2019年 3月 23日 (土)

「まだ問題は解決していなかったのか」 バルセロナに届いた福島からの手紙【震災8年 海外とつながる(1)】

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   東日本大震災から8年。被災した各地にはこれまで、国内外からさまざまな支援が寄せられてきた。そのなかで、海外との間で新たに生まれた縁もある。

   J-CASTニュースは今年も東北を訪れ、世界とのつながりをテーマに取材を重ねた。1回目は、福島市の寺院とスペイン・バルセロナを結ぶ「手紙」に焦点を当てる。

  • 安洞院住職の横山俊顕さん。敷地内には、東日本大震災慰霊塔が建てられている
    安洞院住職の横山俊顕さん。敷地内には、東日本大震災慰霊塔が建てられている
  • 「モンスター展」で掲示された「祈りの手紙」。スペイン語の翻訳もある(写真提供・つのだひろしさん、編集部で一部加工)
    「モンスター展」で掲示された「祈りの手紙」。スペイン語の翻訳もある(写真提供・つのだひろしさん、編集部で一部加工)
  • 今年2月、バルセロナで再会したつのださん(写真左)と横山さん(写真提供・横山俊顕さん)
    今年2月、バルセロナで再会したつのださん(写真左)と横山さん(写真提供・横山俊顕さん)
  • 「モンスター展」での「祈りの手紙」の掲示(写真提供・つのだひろしさん)
    「モンスター展」での「祈りの手紙」の掲示(写真提供・つのだひろしさん)
  • 横山さん(写真中央)を囲むのは、「祈りの手紙」のスペイン語訳を手伝ったバルセロナの日本人留学生たち(写真提供・横山俊顕さん)
    横山さん(写真中央)を囲むのは、「祈りの手紙」のスペイン語訳を手伝ったバルセロナの日本人留学生たち(写真提供・横山俊顕さん)

「皆さん、自分の居場所を探している気がします」

   福島市の安洞院は、1595(文禄4)年に建立された曹洞宗の古刹だ。ここで毎年3月11日、東日本大震災の慰霊祭が行われる。2017年には「祈りの日」として、法要に加えて鎮魂のための芸能の奉納、さらに震災をテーマにした手紙を広く募集し、本堂で参列者を前に朗読する「祈りの手紙」が始まった。

   企画の発起人は詩人・和合亮一さん。初回は準備期間が約2か月と短かったが、安洞院住職の横山俊顕さん(39)を中心に募集活動を進めた結果、福島県内を中心に東京や大阪などから20通以上が寄せられた。当日は本堂が満員となり、およそ150人が手紙の朗読に耳を傾けた。

「涙なくしては聞けない雰囲気でした」

   横山さんは、こう振り返る。故郷が津波にのまれ、家を失った女性。原発事故の放射能の影響で、育ててきたリンゴの木を泣く泣く切り落とした男性。津波で亡くなった人たちに寄り添う気持ちを込めた12歳の子の作品も読まれた。震災から既に年数がたっていたが、何が多くの参加者を引きつけたのか。

「皆さん、自分の居場所を探している気がします。福島県は原発事故が尾を引いて『やってられない』気持ちを抱えている人もいれば、津波の被害は宮城県や岩手県よりましだったのだからがんばろうと考える人もいる。複雑な状況のなか、誰かの話を聞きたいと足を運んで来るのかもしれません」

   2年目の「祈りの手紙」には、前年の倍以上の手紙が寄せられた。そのなかから選ばれた手紙を朗読したのは、女優・紺野美沙子さんだ。

   そして2019年は、3月11日の朗読のほか、新たな試みがある。手紙が海を越え、バルセロナの地でスペインの人たちの目に触れるのだ。

   横山さんにはもともと、震災経験者のリアルな声をすくいあげ、海外で伝えたい願いがあった。この数年、国際ボランティア会の研修で東南アジアを頻繁に訪れている。現地で知り合った別の国際協力団体のスタッフと話すなかで、福島への心配や励ましが寄せられる一方、外国では「日本は放射能をまき散らした加害者」との見方があることも会話を通じて肌で感じた。

「その時まで、自分たちは被害者だと考えていました。ところが国際社会では、その考えが通用するとは限らない現実に直面したのです」

   メディアは「福島の復興」「福島は元気」とアピールする。だが実際は今も打ちひしがれ、立ち上がれない人たちがいる。「祈りの手紙」を通して、悩みや苦しみの声も包み隠さず発信する、それも国内だけでなく海外にも向け、現状を理解してもらおう。それが宗教者としての自分の役割だと横山さんは決意した。

「とっくに復興しているだろう」思いこむ人の多さ

   バルセロナとのつながりは、偶然から生まれた。当時現地に住んでいた友人を2018年8月、私的に訪ねた。友人は、「自分が帰国した後も人脈ができるように」と、いろいろな人を紹介してくれた。そのひとりが今年の「祈りの手紙」に協力するデザイナー、つのだひろしさん(44)だった。

   2000年からバルセロナを拠点に活動するつのださんは、東日本大震災をきっかけに現地の日本人に声をかけ、2012年3月に団体「KOREKARA JAPON」(コレカラハポン)を立ち上げ、毎年3月に震災にまつわるイベントを開催している。

   それでも年月とともに、「遠い日本」で起きた過去の震災への関心が薄れてきている。またスペインの人々の、こんな「思い込み」もあるようだ。

「日本のことだから、(被災地は)とっくに復興しているだろう、問題は解決しているはずだ、と思っている人が多いのです」

   実際は――。つのださんは一時帰国するたびに東北を巡る。完全復興からはほど遠い被災地が目に入る。その姿がバルセロナでは伝わっていないと、もどかしさを抱えていた。

   横山さんとつのださんは、会話の中でお互いの活動を共有し「何か一緒にやろう」との思いを強くした。横山さんが帰国した後もやり取りを重ね、「祈りの手紙」をバルセロナで紹介する企画が固まった。

   日本人若手デザイナーが、自然災害をテーマに制作した作品を披露する「モンスター展」。その会場にスペースを設け、手紙をスペイン語に訳して展示するのだ。バルセロナの日本人留学生がボランティアで翻訳作業にあたった。今年は2回行われる「モンスター展」、2月中旬にスタートした1回目では、昨年の手紙を使用した。訪れた人の中には手紙の内容から、福島をはじめ震災被災地の現状を読み取り「まだ問題は解決していなかったのか」と驚く様子が見てとれたという。

ありのままを海外で知ってもらう大切さ

   今年2月初旬、横山さんはバルセロナを再訪してつのださんと再会する傍ら、現地在住者を対象に講演会を開いた。参加者の中にはスペイン人僧侶もいた。「祈りの手紙」や震災後の福島の暮らしについて話すと、訪れた日本人からは、被災した人の「生の声」を聞く機会がない、一方で欧州メディアは震災直後の福島の映像を今も流しており、「本当は今、どうなっているか」を知りたいとの意見が出た。スペイン人女性は、福島に住む主婦たちの生活を気遣っていた。

「福島のリアルな日常が、スペインでは伝わっていない」

   こう感じた横山さんは、「祈りの手紙」を通して、ありのままを海外で知ってもらう大切さを再認識した。

   一方、つのださんは「海外に長く滞在していると、日本への愛情が高まります」と話す。半面、日本に住む人たちには「もっと被災地の現状を理解し、人々の声に耳を傾けてほしい」と願う。

   きょう3月11日、地震発生の14時46分に合わせて、バルセロナでは在留邦人らが浜辺に集まってキャンドルに火をともし、黙とうする。現地は朝6時46分。つのださんをはじめ「KOREKARA JAPON」のメンバーも参加する。

   遠くスペインから、鎮魂の祈りがささげられる。(この連載は随時掲載します)

(J-CASTニュース編集部 荻 仁)

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