2020年 12月 1日 (火)

保阪正康の「不可視の視点」
明治維新150年でふり返る近代日本(44)
教科書から読み解く「戦争観」の変遷

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教科書では愛国心や臣民観を強制していなかった

   明治維新になって洋風化が進んでいった明治初期の日本社会を変えていこうとの意気込みがあった。同時にそれまでの日本になかった公共機関、印刷物、汽車などによって作られた生活環境が説明されている。時代の推移を子供たちに説き明かそうというのであった。

   特に「修身」では、ワシントンやリンカーン、それにナイチンゲールなどについても詳しく教えている。前述の唐澤書によるならば、フランクリンについて最も詳しく教えているというのである。そこで強調されているのは、「自立」であり、「公益」であった。次いで取り上げられたリンカーンにしても、黒人解放の指導者としての人間像である。

   こうした内容を見ていくと、意外なことに児童・生徒には戦争のための愛国心や臣民観を強制していないことに気づかされる。意外なほど開明的であり、そして欧米風なのである。なぜこのような方針だったのかは、私なりに見ていくと二つの理由が挙げられるのではないかと思えるのだ。一つは子供たちの教育に時局の動きを利用しないとの判断があったことだ。戦争はある時期の一時期の現象であり、それを中心に児童・生徒の教育に当たるのは間違いだとの認識があったということであろう。もう一つは 、政治指導者や軍事指導者が恐れるほど国民の間に反戦意識や厭戦意識はなかったのである。

   国民は指導者の考え方に大体が不満を漏らさずに追随する形になっていた。あえて子供達への心構えを教えなくても、社会全体が指導者に従うとの判断があったとも言えるように思える。この二つの理由によって、教科書の崇高さが保たれていた。ところが日露戦争の終結後、国民の意識は一変する。政府批判が始まるのである。すると教科書は1910(明治43)年に再度改定されている。一転して忠孝を軸にした天皇制国家の教科書となっていく。政府批判を封じ込めるための愛国教育であった。(第45回に続く)




プロフィール
保阪正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部卒。『東條英機と天皇の時代』『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞)、『昭和陸軍の研究(上下)』、『吉田茂』(朝日選書)、『昭和史の本質』(新潮新書)、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮社)など著書多数。2004年に菊池寛賞受賞。

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