2024年 4月 24日 (水)

御堂筋線が叩かれ、銀座線が受け入れられた理由 地下鉄駅リニューアル「東西の事情」

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   大阪メトロは2019年8月29日、御堂筋線心斎橋駅など5駅のリニューアルデザインの修正プランを発表した。18年12月に発表した駅リニューアルデザインが大きな批判を浴び、再検討を行った結果の案である。

   デザインの「炎上」を招き、修正にまで至ったのはなぜか。とりわけ、御堂筋線と同時代に建設された東京の地下鉄のケースと比較すると、沿線文化の生かし方の相違が浮き彫りになった。

  • 御堂筋線心斎橋駅のリニューアルデザインの決定プラン(上)と当初のプラン(下)(プレスリリースより)
    御堂筋線心斎橋駅のリニューアルデザインの決定プラン(上)と当初のプラン(下)(プレスリリースより)
  • 現在の心斎橋駅。シャンデリアは新デザインで一転存続が決まった(Wikimedia Commonsより)
    現在の心斎橋駅。シャンデリアは新デザインで一転存続が決まった(Wikimedia Commonsより)
  • 浅草寺の赤と提灯風の照明を採用した銀座線浅草駅(Wikimedia Commonsより)
    浅草寺の赤と提灯風の照明を採用した銀座線浅草駅(Wikimedia Commonsより)
  • 銀座線上野駅の名物だった電光サイン。現在はホーム壁面に移設された(Wikimedia Commonsより)
    銀座線上野駅の名物だった電光サイン。現在はホーム壁面に移設された(Wikimedia Commonsより)
  • 御堂筋線心斎橋駅のリニューアルデザインの決定プラン(上)と当初のプラン(下)(プレスリリースより)
  • 現在の心斎橋駅。シャンデリアは新デザインで一転存続が決まった(Wikimedia Commonsより)
  • 浅草寺の赤と提灯風の照明を採用した銀座線浅草駅(Wikimedia Commonsより)
  • 銀座線上野駅の名物だった電光サイン。現在はホーム壁面に移設された(Wikimedia Commonsより)

心斎橋は「テキスタイル」から大幅修正

   18年12月に御堂筋線と中央線の15駅のリニューアルデザインが発表されると、そのデザインが物議を醸した。

   とりわけ批判を浴びたのが、御堂筋線心斎橋駅のデザインである。駅周辺が百貨店などのファッション産業が盛んなため「テキスタイル」をコンセプトにしたが、ドーム型の天井には緑色系の目立つ装飾模様が施され、「悪趣味」「派手すぎる」という批判が噴出。撤回を求める署名も集められて大阪メトロに提出された。

   この区間(梅田~心斎橋)は1933年に大阪初の地下鉄として開業した区間で、現存する戦前の大阪の都市建築として歴史的価値を認められていた。御堂筋線の歴史をあまりに軽視したデザインではないか、という批判が、当初のものに対しては少なくなかった。

   再検討後のデザインはデザイナーの奥山清行氏を起用し、各駅とも落ち着いた色調になった。心斎橋駅は「ジ・オオサカ・ブランド」をコンセプトとし、原色ベースの派手な装飾から茶色ベースのものに変わり、アーチ天井のシャンデリア型照明も残すことが決まった。18年12月に発表された淀屋橋駅のデザインに近づいた印象だ。

銀座線でのケースは...

   近年駅のリニューアルが進んでいるのは、大阪メトロだけではない。同じく戦前に開業した東京メトロ銀座線でも17年から各駅の大規模リニューアルに着手しているが、こちらは大きな批判を浴びることなく平穏に進んでいる。

   銀座線のリニューアルは時間をかけて周到に行われた。全線を「下町エリア」「商業エリア」「銀座」「ビジネスエリア」「トレンドエリア」の5エリアに分けて12年からデザインを公募し、下町エリア(浅草~神田)はすでにリニューアルが完了している。各駅では沿線の歴史と文化を象徴するアイテムを込め、沿線文化が実感できるデザインとした。

   浅草駅は浅草寺の塗色に使われる赤色「べんがら色」でホーム壁面を飾り、職人工芸の店が残る稲荷町駅は木目調の壁面と採用した。乗客が慣れ親しんだデザインも一部は残され、上野駅にあった、電車接近を知らせるレトロな「電車が入ってきます」という電光サインはホームに移設、秋葉原電気街に近い末広町駅の1980年代風の家電製品イラストも一部が残された。どちらも心斎橋駅のシャンデリアのように、その駅らしさを感じさせるアイテムだった。

先鋭的で自己主張も強かった当初案

   比較すると、大阪メトロの最初のリニューアルデザインは各駅で表現したいコンセプトを重視したあまり、駅と沿線のカルチャーが軽視され、先鋭的なデザインとなった印象だ。「テキスタイル」の心斎橋駅のほかにも、梅田駅は当初「インフォメーション・ターミナル」というコンセプトで、心斎橋駅同様のアーチにデジタルサイネージが設置されるイメージだった。沿線文化の活用にしても、谷町四丁目駅では大坂城(大阪城)の黄金の茶室をイメージしてホーム全面が金色に塗られるデザインとなり、船場に近い堺筋本町駅では「町人言葉」をかるたのように天井に張るデザインが当初案だった。控え目な色彩で、分かる人に分かるデザインにとどめていた銀座線と比べると自己主張も強かった。

   修正案では心斎橋駅のシャンデリアや動物園前駅の動物を描いたタイルの一部保存が決まり、梅田駅や中津駅も現状から逸脱し過ぎない案に落ち着いた。堺筋本町駅の町人言葉も天井には張られなくなり、その他の駅もデザインの再検討がなされた。

どのように「まちの文化」を駅デザインに生かすか

   当初デザイン発表直後の18年12月に署名サイトchange.org(チェンジドットオーグ)上でデザイン見直しを求める署名を呼び掛けた作家の柴崎友香氏は9月1日にツイッターで、デザイン変更は「大きな決断だったと思います」と評価しつつも、

「当初の案の是非や新旧デザインの比較ばかりが目立ち、開業当初の面影を残す御堂筋線各駅の歴史的、都市空間的な価値や、そこに愛着を持っている人が多くいることがあまり取り上げられなかったことは残念に思っています」

と投稿した。

   東京メトロと大阪メトロの駅リニューアルの進め方は、まちの文化を駅デザインにどのように生かすかの違いで、世間の反応が分かれた形になった。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)

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