2024年 4月 26日 (金)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(13)科学と政治のあいだはどうあるべきか

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専門家からの提言を虚心に読むと

   こうして専門家会議は、政府に対して、次のように提言した。まずは専門家と政府の役割分担の明確化だ。

   専門家は現状を分析し、その評価をもとに、政府に対して提言する。政府はその提言の採否を決定し、政策の実行について責任を負う。そしてリスクコミュニケーションに関しては政府が主導し、専門家助言組織もそれに協力する、というものだ。

   そのうえで、社会経済活動の維持と感染症防止対策の両立を図るために、新たな組織には、様々な領域の知を結集し、政府のリスクコミュニケーション体制に助言できる専門人材も必要だという。

   さらにメンバーは、「危機対応時における市民とのコミュニケーションの体制整備」を提言して次のようにいう。

「感染症対策においては、研究を迅速に進め、公衆衛生上の対策を実践する必要がある。最新の知見を反映した対策を提案する際に、広く人々の声を聴き、心を砕いたコミュニケーションを実施しなければならない。政府には、リスクコミュニケーションのあり方や体制を早急に見直していただきたい」

   これは、どういうことか。提言書は具体的にこう指摘している。

「危機対応時における共創的なリスクコミュニケーションは、一方向的な広報とは異なる。戦略的な情報発信を実施できるよう、専門人材を活用すべきである。また、政府とリスクコミュニケーションの専門家と専門家助言組織は、相互に連携・議論を行い、合意された内容について情報発信すべきである。
地方公共団体にとっても、国からのメッセージが端的でわかりやすい必要がある。政府の事務連絡なども、リスクコミュニケーションの一形態と認識したうえで発出すべきである」

   こうして「提言書」を虚心に読めば、事態の切迫度に気づいた専門家が、市民の意識とのギャップに危機感を募らせ、「前のめり」になって直接、情報を発信したこと、それが市民の誤解や疑義、誤った期待を招いたことを「教訓」として強調していることがわかる。極めて誠実な反省と思える。

   文章では直截(ちょくせつ)に指摘していないが、その原因を招いたのは「政治」の「出遅れ」、端的にいえば、「無策」だろう。政治家が前面に立って市民に語りかけない結果、専門家が進み出て、あらぬ誤解を招いた。我々は本来の職務に戻って「助言者」の地位に留まり、政治家に決断と説得の職責を果たしてもらおう。婉曲でやわらかな語調だが、そのメッセージをストレートに汲み取れば、そうなるのではないか。

   こうして「提言書」が、「政治と科学の役割分担の明確化」と、「リスクコミュニケーションの確立」を強く求めたのに対し、西村経済再生相の「廃止」発言は、正面から提言に応えているとはいえない。せいぜいその一部を受け入れ、「感染防止と社会経済活動の再開」の両立について、尾身氏ら8人の専門家以外に、財界や労組、自治体、メディア10人を加えた「モデル・チェンジ」といえる。「科学と政治」の役割分担、「リスクコミュニケーション」の問題は、今後もことあるごとに「課題」として浮上するに違いない。

   「科学と政治」については、このコラムの第7回「英国はなぜ失敗したのか」で詳しく見たように、「専門家」による議論の詳細が記録され、迅速に公開されることと、政治家がその助言を踏まえてどう決断したのかを、率直に市民に明かすことが最低条件だろう。政治家が専門家に「丸投げ」したり、専門家を「隠れ蓑」にすることは、到底許されない。

   では、専門家による提言の第2点、「リスクコミュニケーション」はどうか。

   「リスクコミュケーション」とは、行政、専門家、メディア、事業者その他の「ステークホルダー(関与者)」が、社会のリスクについて対話を重ね、それぞれの責任や役割について理解や合意を得ながら、リスクを最小化するプロセスといえるだろう。

   「提言書」が、「広く人々の声を聴き、心を砕いたコミュニケーション」と呼び、あえて「危機対応時における共創的なリスクコミュニケーションは、一方向的な広報とは異なる」と指摘したのは、今回のコロナ禍の初期対応において、このプロセスが機能しなかったことを、専門家が痛感したからに他ならない。この先、来たる「第2波」を前に、私たちが最も心がけねばならないのは、このプロセスの回復、あるいは創出なのだと思う。

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