JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)からの「指導」により、「校歌の歌詞」を卒業式の案内などに掲載できないと保護者に連絡があったとして、ツイッター上で物議を醸している。この問題についてJ-CASTニュースがJASRACに問い合わせたところ、積極的に「掲載できないという指導をすることはありません」とする。また、音楽の中でも「校歌」については特有の規定があるという。校歌をめぐる著作権事情について詳しく聞いた。「卒業式などの式典のご案内に校歌歌詞を掲載できなくなっています」発端は2019年9月19日にあるツイッターユーザーが投稿した1枚の写真。子どもが通う小学校のPTAから保護者向けに配布された冊子を撮影したもので、次のように連絡事項が書かれている。「体育館内に設置する校歌額をPTAより寄贈いたします。JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)からの指導により、卒業式などの式典のご案内に校歌歌詞を掲載できなくなっています」自校の校歌であっても「JASRACからの指導」で自由に歌詞を使うことができず、使用料の支払いが必要であることを示唆する内容。1万3000回以上リツイートされるなど注目が集まり、「これはさすがにやりすぎでは・・・」「著作権て、学校は関係ないのでは?」といった疑問の声があがった。一方で、「権利者がJASRACに信託しているのでしたら、ごく当然の話」と記載内容を冷静に受け止める向きも少なくない。J-CASTニュースの取材に応じた投稿者の男性によると、今回の冊子は運動会を前にして配られた。保護者向けの運動会プログラムに校歌の歌詞掲載ができない旨を伝えているという。小学校は公立で、男性は「非営利の学校行事で、歌詞を配布物に記載するのにお金がかかるというのは驚きました。でも権利者がいることですから当然だという指摘も理解できます」と話す。冊子に書かれているようなことは本当にあるのか。J-CASTニュースの25日の取材にJASRAC広報担当者は、「JASRACかどうかを抜きにして、まず歌詞の作者には著作権が発生し、その中に複製権というものがあります。他人が印刷物などに歌詞を複製する行為は、基本的に著作権者の許諾が必要です。校歌の歌詞に関して、学校は依頼者であり、歌詞には作家(著作権者)がいますので、原則として校歌歌詞の複製にも学校は作家の許諾を得る必要があります」と話す。ただし例外がいくつかあり、代表的なものが著作権法30条の「私的使用」。さらに同35条には「学校」における複製について定めており、「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる」として、条件つきながら自由に複製できるとしている。なおJASRACウェブサイトの「ジャスラの音楽著作権レポート」では、「式典のために歌詞や楽譜をコピーする」ことについて、「入学式・卒業式は『授業』の一環ですが、部数が多い場合、手続きが必要になります」と説明している。校歌におけるJASRACとの「契約上のオプション」では学校で校歌の歌詞も複製してよいのではないかとも思われるが、この35条についてはJASRACや日本新聞協会、日本雑誌協会、日本レコード協会などからなる「著作権法第35条ガイドライン協議会」が2004年に作ったガイドラインが存在する。JASRAC担当者は次のように説明する。「著作権者の利益を不当に害することがないよう、複製部数に制限を設けています。条文にある『必要と認められる限度』について、ガイドラインは人数分を限度としています。たとえば必要な生徒・児童が30人なら30枚までとなります。今回、卒業式や運動会で全校児童の保護者向けの印刷物に、著作物である歌詞を掲載する場合、35条があるといってもガイドラインで著作権の保護が及び、著作権者の許諾を得なくてはいけません。裏を返せば、許諾を得られれば掲載できるということです」一方、「校歌」を含む一部の音楽については、作家がJASRACに著作権を預けるにあたって、契約上の「オプション」が存在する。担当者によると以下の3つの方法がある。(1)作家の著作権をJASRACにすべて預ける(2)作家の著作権を、校歌の依頼主である学校側にまるごと譲渡する(JASRAC著作権信託契約約款10条)(3)作家の著作権をJASRACに預けるものの、校歌の依頼主である学校が使用する際は使用料を免除する(留保制限=同11条)担当者は、「(2)の『譲渡』を選んだ場合、万一、学校以外の他人が校歌を使いたい場合に許諾を与えることが難しいですし、そもそも学校に自分の権利そのものを渡すことに抵抗がある作家もいるでしょう。そこで、JASRACに預けながら校歌の依頼主である学校には権利行使しなくてよいという(3)の『留保制限』があります」とオプションの背景を明かしたうえで、次のように今回のケースに照らして話す。「今回の件は『PTAからの連絡』ということですが、学校も関与していて、仮に校歌歌詞の著作権が学校に『譲渡』されている場合はもちろん、『留保制限』されている場合も許諾・使用料は不要になります。原則、作家はJASRACとの契約にあたって作品の届出をする中で、『譲渡』や『留保制限』を明示することになっており、校歌であればこのどちらかを選んでいるケースは多いです。ただ各作品が『譲渡』や『留保制限』されているかまでは公表していないので、他人が使いたい場合は使用申請いただいた際にJASRACで確認し、案内しています」掲示用の「校歌額」をつくる場合は?使用料が必要な場合、その料金はJASRACの「使用料規程」で定めている。運動会プログラムのような配布物の場合、部数によって区分があり、1曲あたり1~100部であれば1600円、101~1000部であれば1800円などとなる。また今回のように「歌詞のみ」を掲載する場合はこの半額で、それぞれ800円、900円となる。一方で担当者によれば、「校歌額」という形で掲示する場合、使用料規程に「展示物・掲示物等」という別の規定に沿うことになる。規定は次の3種類に分けられており、校歌額であれば(ウ)に該当する可能性が高いとしている。(ア)書道作品、美術作品、工芸作品等の原作品=1部3000円(イ)歌碑等恒久的に設置される工作物=1部25000円(ウ)(ア)及び(イ)以外の出版物等=複製部数にかかわらず7500円自校の校歌の歌詞であってもこうしたルールがあることについて、担当者は「著作権法の規律としては、自校かどうかは関係ないということになります。誰が歌詞の権利を持っているかと言えば作家だからです。ただ、皆さんが自然に抱く疑問と同じような疑問はこちらも持っていて、だから『譲渡』や『留保制限』の仕組みがあるといえます」と話す。また、冒頭の冊子に書かれているような、「JASRACからの指導」で「校歌歌詞を掲載できない」ということはあるのかについては、「JASRACとしては使用料をお支払いいただければもちろん許諾します。額なら掲載できるがプログラムには掲載できないということもありません。お問い合わせがあれば許諾の要否を案内しますが、そもそもこちらから積極的に『使用できない』などと案内・指導することはありません。条件に則ってぜひお使いいただきたいというのがJASRACの立場です」と話している。(J-CASTニュース編集部 青木正典)
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