2024年 4月 24日 (水)

新型コロナは「みんなで日本を守る意識がないと戦えない」 専門家会議メンバーが語る「行動変容」の重要性

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   情報が日々更新され、対応に追われる新型コロナウイルス禍。厚生労働省のクラスター(感染集団)対策班の押谷仁・東北大教授(ウイルス学)が今後の対策方針を示した資料が「非常にわかりやすい」「当面は行動を変えよう」とSNS上で反響を読んでいる。

   押谷氏はJ-CASTニュースの取材に、感染拡大を防ぐためには「全世代」で当事者意識を持つべきだと話す。

  • 「日本での流行状況」(押谷氏の資料)
    「日本での流行状況」(押谷氏の資料)
  • 「日本での流行状況」(押谷氏の資料)

爆発的感染以前に「医療崩壊」の懸念も

   押谷氏は2020年3月29日、新型コロナの拡大防止に向けたこれまでの取り組みと今後の方針を整理した資料「COVID-19への対策の概念」の暫定版を公開した。主な内容は次の通り(※J-CASTニュース編集部で、4月1日までにわかった情報を補足しています)。

   2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)では、ほぼすべての感染者が重症化したため、すべての感染連鎖を見つけて断ち切ることで封じ込めに成功した。

   一方、新型コロナは多くの感染者が無症状か軽症で、すべての感染連鎖を見つけることは「ほぼ不可能」だと説く。全体像をつかむには、国民の大半がPCR検査を受けなければならず、医療供給体制などの面から現実的ではないという。政府の専門家会議は4月1日、すでに供給がひっ迫しつつある地域が出てきており、爆発的感染(オーバーシュート)が起こる前に「医療崩壊」に陥る懸念を示している。

   押谷氏によれば、日本は現在、感染流行の"第二波"のまっただ中にある。中国湖北省を発端とした"第一波"では、「保健所・自治体・地方衛生研究所・感染症研究所・検疫所・クラスター対策班の若手研究者などの努力でなんとか乗り切ってきた」ものの、第1波の流行の残りに加え、3月以降に海外からの感染流入が激増したため、新たな波が起きたと考えられる。

日本は「中国&シンガポール」モデルで対策

   現時点で感染は施設内が多く、爆発的に地域内感染が増えている状況ではない。しかし、感染者、孤発例(感染経路が追えない症例)ともに着実に増えており、押谷氏は「ぎりぎりの状態にある」と警戒する。

   大規模な地域内流行が起こる条件は、▽クラスターの連鎖発生▽大規模クラスターが生まれ、そこから多くのクラスターに派生――の2点だ。押谷氏は「感染者」「接触者」「感染連鎖」「クラスター連鎖」を制御できれば防げるといい、具体的には以下の状況を作るのが望ましいとする。

・感染者:入院措置もしくはそれに準ずる措置
・接触者:14日間健康監視の徹底
・感染連鎖:医療機関・高齢者施設での積極的疫学調査
・クラスター連鎖:感染源の大半が追えて周囲にクラスター形成がない状況

   クラスター対策班としては、都市封鎖と外出禁止令でウイルスをほぼ完全に制御した中国と、感染連鎖をほぼ完全に可視化して感染流行の第一波を制御したシンガポールを参考に、日本独自の対策づくりを目指している。

   目標を「感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすこと」と定め、対策の柱に「クラスターの早期発見・早期対応(断ち切り)」「患者の早期診断、重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」「市民の行動変容」の3本を掲げる。現時点で「中国での経験からも、接触機会を減らすことで大規模な流行も収束させることが十分に可能」との評価だ。

若年層クラスターを「見える化」するには

   「『武漢市を含む湖北省への渡航歴があり、発熱かつ呼吸器症状を有する人』との接触歴がある」などを条件に発生動向調査(サーベイランス)を進めると、2月13日に突然、感染連鎖が見えてきた。しかしこの段階ですでに連鎖が各地で進んでおり、全体像の把握は困難だったと振り返る。

「突然見えた感染連鎖(2月13日)」(押谷氏の資料より)
「突然見えた感染連鎖(2月13日)」(押谷氏の資料より)

   クラスター対策班で見つかった感染経路を掘り下げると、感染者との濃厚接触者からは二次感染が出ていないことがわかった。一人の感染者が何人に感染を広げるかを指す指標「R0(基本再生産係数、アールノート)」ではR0=0となる。

「基本再生産計数」(押谷氏の資料より)
「基本再生産計数」(押谷氏の資料より)
「1人の感染者が生み出す2次感染者数の頻度」(押谷氏の資料より)
「1人の感染者が生み出す2次感染者数の頻度」(押谷氏の資料より)

   それではなぜ流行しているのか。「多くの人は誰にも感染させないが、一部に1人が多くの人に感染させていると考えないと流行が起きている理由を説明できない」ため、感染源(リンク)の追えない症例からつながった患者のうち5人以上の集団を「クラスター」と定義し、「早期発見・早期対応」を目指した。

   クラスターさえなければR0<1、つまり感染者が出ても流行にはならないからだ。※東京都の推定値はR0=1.7(3月21〜30日の期間)

「クラスターが起きなければ」(押谷氏の資料より)
「クラスターが起きなければ」(押谷氏の資料より)

   ただし、クラスターの早期発見は容易ではない。特に、若年層(10代後半〜50代と独自定義)は重症化することが少なく、「若年層クラスター」の連鎖は見えづらい(「アクティブな中高年からなるクラスターも数多く見られている」とも注記している)。

   若年層クラスターを「見える化」するには、「若年層クラスター連鎖から高齢者に漏れ出した場合」「まれにおこる若年層での重症例が出てきた場合」「軽症者がなんらかのきっかけで検査を受けた場合」のいずれかだという。

「夜の街」クラスターが見えにくい理由

   クラスターをめぐる問題で、最近新たに分かったことがある。

   押谷氏は、若年層クラスターは「生物学的理由」で見つけづらかったが、密接な接触を伴う飲食店に関連するクラスターは「社会的理由」で見えにくいという。その結果、クラスター連鎖を見つけられず、病院や高齢者施設の流行につながっている可能性を指摘する。

   大阪府の吉村洋文知事は4月1日の記者会見で、クラスター発生が疑われるナイトクラブやバーの調査は「非常に困難を極めている。調査は結局、関係者、陽性者に聞き取るしかない」と協力が得られず、実態解明が進んでいないと明かした。店名公表を拒否されるケースもあり、吉村知事は「ナイトクラブや夜の接客を伴う飲食店に行かれ、症状が出た方はすみやかに保健所に相談してほしい」と呼びかける。

   資料は最後、より厳しい第2波を乗り切るための「お願い」として、「保健所・地方衛生研究所・検疫所・クラスター対策班の人員の早急な拡充。特に保健所の負担の軽減」「日本に住むすべての人が、この問題を真摯に考え、それぞれの行動を見直してもらうこと」を訴えている。

「行動変容、行動変容、行動変容!」

   資料からは、国や医療従事者の努力だけでは不十分で、国民の協力が不可欠とのメッセージが伝わってくる。「行動変容、行動変容、行動変容!」と強く呼びかける記述もあった。

   押谷氏は4月1日のJ-CASTニュースの取材に、その意図を「みんなで日本を守る意識がないと戦えない。それぞれの世代がそれぞれの役割を持っている」と話す。

「みんなが対立して、中高年が俺は構わないと居酒屋やカラオケに行ったり、若い人は自分たちは重症化しないと思ってライブハウスにいくといったことを繰り返すと、ヨーロッパやニューヨークで見ていることが日本でも起こるかもしれません。それでいいんですかってことです。日本で死者が累々と出て、その責任は誰が取るのか。自己責任じゃないですよね、これ。だからみんなでやらないといけない。みんなで協力しないとこの感染症は止まらない。だから対立したら駄目なんですよ。国が対立してもだめ、世代間で対立してもだめ。自己責任が取れる感染症ではないのですから」(押谷氏)

   「3つの密」(密集、密着、密閉)が重なる場を避けたり、手洗いや咳エチケットだったりと、基本的な感染対策の徹底が求められる。資料はhttps://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdfから閲覧できる。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)

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