2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(9)
台湾はなぜ抑え込みに成功したのか

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民進党になぜ医師が多かったのか

   歴史の注釈が長くなってしまった。野嶋さんが、「歴史の必然性」に注目するのは、今回の台湾の新型コロナへの対応は、こうした戦後の歴史の独自性、複雑さに根差しているというのである。

   「二・二八事件」では、植民地時代でも成功が可能だった医師、法律家といった知識人のエリートの多くが犠牲になった。そもそも、「二・二八事件」で「本省人」の統治に不満が爆発したのも、曲りなりにも「公衆衛生」を確立した日本に代わって統治した国民党が、衛生問題にあまりの無策だったため、感染症がまん延していたという背景がある。

   こうした事情から、もともと国民党に反発心を持っていた医療関係者や専門家には、民進党の支持者が多く、政権にも参加してきた、と野嶋さんは指摘する。もちろん、民進党も、かつて国民党の馬英九政権に座を明け渡したように、安閑とはしていられない。ことに蔡政権は昨年の統一地方選で惨敗し、一時は再選も危ぶまれるほどだった。昨夏に香港の反中国デモが活発化して支持率は上向いたが、今回の対応で誤れば後はない、という政治的な緊張感が、常にまとわりついていた。つまり、民主主義の「チェック・アンド・バランス」が正常に機能していた、と野嶋さんは指摘する。

   「一つの中国」を唱える大陸の外交政策によって、台湾は国際的に孤立し、今や外交は「ソフト・パワー」に頼るしかないのが現状だ。それだけに、今回の新型コロナの封じ込めは台湾の人々にとって、かつての「瘴癘の島」の汚名を返上し、民主政治の緊張感の中で「衛生の島」への転換を成し遂げたという、格別の達成感があったのだ、と野嶋さんは言う。

「今回の新型コロナ対策で、目立ったキーワードは『守護台湾』、つまり『台湾を守ろう』という掛け声でした。この試練を通して、まだ若い民主主義を守り、台湾のアイデンティティを確立しよう、という思いが込められた呼びかけです。その意味で、今度の新型コロナ対応は、台湾の独自性を高めていく社会的ムーブメントの一環といえるでしょう」

   どのような社会事象も、歴史の文脈や、社会のありようとは無縁ではない。

   台湾と比べ、日本の新型コロナ対応に、民主主義の緊張感があるのかどうか、改めて考えたいと思った。

フリージャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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