2024年 4月 23日 (火)

高齢者医療費、「2割負担」どこで線引き? 財務省と厚労省、経済界と医療界...それぞれの綱引き

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   75歳以上の「後期高齢者」が支払う医療費の自己負担引き上げを巡る議論が本格化している。

   コロナ対策を「大義名分」に歳出圧力は強まる一方だが、借金頼みには自ずと限界があるだけに、菅義偉政権で最初の予算編成となる年末の2021年度予算案決定に向け、新政権の政策スタンスを測る試金石になりそうだ。

  • 医療費負担をめぐる議論が進む
    医療費負担をめぐる議論が進む
  • 医療費負担をめぐる議論が進む

財務省は「可能な限り広範囲で」

   現在、75歳以上の後期高齢者は約1700万人。病院の窓口で払う自己負担額は、実際にかかった医療費の1割が原則で、70歳未満(3割負担)や70~74歳(2割負担)より低く抑えられている。この高齢者の医療サービスを賄うため、現役世代の保険料負担は年々上昇し続けている。

   前の安倍晋三政権は2019年12月に全世代型社会保障検討会議の中間報告で、医療費の負担を年齢ではなく経済的な能力に応じた額に改革することを打ち出し、一定所得以上の人の負担を1割から2割に引き上げることを決めた。どの所得層を2割負担にするかという範囲を2020年末までに決め、2022年度から実施する予定だ。その意味で、2021年度予算編成そのものではないが、関係法案を2021年1月召集の通常国会に提出する必要があり、全世代型社会保障検討会議での議論と並行し、予算編成過程で決めることになる

   現在、後期高齢者でも「現役並みの所得」(単身世帯で年収383万円以上)がある人は3割負担になっているが、こうした高所得者は後期高齢者全体の7%程度にとどまる。残りの9割余りのうち、どこで2割負担の線を引くかが焦点だ。

   財務省は「可能な限り広範囲で2割負担にすべきだ」と主張しており、検討されているのが「住民税非課税」での線引き。この非課税の低所得世帯は後期高齢者全体の40%の685万人おり、これと高額所得層を除く全体の5割超の900万人を2割負担にしようというのだ。

医療界・厚労省は「受診控え」を懸念

   与党の財政再建派は財務省に同調。自民党の「財政構造のあり方検討小委員会」(小渕優子委員長)が10月30日、1割負担は「限定された低所得者」に限るべきだとして、原則2割負担とするよう求める中間報告をまとめた。経団連も同日、同様の案を提言。連合や日本商工会議所、健康保険組合連合会(健保連)、全国健康保険協会(協会けんぽ)など現役世代を代表する関係5団体は11月4日、原則2割負担に引き上げるよう厚生労働省に要望した。

   これに対し、医療界や厚労省は負担の大幅増に反対する。日本医師会の中川俊男会長は10月28日の会見で、「新型コロナでの受診控えによる健康への影響が懸念されている。さらなる受診控えを生じさせかねない政策をとり、高齢者に追い打ちをかけるべきではない。(2割負担は)限定的にしか認められない」とクギを刺した。老人が受診を控えることによる健康悪化や医療機関の収入減を警戒しているのだ。中川会長は11月11日の会見で、対象者の目安を年収340万円にするよう提案している。

   厚労省も、2割負担となる層を絞りたい考えで、年収240万円以上(383万円未満)程度を想定しているとされ、これだと対象は約200万人になり、高齢者向けの介護保険制度で所得の上位20%が2割負担となっているのに見合う。

   いずれの主張も、それぞれ論拠があり、単純に是非は論じられないが、ポイントは制度の持続可能性だろう。

   高齢者1人当たりの医療費は、持病を抱えるなどのため現役世代よりも多い。高齢化により2020年度の後期高齢者の医療費は18兆円に達し、今の後期高齢者の医療制度が発足した2008年度の1.6倍に膨らんでいる。団塊の世代(1947~49年生まれ)が75歳に達し始める2022年度から医療費はさらに膨らむ。

最大の「壁」は衆院選か

   後期高齢者の医療費の85%は、国民の税金や若い世代の給与から天引きされる社会保険料でまかなわれている。若い世代やこれから生まれてくる次世代につけ回している形で、保険料を負担している経済界が、世代間の公平性を高めるべきだと主張するのは当然だ。現役世代の負担が増え続ければ、消費の足を引っ張ることにもなる。

   ただ、厚労省や医師会が主張するように、やみくもに負担を増やせば受診を控える人が増えて病状が悪化するなどにより、医療費が逆に増えかねないのも確かだろう。

   こうした議論の常として、両論を折衷するなり、足して2で割るなりの妥協が図られるだろう。何人を2割負担にするかの線引きが問題であり、財務省案とされる900万人と、厚労省案とされる200万人の間のどこかで決まるのが順当だ。

   ただ、不確定要素もある。最大の「壁」が衆院選だ。残り任期が1年を切り、早ければ年明け解散説も取りざたされるが、負担増に反発した高齢者の票が野党に流れることを警戒する空気が与党に広がり、「2割への引き上げはコロナ禍の前に決めたことで、状況が変わったのだから1年先送りし、衆院選の後に決めればいい」(公明党筋)との声も聞こえる。

   今のところ社会保障に関し、菅首相からは、不妊治療の補助拡大・健康保険適用が語られるくらいで、とりわけ負担増については明確な発言はない。「コロナ対応もあって財政赤字が拡大する中、高齢者医療問題は、国民の痛みを伴う改革への菅首相の『本気度』のバロメーターになる」(大手紙経済部デスク)といえそうだ。

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