2024年 4月 25日 (木)

「オールジャパン構想」で韓・中勢に勝てるか 造船業界に「新たな再編段階」

   国内造船最大手の今治造船(愛媛県今治市)と2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市)が資本業務提携した。商船分野の設計・営業部門の共同出資会社「日本シップヤード」を2020年10月1日付で設立するとともに、今治がJMUに30%を出資する。建造量の国内シェアが合わせて5割に達する2強が手を組み、一足先に統合を進める韓国、中国勢に対抗する。

   両社は2019年11月、提携で基本合意し、具体的な中身を詰めていた。20年3月27日の発表によると、JMUが発行する新株を今治が引き受ける形で30%出資する。合弁の日本シップヤードは、今治が51%、JMU49%が出資し、液化天然ガス(LNG)運搬船以外の大型タンカーやばら積み船など商船を手掛ける。人員は500人規模を想定している。

  • 造船業界の未来に注目が集まる(写真はイメージ)
    造船業界の未来に注目が集まる(写真はイメージ)
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2社を合わせ建造量の国内シェア5割

   この日の発表会見で、今治造船の檜垣幸人社長は「いい品質で最先端の船を誰よりも早く造る」、JMUの千葉光太郎社長は「今治造船の規模と販売力を、我々の人材や技術と融合すれば強い会社になる」と述べ、提携の意義を強調した。

   今治は建造量450万総トン、売上高3910億円、JMUは同236万総トン、2541億円で、2社を合わせ建造量の国内シェアは5割に達する。とはいえ、世界シェアは今治が4位、JMUが同7位で、合わせても世界シェアは12%。日本の造船業界全体でも手持ち工事量(受注残)が1800万総トンを割るという20年ぶりの低水準に落ち込んでいるなど、業界の厳しさは増している。

   これに対して中国では世界2位の中国船舶工業集団(CSSC)と同5位の中国船舶重工集団(CSIC)が経営統合、韓国でも世界首位の現代重工業が、買収が決まった同3位の大宇造船海洋との統合を進めている――というように、それぞれ国内のトップ2の合体が進む。この中韓2陣営だけで世界の建造量のシェアが4割に達し、中小造船所が乱立している日本は水を開けられるばかり。IHIがLNG船に搭載するアルミ製タンクなど海洋構造物を作る愛知工場(愛知県知多市)を閉鎖、三井E&Sは千葉工場(千葉県市原市)の造船から撤退するなど、縮小の動きが止まらない。

   特に、世界的に海運業界の再編が進んだことから、大型商戦を一度に何隻も発注することが増え、小規模な造船会社では対応できなくなっているという。中韓の統合はまさに、そうした流れに呼応した動きといえる。

生い立ちの違い

   日本でも、国土交通省主導で「オールジャパン構想」が打ち出されてはいる。日本には約50カ所の造船所があるが、まず開発や設計・受注などの上流を一本化し、建造という下流は各社に割り振ることから始め、過剰だったり非効率だったりする造船所の閉鎖・集約につなげようというものだ。業界の抜本的な再編も視野に入っており、国交省は協業・提携に必要な投資などを補助する策を検討している。今回の今治とJMUの提携は、その大きな第1歩。両社合弁新会社で受注し、それぞれの造船所で船を建造すれば、多数隻の発注も受けられる。

   ただ、両社の生い立ちの違いを心配する向きもある。今治造船は1901年に創業し、創業家の強いリーダーシップのもと、独立独歩の経営をしてきた「オーナー系」。これまで、経営危機に陥ったほかの造船会社を買収して勢力を拡大し、シェアトップに立ったも。瀬戸内エリアに集中する地の利を生かし、強固なサプライチェーンをベースにコスト管理に定評があるが、ローカル色は否めない。

   一方のJMUは2013年1月1日に旧日立造船・日本鋼管(現・JFEホールディングス)系のユニバーサル造船と、旧IHI・住友重機械工業系のアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドが合併して誕生した「総合重工系」。JMUへの出資比率は JFEとIHI各46%、日立造船8%だが、今治の今回の出資で、JFEとIHIが各32%、日立造船6%になる見込み。30%という今治の出資比率は、「ぎりぎり筆頭株主にはならないという絶妙な線」(業界関係者)。今治の檜垣社長が「あくまで(対等な)アライアンスだ」と強調するのも、重工系への配慮からだ。

今後の需要が見込めるLNG船と環境技術

   今回はローカル企業と大企業が、企業文化の違いを超えて手を結ぶことになり、「新たな業界再編の段階に入った」(造船大手)と受け止められる。その成否を占う焦点は今後の需要が見込めるLNG船と環境技術だ。

   今回の提携でLNG船が対象外になったのは、今治が三菱重工業とLNG船の営業・設計の合弁会社をすでに設けているからだが、その三菱は創業の地であり大型船の主力工場である長崎造船所・香焼工場(長崎市)を大島造船所に売却することになった。これでLNG船から撤退することになり、今治・三菱の合弁の意味は薄れる。LNG船をめぐり今治・JMU提携がどういう方向に進むのか、またオールジャパンの中でLNG船がどう位置づけられ、再編が進むのかが注目される。

   もう一つは国際的な環境規制強化だ。国際海事機関(IMO)は船舶について二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出を、2030年に08年比で40%以上削減することを求めている。世界で開発競争が進む中、新合弁会社は規制をクリアした新鋭船を早期に市場に送り出すことが大きな狙いで、その成否は日本の造船界の将来をも左右しそうだ。

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