2019年 11月 17日 (日)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
Wシリーズで起きた大統領へのブーイング

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   「我々の大統領に向かって『Lock him up! (やつを刑務所に入れろ)』と大合唱なんて。アメリカ人がすることではない」――。こうした声が反トランプ派からもあがり、物議を醸している。

   2019年10月27日、トランプ大統領はメジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズを観戦した。試合途中に紹介され、スタジアムの巨大スクリーンにメラニア夫人とともに映し出されると、観客から大きなブーイングを浴びた。

  • メジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズを観戦するトランプ大統領とメラニア
夫人(2019年10月27日、ホワイトハウス公式Flickrより)
    メジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズを観戦するトランプ大統領とメラニア 夫人(2019年10月27日、ホワイトハウス公式Flickrより)

「やつを刑務所に入れろ」の大合唱

   トランプ氏はこの日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者の殺害を発表。その後、ホワイトハウスの地元のワシントン・ナショナルズとヒューストン・アストロズの試合を観戦した。

   ワールドシリーズのスタジアムでは最初に米兵が紹介されると、観客から歓声があがった。しかし、トランプ氏らの映像に切り替わると長いブーイングが続き、その後、「やつを刑務所に入れろ」と大合唱がわき起こった。

   これは、2016年米大統領選のキャンペーン中に、トランプ支持者の集会で対抗馬のヒラリー・クリントン氏に対して叫ばれていたスローガンだ。大合唱は、ウクライナ疑惑に関する弾劾調査を受けたものと思われる。会場には「トランプ弾劾」の大バナーも見られた。

   首都ワシントンとその郊外で、トランプ氏は人気がない。2016年の大統領戦でワシントンの90%以上がクリントン氏に投票。トランプ氏に投票したのはわずか4%と、歴史的な 低さだった。ワシントンでトランプ氏が外出することはほとんどないと言われており、大統領就任後、同氏が大リーグの試合を観戦したのは初めてだという。

   トランプ嫌いのワシントンとはいえ、イスラム過激派の最高指導者を殺害という「大きな手柄」の直後だけに、観客の反応にトランプ氏は驚き、落胆したようにも見える。

民主党議員も「大統領職は敬意を払われるべきだ」

   アストロズのファンで、テキサス州ヒュートンに住む男性(50代)は、「あんなにブーイングし続けるなんて、失礼極まりない。もともとあの辺りに住む連中は礼儀知らずだ。支持者の多い町で観戦すれば、反応は全く違ったはずさ」と話す。

   共和党寄りのFOXニュースはワシントンでの試合の翌朝、トランプ氏の様子を流したものの、CNNなど民主党寄りのネット局の報道と違い、動画から観客のブーイングは聞こえず、「さまざまな反応があった」と伝えるにとどまった。

   これに対して、「事実を伝えないFOXは、フェイクニュースだ」という声がある一方で、「野球とは関係のないこと。伝える必要はない」とする声もあがっている。

   その後のFOXニュースの番組で、共和党の世論調査専門家フランク・ランツ氏は、「気に入らないからといってブーイングするとは。大統領には敬意を払うべきだ。ブーイングした人たちは、責任を取らなければならない」と批判した。

   ブーイングに首を傾げるのは、共和党支持者だけではない。クリス・クーンズ民主党上院議員(デラウェア州選出)は、「世界中で放映されるスポーツイベントで、我々の大統領に向かって『刑務所に入れろ』と大合唱するのは、受け入れがたい。大統領職は敬意を払われるべきだと正直、思う」と民主党寄りのCNNの番組で語った。

   同じく民主党寄りのMSNBCテレビの報道番組「モーニング・ジョー」の司会者ジョー・スカボロー氏も、同様の発言をしている。

   これに対し、ブーイングを支持する人たちからは、「Respect is earned.(敬意は得るもの)。トランプ氏はそれに値しない」という声が共通に聞かれる。

   日頃から激しくトランプ氏を批判しているニューヨーク在住のジェフ(30代)は、「大統領職には敬意を払うけれど、その職を汚し、世界中の笑いの的におとしめたのはトランプだ。そんな人間に敬意なんて払えるわけがない」と憤る。

   ジェフはトランプの様子をテレビで見て、痛快だったという。「ブーイングされていると気づいて、表情が変わっていった。いつも支持者に囲まれて有頂天になっているトランプが、アメリカの現実に直面したってことさ。ワールドシリーズはトランプ支持者の大会じゃないんだから、ブーイングは当然の行為だ」。

「大統領職に敬意を払うからこそ、正々堂々と抗議する」

   一方で、「ああいうブーイングは、アメリカ的ではない」との声もある。一部の反トランプ派のなかには、「トランプ氏が使うような言葉やブーイングを浴びせれば、トランプ氏と同じレベルになり下がり、米国を二分するだけだ」との思いもある。前出のスカボロー氏も、「私たちはアメリカ人。アメリカ人はああいうことはしない」と発言している。

   FOXニュースの番組司会者ダナ・ペリーノ氏は、「トランプ氏があの場でブーイングされるとは夢にも思わなかった。自分があまりにもナイーブだった。アメリカ人はあんなことをせず、声援を送ると思った」と語り、一部の民主党支持者から「あまりにアメリカの現実を知らなすぎる」と驚かれている。

   こうした声について意見を求めると、米中西部ミネソタ州セントポールに住むコニー(50代)は、きっぱりと言い切った。「ここは北朝鮮じゃないのよ。大統領であろうと誰であろうと、恐れることなくブーイングできるのが、自由の国アメリカの素晴らしさだわ」

   ブーイングはアメリカ的なのか。アメリカらしからぬ行為なのか。これまでにブーイングを浴びせられた大統領は、トランプ氏だけではない。大統領職に敬意を払うからこそ、それが侵されていると信じるなら、正々堂々と抗議する。1773年にイギリスが制定した茶条令に反対し、ボストン港で茶箱を海に投げ捨てたように。

   ワールドシリーズのスタジアムでブーイングし、「Lock him up!」と合唱した人たちは、自分こそ真のアメリカ人だと自負しているに違いない。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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