2024年 4月 19日 (金)

社会保障の難問に切り込んだ?腰砕け? 政府が中間報告

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   政府の「全世代型社会保障検討会議」(議長・安倍晋三首相)が2019年12月19日、中間報告をまとめた。75歳以上の後期高齢者の医療費の自己負担増や年金、雇用制度の見直しなどが柱で、少子化対策など中間報告に施策が盛り込まれなかったテーマを含め、20年夏に最終報告をまとめる。できることから、年明けの通常国会以降、順次、関連法案を提出する。

   第2次安倍政権はアベノミクスの「3本の矢」に始まり、「地方創生」「1億総活躍」「女性活躍」「働き方改革」などのスローガンを次々に掲げ、求心力の維持に努めてきた。「全世代型社会保障」もその一つではあるが、過去のテーマを集約する部分もあり、何よりこのままでは社会保障制度が持続不可能になるという厳しい現実もあり、他のテーマ以上に切実といえる。

  • 社会保障をめぐる厳しい現実にどう立ち向かうのか(画像はイメージ)
    社会保障をめぐる厳しい現実にどう立ち向かうのか(画像はイメージ)
  • 社会保障をめぐる厳しい現実にどう立ち向かうのか(画像はイメージ)

後期高齢者の医療費自己負担の着地点

   いうまでもなく、最大の問題は少子高齢化の進展だ。社会保障費はベビーブームで生まれた「団塊の世代」が75歳以上になり始める2022年から一段と急増し、国の試算では、18年度の約121兆円が、25年度には約141兆円に、65歳以上の人口がほぼピークを迎える40年度には約190兆円に膨らむ。この間、未婚率の上昇で40年に単身世帯が4割に増加すると推計され、しかも、就職氷河期世代の団塊ジュニアは非正規やパートで働く人が多く、その世代が高齢期を迎え、生活保護受給者が増える心配もある。こうした事情で、国の借金が膨らみ、年金や医療で現役世代の負担が増えるのは必至とあって、改革が待ったなしなのだ。

   そこで、中間報告が謳ったのが「現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築する」。具体的には医療、年金、雇用が中心だが、注目されたのは、後期高齢者の医療費の自己負担と、年金支給額の年収による減額(在職老齢年金)、短時間労働者の厚生年金への加入義務づけの企業規模要件の見直しだった。

   中でも最大の焦点は後期高齢者の医療費自己負担。現在、医療費の自己負担(窓口負担)は、70歳未満は3割、70~74歳が2割、後期高齢者は原則として1割。75歳以上でも現役並み所得(単身世帯の場合は年収383万円以上)があれば3割負担だが、それ未満は一律1割負担で、2割の人はいない。そこで、現役並み所得までいかないまでも一定以上の所得がある人は2割負担に引き上げることにした。2020年夏までに厚労省の社会保障審議会で、その所得層を決める。

「在職老齢年金」の見直し内容

   ここに至る過程では、財務省が後期高齢者を「原則2割負担」に引き上げるよう主張したのに対し、医師会をバックにした厚労族議員が反発し、公明党も強く抵抗した。結果、一定の所得があれば2割負担にするという意味で財務省の主張は通ったが、「原則2割」は明記できず、あくまで「原則1割」で、2割負担は一部例外的ということになった。2割負担になる人の割合がどの程度になるかについて、中間報告には「高齢者の生活への影響を見極め、適切な配慮を検討する」と書くにとどめた。

   年金分野では、まず、多様な就労への対応や、より長く働くことへの支援がテーマで、そのために現行60~70歳の間で選べる公的年金の受給開始時期を上限75歳に引き上げることはスンナリ決まった。雇用について、企業に70歳までの就業機会の確保を努力義務で求めたのとセットで、安倍首相が唱える「生涯現役」の流れに沿ったものだ。

   一方、年金についてもめたのが、働いて稼ぎがある高齢者の年金を減額する「在職老齢年金」の見直しだ。厚生労働省は「働く意欲を阻害する」という理屈で、減額になる線引きを、65歳以上で「月収47万円超」から「62万円超」への引き上げを提案、反対を受け「51万円超」に修正した。だが、「高所得者優遇」との批判が根強く、与党の理解を得られず、結局、65歳以上の引き上げを断念し、60~64歳で「月収28万円超」の基準を65歳以上と同じ「47万円超」にすることだけで決着した。

   年金のもう一つの焦点が、パートなど短時間労働者の厚生年金への加入を義務づける企業規模要件の見直し。現在は「従業員501人以上」となっている要件を、2022年10月に「従業員101人以上」、24年10月に「51人以上」に拡大することになった。厚生年金に加入する人が増えれば年金財政が安定するし、「51人以上」になれば65万人が新たに加入する見通しで、こうした労働者は受け取る年金が増える。

   問題は年金保険料が労使折半ということ。負担が増える中小企業から反発が相次いだ。企業規模の違いで社会保障の扱いが異なるのは不合理なことは誰しも求めるところだが、加藤勝信厚労相が当初目指した「企業規模要件の撤廃」には踏み込めなかった。

「どう転んでも負担が増える話になる」

   そもそも中間報告は、子どもから高齢者まで「全世代型社会保障」の看板に反して、高齢者問題に集中した。2019年の出生数は87万人を下回り、過去最少を更新する見込みで、待機児童は4月時点でなお1万6772人にのぼり、政府が目指す21年春の解消に赤信号が点滅するなど、少子化対策は急務なのに、具体的な施策項目には少子化対策は盛り込まれなかった。

   安倍首相は「全世代型社会保障」を政権のレガシー(政治的遺産)としても位置付けているという。「社会保障の議論は、安心のために必要とはいえ、どう転んでも負担が増える話になる」(財務省関係者)。その限りで、今回の中間報告にも国民に一定の痛みも求める項目もある。ただ、安倍首相が7月、消費税について「(10月の引き上げ後)10年間ぐらい上げる必要はない」と言い切ってしまった手前、「端(はな)から消費税なしの社会保障改革では、できることは限られる」(大手紙経済部編集委員)。

   2020年夏の最終報告に向け、どこまで大きな絵を描けるか。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中