の古墳表記を確認すると、「仁徳陵」(読売、日経、産経)、「仁徳陵古墳」(朝日)、「仁徳天皇陵」(NHK、毎日、共同)などとなっていた。テレビ朝日は、通常記事版では「仁徳天皇陵」となっていたが、「報道ステーション」用記事版では「『仁徳天皇陵』の大山古墳」と、「大山古墳」の文字が登場していた。

   もっとも、テレ朝以外にも同一社が複数の記事を配信し、それぞれ異なる表記を見出しに使っているケースもあった。また、たとえば毎日新聞(紙版)では、東京最終版で「仁徳天皇陵」、大阪最終版で「大山古墳」と、発行エリアによって見出し表記が異なっていた。

   本文ではどうか。「大山古墳(仁徳天皇陵)」(読売、毎日)、「大山古墳(仁徳陵古墳)」(朝日)、「仁徳天皇陵として(宮内庁が)管理する大山古墳」(共同、時事)、「『仁徳天皇陵』として管理している大阪堺市<編注:原文ママ>の国内最大の前方後円墳」(NHK、記事中に「大山古墳」記載は出てこず)などとなっている。

教科書表記の変化

   こうした(主に見出しの)報道ぶりに対し、ツイッターでは、

「NHKまで仁徳天皇陵って言ってるが、あれは大仙陵古墳だろ」
「あくまで『伝・仁徳天皇陵』ないしは『大仙古墳』と呼ぶ、と習いました」

といった指摘が相次いだ。一方で、逆の形となる、

「うちの親父は『仁徳天皇陵』は知ってたけど、『大仙陵古墳』は知らなかったみたい」

といった声もあった。

   こうした「差」が生まれた背景には、教科書記載の変遷がありそうだ。朝日新聞の「教科SHOW 中学校の歴史 『仁徳天皇陵』改め『大仙古墳』」(2008年3月27日)によると、日本最大規模の古墳について「『仁徳天皇陵』と習った人も多いはず。この古墳の名称が10年ほど前から、『大仙古墳』などと表記されるようになった」。08年の「10年ほど前」というと、1998年前後、まだ20世紀の頃だ。記事では、考古学者らが「仁徳天皇が埋葬されているか確認できない」として、所在地名に由来する「大仙古墳」などと呼ぶようになり、「東京書籍の表記も変更された」。

   こうした変化について、テレビのクイズ番組などで小耳にはさんだことがある、という人も多そうだ。人気長寿番組「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)へ何度も出演している歴史研究家の河合敦さんも現代ビジネスでの連載(16年6月16日)で、「(教科書で)仁徳天皇陵は『大仙古墳(伝・仁徳天皇陵)』と表記されるようになりました」と紹介している。もっとも、「新しい歴史教科書をつくる会」のツイッターは今回(10月16日)、

「なお、当会の自由社教科書は(略)『仁徳天皇陵(大仙古墳)』で表記しております」

と紹介している。

   こうした表記のバラつきに対し、「まあ、どちらでもいいんじゃない?」という感想を持つ人も少なくなさそうだが、実は国内にとどまらず、世界に影響を与えかねない問題となる可能性がある。

   この焦点の古墳を含む「百舌鳥・古市古墳群」について、政府は1月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に推薦した。文化庁資料によると、構成資産のひとつとして「仁徳天皇陵古墳」の名称が挙げられている。これに対し、日本考古学協会など13学術団体は9月28日、古墳名称について、現状のままでは「被葬者が認定されているように理解される危惧を覚えます」とし、「構成資産名は、学術的な観点にもとづくものとすること」などを要望する見解を公表し、文化庁などに届けた。「世界的な認知」に関わる点も指摘している。

講演でも、会場の年齢層をみて...

   こうした現状を踏まえ、今回の「初共同調査」ニュースのメディアの報道ぶりや、ネット上の一部の違和感の声などについて、陵墓問題に詳しい考古学者に話を聞いた。

   熊本大学文学部の杉井健・准教授は10月16日、J-CASTニュースの取材に対し、今回のメディアの報道ぶりについて、

「個人的には、年齢が上の人も対象にする新聞などが、見出しに『仁徳陵』『仁徳天皇陵』を使うのはやむを得ないと考えます」

   と、理解を示した。ただ、あくまで「個人的」な意見であり、研究者の中には、学術的に「大山(仙)陵(古墳)」の方を使うべきだという人もいるだろう、とも解説。また、

「教科書記載の変遷の影響で、若い世代の人達には、大山(仙)陵(古墳)の方が通りやすいでしょう」

と話した。講演をする機会があるときは、会場の年齢層をみて表現を変えることもあるそうだ。基本的な表記としては、学術的に「大山(仙)~」を先に書いて、後に「(伝・)仁徳陵」などを続けて併記する形が望ましいと考えている。最後に、あらためてメディアの見出しの在り方について質問すると、

「それは各メディアが、自社の読者層を想定しながら決めることでしょう」

とのことだった。

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