2024年 4月 23日 (火)

中国「失業者7000万人」民間レポート 発表当日に取り下げられた理由

   2020年5月6日に中国の文化・観光部(省)の微信公式アカウント「文旅之声」は、5月1日から5日までの中国の連休期間中の国内観光売り上げの統計データを公表した。観光に出かけた人数は1.15億人、国内観光売上高は475.6億元だった。

   文化・観光部のデータでは、同じ5月連休の国内観光売り上げは、2017年が791億元、18年は871.6億元、19年には1176.7億元に達していたが、2020年はコロナショックで売り上げが前年の半分以下に減少している。

   観光を始めとするサービス業は特にコロナショックの影響を受け、この結果、中国は今、非常に厳しい雇用問題に直面している。

  • 北京市内の「首都体育館」近くの横断歩橋橋の下で涼を取る出稼ぎ労働者たち。コロナショックの前は多くの労働者が群がっていたが、現在は人影もまばらだ(2020年5月6日、筆者撮影)
    北京市内の「首都体育館」近くの横断歩橋橋の下で涼を取る出稼ぎ労働者たち。コロナショックの前は多くの労働者が群がっていたが、現在は人影もまばらだ(2020年5月6日、筆者撮影)
  • 北京市内の「首都体育館」近くの横断歩橋橋の下で涼を取る出稼ぎ労働者たち。コロナショックの前は多くの労働者が群がっていたが、現在は人影もまばらだ(2020年5月6日、筆者撮影)

6.2%の失業率解消に2000万人の雇用必要

   中国ではほぼ毎月中旬に国民経済の現状を紹介する記者発表をする。失業率を見てみると、1月が5.2%、2月は6.2%、そして3月は5.9%と推移していた。近年で失業率が最も高かったのは5.3%(2019年7月)で、5.9%と6.2%は異常に高い数字といえよう。

   とくに毎年7月に大学生が卒業を迎え、2020年は大学を卒業する学生だけでも847万人(人力資源・社会保障部の数字)に上る。その前に現在の失業問題を解決しないと、下半期の雇用情勢は非常に厳しくなる。

   ヨーロッパやアメリカなどの失業率を知っている人なら、5.9%はたいした数字ではないと思うかもしれないが、中国の場合はそうではない。

   2019年の中国統計年鑑によると、2018年の失業率は3.8%で失業者数が974万人だった。2020年全体が6.2%に増加すれば、1000万人以上の人が失業することを意味する。さらに7月から労働市場に入ってくる新卒の大学生、高校生などを入れると、新たに2000万人以上の雇用を創出することが必要となる。

出稼ぎ労働者は農村に帰れば失業者にならない

   中泰証券は4月26日、研究所長による微信公式アカウント「李迅雷金融・投資」で、「中国の失業率はどれくらい高いのか?」と題する研究レポートを発表した。それによると、2020年第1四半期に中国で新たに増えた失業者数はすでに7000万人を超え、失業率は20.5%前後だという。

   このレポートによると、従来の中国の都市部失業率は、統計方法の面で出稼ぎ労働者の状況を正確に反映することはできないとしている。具体的にはこうだ。都市部で仕事があるとき、出稼ぎ労働者は肉体労働者となり、都市部で仕事がなくなったら、出稼ぎ労働者は農村に帰って農民となる。どちらの状態でも仕事が可能であるため、出稼ぎ労働者というグループには統計学的な意味での失業問題が存在しないというわけだ。

レポートを出した研究所所長を解任

   実際、中国の政府統計部門が都市部と農村の雇用状態に対して行うサンプリング調査では、家業としての農業も雇用に含まれており、出稼ぎ労働者が都市から農村に帰っても失業として数えられない。

   上記の中泰証券の研究レポートによれば、今年第1四半期に出稼ぎに行った中国の農民はたった1億2000万人で、前年同期比5000万人以上減少している。そのうち一部は都市部で仕事を見つけられず、「やむを得ず」家で農業をしているため、いかなる種類の失業率統計にも数えられていない可能性があるという。

   驚愕の内容であることから、『財経』ニュースサイトなどは、直ちにこのレポートを転載したほか、さらに、これについて報道される関連情報もネットにアップされた。しかし、その発表当日のうちに、「李迅雷金融・投資」は突然、先のレポートを取り下げた。

   そして、4月30日、中泰証券研究所が人事異動の通知を出し、李迅雷を研究所所長から解任すると発表した。李迅雷自身は4月30日に微信公式アカウント「李迅雷金融・投資」で、4月26日のレポートは「特定の仮定状況において出した相応の失業率レベルの推計」であり、「全ての推計はみな仮定条件を出す必要があり、仮定条件も推計結果に非常に重大な影響を与えるため、推計結果は参考にすぎない」と書き、そして「公式データに従うべきである」と強調した。

   中国の経済政策は、いままでの「雇用の安定」から「雇用の維持」へと変化しており、雇用を最優先にしている。このことが、今回のレポートの内容の深刻さを物語っているといえる。

   一方で、数千万人が失業しても中国社会は基本的に安定しているように見えるのも事実だ。失業者の多くが、土地持ちの出稼ぎ労働者であり、失業しても、しばらくは農村での働き口がある。これが他の国と大きく異なっている現実である。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中