2024年 4月 24日 (水)

現役記者らが実名で提言「ジャーナリズムの信頼回復を」 賭け麻雀事件で、若手や女性記者に危機感

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   新聞記者と東京高検検事長(当時)による「賭け麻雀」事件を受け、現役の新聞記者や研究者ら有志が報道機関の取材のやり方の見直しなどを求める「ジャーナリズム信頼回復のための提言」をまとめた。発起人6人と賛同者135人(2020年7月10日時点)は実名を公開し、日本新聞協会の加盟社129社の編集局長・報道局長に提言を送った。

   発起人の1人で朝日新聞記者の南彰さん(新聞労連委員長)によると、賛同者は10日付の送付後にさらに増え、13日の時点で約650人に上っている。このうち約100人は新聞協会会員社の現役社員だという。

  • 朝日新聞東京本社(左)と産経新聞東京本社
    朝日新聞東京本社(左)と産経新聞東京本社
  • 朝日新聞東京本社(左)と産経新聞東京本社

現役記者らが実名で 「読者目線から乖離した感覚、変えないと」

   問題発覚後、いずれもジャーナリストの大谷昭宏さん(元読売新聞記者)と池上彰さん(元NHK記者)がそれぞれ新聞に寄稿したほか、一部の新聞社OBらがコラムを掲載したりSNSに意見を投稿したりするなどの動きはあった。しかし今回は現役記者が中心で、しかも実名。普段は競い合うばかりの新聞社や通信社の現役記者らが、連携して行動を起こすことは珍しい。先述の南さんは今回の動きの背景をこう語る。

「賛同者の中心は、各社の若手記者や女性記者です。賭け麻雀事件について、各社の編集部門の幹部やベテランからは『(産経記者や朝日社員は)難しい取材対象によく食い込んだ』とか、『タイミングが悪かっただけで、必要悪だ』などと評価する声も多かったそうです。読者の目線から乖離したそんな感覚自体を変えないといけない、と志を持ってこの業界に入った若手・女性記者らは強い危機感を持っています」

   提言では、賭け麻雀事件で表面化した、記者の自宅で取材対象者と夜な夜な賭け麻雀をするという取材手法そのものと、取材対象者との癒着・なれ合いについて、「日本メディアの職業文化に深く根ざしたもの」と批判した上で、こう指摘している。

「新聞・通信社やテレビ局などに所属し、記者クラブで取材をした経験のある人間なら、だれもが知っています。取材対象と親密な関係になることは『よくぞ食い込んだ』と評価されることを。記者会見という公開の場での質問よりも、情報源を匿名にして報じる『オフレコ取材』が重視されていることを。あるいは、発表予定の情報を他社より半日早く報道する『前打ち』記事が評価され、逆に他社報道に遅れを取れば『特落ち』という烙印を押されることを。『賭け麻雀』はそれ単独の問題ではなく、オフレコ取材での関係構築を重視するあまり、公人を甘やかし、情報公開の責任追及を怠ってきた結果です」

報道機関は「日本人男性中心の均質的な企業文化」

   さらには、こうした取材慣行や評価システムなどが、

 ●権力との癒着・同質化
 ●記者会見の形骸化
 ●組織の多様性の欠如
 ●市民への説明不足
 ●社会的に重要なテーマの取りこぼし

   といった問題につながっているとも指摘する。

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   こうした問題を改善し、ジャーナリズムの信頼を取り戻すためとして、提言には具体的な6つのポイントがまとめられている。

(1)報道機関は権力と一線を画し、一丸となって、あらゆる公的機関にさらなる情報公開の徹底を求める。(中略)市民やフリーランス記者に開かれ、外部によって検証可能な報道を増やすべく、組織の壁を超えて改善を目指す
(2)各報道機関は、社会からの信頼を取り戻すため、取材・編集手法に関する報道倫理のガイドラインを制定し、公開する。その際、記者が萎縮して裏取り取材を控えたり、調査報道の企画を躊躇したりしないよう、社会的な信頼と困難な取材を両立できるようにしっかり説明を尽くす(後略)
(3)各報道機関は、社会から真に要請されているジャーナリズムの実現のために、当局取材に集中している現状の人員配置、およびその他取材全般に関わるリソースの配分を見直す
(4)記者は、取材源を匿名にする場合は、匿名使用の必要性について上記ガイドラインを参照する。とくに、権力者を安易に匿名化する一方、立場の弱い市民らには実名を求めるような二重基準は認められないことに十分留意する
(5)現在批判されている取材慣行は、長時間労働の常態化につながっている。この労働環境は、日本人男性中心の均質的な企業文化から生まれ、女性をはじめ多様な立場の人たちの活躍を妨げてきた。(中略)メディア産業全体が、様々な属性や経歴の人を起用し、多様性ある言論・表現空間の実現を目指す
(6)これらの施策について、過去の報道の検証も踏まえた記者教育ならびに多様性を尊重する倫理研修を強化すると共に、(中略)報道機関の説明責任を果たす

「何かが変わってくれることを祈る」「危機感を持って」

   今回の提言について、朝日新聞と産経新聞はJ-CASTニュースの取材にそれぞれ次のようにコメントした(ちなみに産経新聞は新聞労連に加盟していない)。

「(提言は)拝受しました。私たちが考える報道倫理が社会の感覚とずれていないか、時代に合った取材活動はどうあるべきかを再点検しています。(中略)提言についても、メディアを取り巻く環境の激変等を踏まえつつ、不断の検討が欠かせないと考えています」(朝日新聞広報部)
「一つのご提言として受け止めております」(産経新聞広報部)
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   今回の提言について、ツイッター上では、

「報道がどう変わるのか。そのことに私たちのこれからが関わっているのだと思います」
「貴重な提言 ここから何かが変わってくれることを祈る」
「書いてあることは至極当然、まっとうなこと。当然をあえて提言されなくてはならない現実への危機感を持って」

   とポジティブな反応が目立つ一方で、発起人らが提言を公開したnoteには次のようなコメントも書き込まれていた。

「提言からは報道機関こそが巨大な権力者なのだという感覚がまったく感じられない。報道機関が信頼を得られていない最大の理由は、自らは大きな権力(影響力)を制限なく行使しながら、それでいて他の権力機構へは制限・抑止を求める身勝手さを感じ取られているから」
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