外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(13)科学と政治のあいだはどうあるべきか

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   政府は2020年7月3日の持ち回り閣議で、2月以降に医学的見地から助言をしてきた専門家会議を廃止し、新型コロナ特措法に基づく新たな分科会を設置することを決めた。「科学」と「政治」のかかわりは、どうあるべきなのか。課題は積み残したままだ。科学コミュニケーションの専門家と共に考える。

  •                            (マンガ:山井教雄)
                               (マンガ:山井教雄)
  •                            (マンガ:山井教雄)

唐突だった専門家会議の「廃止」

   今回の組織改編のきっかけは、新型コロナウイルス対策を担当する西村康稔経済再生相が、6月24日の会見で示した「廃止」方針だった。西村氏は、特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)成立前に設置された専門家会議について、「位置づけが不安定であった」と述べ、感染症の専門家以外にも、自治体関係者や情報発信の専門家らを加え、感染防止と社会経済活動の再開について助言を仰ぐ判断を示した。

   ところが、この方針が示されたのは、専門家会議のメンバーが、日本記者クラブで会見し、組織の見直しを提言しているさなかだった。新たな会議体を立ち上げる政府の方針発表について問われた尾身茂副座長は「私はそれは知りません」と答えた。尾身氏らが組織見直しを提言するのを察知した政府が、機先を制しようと会見を急いだ可能性が高い。

   では、専門家会議のメンバーは、どのような提言をしたのか。この会見の動画と配布資料は、今でも日本記者クラブのサイトにある「会見リポート」で見ることができる。

   「専門家会議構成員一同」は、まず、提言に至った背景を指摘して次のようにいう。

   専門家会議はこれまで感染症対策について「医学的な見地から助言等を行う」ことを目的に疾走し、一定の役割を果たしてきた。しかし、様々な課題も見えてきたため、感染状況がいったん落ち着いた今、次の感染拡大への備えとして、我々の立場からみた専門家会議の課題に言及し、必要な対策を政府に提案する、という、

   そのうえで、自らの活動を振り返り、それまでは「ダイアモンド・プリンセス号」への対応などで政府の質問に受け身で応えてきた助言グループが、2月中旬ごろ、積極姿勢に転じたことを「前のめり」と総括する。

   それは、感染拡大とその影響が甚大となる可能性が予期され、「迅速に行動し、対策案を政府に伝えないと間に合わないのではないか」との強い危機感が高まったからだ。そこで、構成員間で非公式に話し合い、以下の3点の必要性について意見が一致した、という。

1.政府が提示する案に応答するだけでなく、専門家側が感染状況を分析し、感染防止対策案をまとめて政府に提起する必要性
2.その提案に至った理由を社会に説明する必要性
3.新たな情報をもとに、市民に感染症防止策を共有する必要性

   だが専門家会議は、さらなる拡大を前に、「我々の役割は、政府に科学的助言をするだけでなく、感染予防や拡大防止に資する対策案も提供すること」と考えた。

   こうして専門家会議は、2月24日、「専門家と行政側がブレインストーミングできるような場を持ち、行政から検討の依頼があった個別の問題だけでなく、全体の大きな方向性や戦略などを、適宜、厚労大臣に進言できる体制を望む」との発言をし、加藤勝信厚労相の了解を得た。そして感染拡大防止へ危機感を市民と迅速に共有すべき」と考え、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」を発表した。

   こうして専門家会議は、第5回(3月2日)で医療提供体制について検討し、第6回(3月9日)では、日本の基本戦略として、「クラスターの早期発見・早期対応」、「患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「市民の行動変容」の3本柱を政府に対し提案した。第8回(3月19日)以降、発表文章のタイトルは、「見解」から「状況分析・提言」に変更された。

   政府の緊急事態宣言が出て以降、専門家会議は前面に出て提言を行うかたちになったが、メンバーはその活動を振り返って、次のような課題が見えてきた、という。

   専門家会議は本来、医学的見地から助言などを行い、政府はその「提言」を参考として、政策の決定を行うという役割分担だったが、その境界は、外から見るとわかりにくいものになった。その結果、「あたかも専門家会議が政策を決定しているような印象を与えていたのではないか」と一同は振り返る。

   これは、市民への情報発信についてもいえる。一般の市民には専門家の危機感が十分に伝わらなかったため、2月24日の「見解」では、市民に直接に行動変容などをお願いするに至った。その後も「新たな生活様式」などの提案を続けた。こうした活動を通じて、専門家会議に対して本来の役割以上の期待と疑義が生まれ、さらに具体的な判断や提案を専門家会議が示すという期待を高めてしまった。他方では、専門家会議が人々の生活にまで踏み込んだと受け止め、警戒感を高めた人もいた。何度も会見をした結果、「国の政策や感染症対策は専門家会議が決めているというイメージが作られ、あるいは作ってしまった側面もあった」と報告書はいう。

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