2024年 4月 19日 (金)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「ロシア疑惑」は「オバマゲート」だったのか

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   「米国史上最大の政治犯罪」とトランプ大統領が声高に叫んでいる「オバマゲート(OBAMAGATE)」-。

「オバマゲートに比べたらウォーターゲートは、小さなポテトみたいなもの(取るに足らない)=OBAMAGATE MAKES WATERGATE LOOK LIKE SMALL POTATOES!」

   トランプ氏は2020年5月27日にも、ツイッターで、すべて大文字でこうつぶやき、共和党寄りの「FOXニュース」も連日のように、「オバマゲート」について報道している。

   だが、日本のマスメディアでは、ほとんど取り上げられていない。いまだ真偽が定かでないまま、米国では報道が過熱する「オバマゲート」とは一体、何なのか。

  • トランプ大統領が主張する「オバマゲート」とは?(写真は2018年、ブッシュ元大統領の葬儀に参列する両氏)
    トランプ大統領が主張する「オバマゲート」とは?(写真は2018年、ブッシュ元大統領の葬儀に参列する両氏)
  • トランプ大統領が主張する「オバマゲート」とは?(写真は2018年、ブッシュ元大統領の葬儀に参列する両氏)

「大統領選ロシア関与説」はオバマ政権が仕組んだ?

   「オバマゲート」は、「ウォーターゲート」をもじった造語で、日本語でいえば「オバマ疑惑」だ。「ウォーターゲート」は1972年の米大統領選挙戦のさなかに、民主党本部のあった「ウォーターゲート・ビル」に盗聴器が仕掛けられようとしたことから始まった事件である。共和党のリチャード・ニクソン大統領政権幹部がこれに関与し、もみ消し工作、司法妨害、証拠隠滅などを行ったとし、ニクソン大統領は1974年に辞任に追い込まれた。

   「オバマ疑惑」は、「ロシア疑惑」と大きな関係がある。「ロシア疑惑」は、「トランプ氏の共和党陣営がロシア政府の協力を得て、2016年の米大統領選を優位に進めた」と民主党が追及してきた疑惑のことだ。

   これまでの捜査では、ロシア当局とトランプ陣営による共謀を立証するには、証拠は不十分であるとされてきた。

   じつは、2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補を当選させるために、トランプ氏就任後は彼を引きずり下ろすために、国家権力を悪用し、それを裏で操っていたのがオバマ前政権だったとの疑惑が、「オバマ疑惑」だ。そして、「ロシア疑惑」を仕組んだのも、オバマ前政権だったというのが、トランプ擁護派やFOXニュースの主張なのだ。

   この問題に大きく関わっているのが、マイケル・フリン氏だ。2016年11月にトランプ氏が大統領選挙で当選した直後の12月、トランプ氏から大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に指名されたフリン氏が、セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と電話会談したことだった。フリン氏は大統領選で、トランプ氏の外交顧問として活動していた。

   16年の大統領選挙でトランプ氏が勝利すると、政権末期のオバマ政権はロシアが選挙戦に介入したとして、ロシア政府に対する制裁発動に踏み切った。フリン氏はこの制裁について、ロシア大使と協議していたといわれる。

   フリン氏はもともと民主党支持者で、オバマ政権では国防情報局長官だったが、イスラム国(IS)との戦いなどに関して政権内で激しく意見が対立し、解任されている。その後、2016年大統領選で、フリン氏はトランプ氏の熱心な支持者となった。

   オバマ氏は大統領就任が決まったトランプ氏に、「新政権でフリン氏を起用すべきではない」と忠告していた。トランプ擁護派の間では、「フリン氏がオバマ政権について熟知しているため、トランプ政権に入るのを恐れたのではないか」との声がある。

盗聴されていた大統領補佐官

   フリン氏とロシア大使との協議の電話は、米国の外国情報監視法(FISA)のもと、合法的に盗聴されていた。トランプ陣営やFOXニュースは、「オバマ政権はこの盗聴を悪用し、『ロシア疑惑』をでっち上げようとした」と主張している。

   盗聴の内容のような機密文書では、そこに米国市民が登場する場合、個人のプライバシーを守るために名前を伏せ、黒塗り(マスキング=masking)にしなければならない。ただ、政府当局者は、その黒塗りの解除(アンマスキング=unmasking)を申請できる。

   長くなるのでこのことは、次回の記事で触れようと思う。

   フリン氏が大統領補佐官に就任したのは、2017年1月のトランプ政権発足時だ。就任前にロシア大使と接触するのは、「政府の許可なく民間人が外交交渉することを禁じる『ローガン法』(1799年施行)に触れる可能性がある。フリン氏は、さらに大使との協議についてFBI(米連邦捜査局)に虚偽の証言をしたなどとして、司法省から訴追された。

   これまでにローガン法違反で起訴された例はなく、この法律自体が憲法に抵触する恐れもあるとされるが、これ以外にフリン氏を追い詰める理由がなかったのでないか、との声もある。

   フリン氏は、ロシア大使との協議について、トランプ政権のマイク・ペンス副大統領に虚偽の報告をしたこともあり、2017年2月、辞任に追い込まれた。

「この捜査の目的は何なのか」

   弁護団の勧めもあり、フリン氏は一時、罪を認めて、司法取引に応じた。しかし、FBIの捜査に疑問を抱いたシドニー・バウエル氏を新たな弁護士として雇い、捜査は不正だったとして、無実を主張した。

   ウィリアム・バー司法長官は2020年に入り、新たな検事を任命し、捜査見直しを指示した。

   そして、つい最近、この事件は衝撃な展開を見せた。2020年5月7日、FBIの捜査は「合理的な根拠がないまま行われた」として、司法省がフリン氏に対する偽証罪の起訴を取り下げたのだ。

   起訴取り下げの決定を受けて、パウエル弁護士は、「FBIは正式な取り調べではないように見せかけ、曖昧なことを言っても虚偽証言にはならないように思わせ、フリン氏をリラックスさせて、罠にかけたのです」と話している。

   米メディア複数の報道によると、捜査担当者のやり取りを記した内部資料が、2020年4月下旬に見つかった。2017年1月24日付の手書きのメモには、「この捜査の目的は何なのか。真実を自白させることか。偽証させて訴追することか。(補佐官を)辞任させることか」と書かれていた。

   トランプ氏は、「彼は罪のない男だ。大統領を辞めさせようとする動きのなかで、彼が狙われた」と話している。

   最近になって、「ロシア疑惑」と「オバマ疑惑」に関する資料が、次々と公表、報道されている。

   次回以降のこの連載では、フリン氏と駐米ロシア大使の電話会談(2016年12月)の黒塗り解除を申請した人のリスト、オバマ前大統領が退任する直前(2020年1月)に側近を集めて会議を開いた時に、当時のスーザン・ライス大統領補佐官がライス氏自身宛に送ったメールについて触れる。また、一連の疑惑に対する民主党側の声を取り上げたいと思う。(この項、続く。随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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