2020年 7月 13日 (月)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(9)
台湾はなぜ抑え込みに成功したのか

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   新型コロナウイルスは、依然として米国、中南米、アフリカ諸国などで猛威を振るっている。日本ではどうにか沈静化に向かいつつあるが、「これで済んだ」と安心はできない。他国と比べ、第1波の抑え込みがどうだったのか、その「現在地」を確認したうえで、「封じ込め」に成功した台湾と比較したい。

  •          (マンガ:山井教雄/2枚目に表あり)
             (マンガ:山井教雄/2枚目に表あり)
  • 人口百万人あたりの死者数・感染者数
    人口百万人あたりの死者数・感染者数
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  • 人口百万人あたりの死者数・感染者数

比較のモノサシは「百万人」あたり

   「うちの国は国民の民度のレベルが違う」。2020年6月4日、新型コロナをめぐる死亡率の低さを「民度」という言葉で語った麻生太郎財務相の国会発言が話題を呼んでいる。

   政府の迷走や準備不足を棚にあげ、にもかかわらず結果が欧米ほどひどくなかったことを、わが成果でもあるかのように他国に誇る態度には批判が出た。

   その是非はともかく、京大の山中伸弥教授は5月下旬、自ら運営する「新型コロナウイルス情報発信」で、「解決すべき課題」として「ファクターXを探せ!」というテーマを掲げ、話題を呼んだ。

   山中教授は、新型コロナ対策としては、徹底した検査による感染確認と隔離、社会全体の活動縮小の二つがある、としたうえで、日本はPCR検査も少なく、活動制限も欧米に比べ緩やかだったと指摘する。しかし、それでも感染者、死者が欧米よりも少ないのはなぜか、という問いを立て、その答えを「ファクターX」と呼んで解明が急務だと問題提起した。

   とりあえず、山中教授が「ファクターX」の候補として挙げたのは、(1)クラスター対策(2)2月後半からの大規模イベント休止、休校要請による危機感の共有(3)マスク着用など高い衛生意識(4)ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化(5)日本人の遺伝的要因(6)BCG接種など公衆衛生政策の影響(7)今年1月までのウイルス感染の影響(8)ウイルスの遺伝子の影響、という8項目だった。

   これはつまり、内容が空疎で実態のわからない「民度」という言葉で結果を誇るのではなく、緩やかな対策と結果が結びつかない理由を「ファクターX」と呼び、その解明を今後の対策に生かすべきだという提言と、私は受け止めた。

   とりあえず、日本の「現在地」がどこにあるかを確認しておこう。

   西村康稔経済再生相は6月4日、自民党カフェスタ「みどりの部屋」に出演し、人口10万人あたりの死者数の表を掲げ、「日本が0・6人。英国54・2人、米国30・0人など欧米と比較すると、はるかに少ない」と語った。

   言うまでもなく、各国を比較する場合には、10万人、あるいは百万人あたりという共通のモノサシが必要だ。

   今年5月の国連データによると、全世界約77億1千人の人口のうち、多い順に約14億人のトップ中国にインドが迫り、続いて3億人台の米国、2億人台のインドネシア、パキスタン、ブラジル、1億人台のバングラデシュ、ロシア、メキシコが続く。人口約1億2680万人の日本は、これらに続く11位だ。こうした「人口大国」と、数百万人の欧州諸国やニュージーランドと単純に比較はできない。

   だが不思議なことに、メディアでは感染者数や死者数は「実数」で報じられることが多く、一定の人口比で報じることは少なかった。こうした数値が身近になったのは、5月25日に政府が緊急事態宣言を全国で解除した際、解除基準の条件として「直近1週間の新規感染者数が人口10万人あたり0・5人程度以下」という目安を取り入れて以降だった。

   世界的にはどうなのか。私が調べた範囲では、米国のジョンズ・ホプキンス大のホームページの「クリティカル・トレンズ」というファイルに、「死者は国によってどう異なるのか」という特集を組み、主要な国の10万人あたり死者数を掲げているのが数少ない例だ。ところが調べを進めるうちに、ごく身近に、その一覧を作成している研究者がいらっしゃることを知った。

   その人は、札幌医科大学医学部附属のフロンティア研究所ゲノム医科学部門で講師を務める井戸川雅史さん(47)だ。ちなみに私の自宅は、札医大まで車で5分ほどの距離にある。

   井戸川さんが運営する「人口あたりの新型コロナウイルス感染者、死者数の推移(国別)」というサイトでは、100万人あたりの159か国別データとグラフを、ほぼ毎日更新している。

   6月9日、井戸川さんにZOOMでインタビューをして、作成の動機とデータの読み方について話をうかがった。

   サイトの運営を始めたのは今年3月だったという。社会に報じられる感染者や死者数は、ほとんど実数で、その実態が伝わらないことに不満を感じていた。

「たとえばスウェーデンは人口約1千万人で日本の10分の1以下です。そこで百人亡くなれば、日本では千人以上の規模になるのに、その深刻さが伝わらない。ネットで調べても、そうしたデータが見当たらず、自分で作ろうと思いました」

   対象にしたのは人口100万人以上で、感染者・死者数が10以上の国。対象を絞ったのは、バチカンなど人口が極端に少ない国を含めると、実数が比率に正しく反映されず、ネット上の動作も重くなってしまうからだ(今はボタンの切り換えですべての国を表示させることも可能になっている)。

   使ったのは、欧州のCDCにあたる「欧州疾病予防管理センター(ECDC)」発表の各国別累積感染者、死者数データだ。速報性を重視するジョンズ・ホプキンス大のデータなどより、データを取り込みやすく、数値も正確だと考えたためだ。井戸川さんは、国連発表の人口データベースをもとに、百万人当たりの比率を割り出すプログラムを作り、ECDCデータを人口あたりの数値に変えて一覧にした。

   グラフでは、多数の国の曲線が混じり合い、個々の国の推移が見分けにくいが、アジアや欧州、アメリカや中南米など地域別や国別に数値を取り出したり、グラフを描き出すこともできる。操作はインタラクティブなので、このデータベースを使って、自分の調査や研究に沿った解析をすることができる。

「このサイトをご覧になった方から、『自分も手作業で同じ作業をしていた』という声が届きました。私の専門は『がん』やゲノム研究で、感染症ではありません。でも、プログラムづくりは得意な方なので、少しでもお役に立てれば嬉しい」
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