青学・箱根駅伝Vを支えた「陰の指導者」 選手もタジタジ「監督より権限がある」
母は強し――である。
2020年1月2~3日に開催された令和初の箱根駅伝で、青山学院大が10時間45分23秒の大会新記録で5度目の総合優勝を果たした。連覇を狙った東海大に3分02秒差の差をつけるタイムでの完勝だった。
チームを牽引し続けた原晋監督はもちろんだが、「寮母」として選手たちのサポートを続けたのが、監督夫人の美穂さんだった。
「タスキが裏返っているから直させて」と原監督に助言
優勝を目前にした最終10区。青学大・原監督夫人の美穂さんが、おもむろにスマホを操作し始めた。同区を走る湯原慶吾選手(2年)のタスキが裏返り、「青山学院大」と書かれた方が隠れてしまっていたからだった。
それを見つけた美穂夫人は、後方から車で選手に指示する原監督に、ラインでメッセージを送った。「タスキ、裏返っているから」。すると原監督からは「了解」との返答があった。原監督はスピーカー越しに「なあ、湯原、タスキを『青山学院』が前に出るように頼むぞ!」。
湯原選手は走りながら、タスキの表裏を直した。美穂夫人は、
「だって、フィニッシュは雑誌とか、絶対に載るから」
普段は選手たちの寮母として、食事や生活の面倒を見る。その分、選手たちには我が子のように接してきた。晴れの舞台に、最高の姿でゴールテープを切って欲しかったのだろう。原監督と美穂夫人の「裏タスキリレー」が、最高の舞台を演出した瞬間だった。
美穂夫人の発破に、主将も「これはヤバいな...と」
原監督は、今年の4年生を「ダメダメ世代」と呼んだ。練習の質、量ともに4連覇を成し遂げた時代とは差があった。そこに声をかけたのも、美穂夫人だった。
主将として3区4位となった鈴木塁人(たかと=4年)選手には、
「あなたがビシッと言わなきゃダメだよ。優勝どころか、シード落ちしちゃうよ!」
と発破をかけたという。
鈴木主将は、レース後のインタビューで、
「(チームでは)監督より奥さんの方に権限がある。チームの一番上に怒られたってことです。これはヤバいな...と思いました」
と苦笑い交じりで答えた。
以降、「ダメダメ」を返上すべく、4年生が中心となってチームを引っ張ってきた。その結果が、大会新記録となる総合優勝だった。
「すごいな~」と、感涙を流す美穂夫人。自身は走らなくても、魂は「我が子」たちとともに、寒風吹きすさぶ箱根路を駆け抜けていった。
(J-CASTニュース編集部 山田大介)