2024年 4月 25日 (木)

Facebookの反トラスト法訴訟 米当局の主張と、立証への「必要条件」

   米連邦取引委員会(FTC)とニューヨーク州など48州・特別区などが、インターネット交流サイト(SNS)大手の米フェイスブック(FB)が反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとして、首都ワシントンの連邦地裁にそれぞれ提訴した。FBによる画像共有アプリ「インスタグラム」や対話アプリ「ワッツアップ」買収が競争を阻害する行為だったとして、両サービスを含む事業売却を命じることなどを求めている。

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「当局vsGAFA」の長期戦になる可能性も

   米国ではFBにネット検索のグーグル、ネット通販のアマゾン・ドット・コム、コンピュータ・携帯電話のアップルを加えた「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業による市場支配への警戒感が強まっており、司法省が2020年10月、グーグルを同法違反で提訴している。今回は、「分割」を明確に求めており、1998年のマイクロソフト(MS)訴訟以来の大型訴訟になりそうだ。

   米メディアによると、司法省やFTCなどは、グーグルやFBの追加提訴を検討しているほか、アマゾンの電子商取引サービス「マーケットプレイス」や、アップルのアプリ配信サービス「アップストア」についても反トラスト法違反の調査を続けており、当局による提訴は今後も続く可能性が高い。一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、グーグルとFBが、オンライン広告を巡る反トラスト法違反で調査を受けた場合、「相互に協力・支援する」ことで合意していたと報じており、状況は当局vsGAFAの長期戦に突入する様相をみせている。

   FBに対する訴状では、FBが2012年にインスタグラムを10億ドルで、2014年にワッツアップを190億ドルで買収したことについて「FBの独占力に対する脅威を無力化する」目的だったと指摘し、インスタグラムとワッツアップを含む事業売却を命じるとともに、新たな企業買収での事前承認の義務づけも求めた。

   また、FBが一般のアプリ企業にFBの機能を広く開放する一方、FBを脅かすような競合サービスに対してFBのシステム利用を制限し、競争を阻害し、市場独占を不当に維持してきたとして、競合サービスへのFBシステムの開放を命じるよう求めた。

FBのビジネスモデルと戦略は

   提訴の当否を考える前に、まずFBのビジネスモデルと戦略をみておこう。

   FBの2020年9月の月間利用者数は世界で27億万人余り、インスタグラムやワッツアップを含めると32億人に達し、その膨大な利用者データを使って居住地や年齢、嗜好などに応じて広告の配信対象を絞り込む「ターゲティング広告」で大きな収益を上げている。ここで重要になるのは、ビッグデータが基礎になるということであり、そのために利用者の囲い込みにFBはじめIT大手はしのぎを削っているということだ。

   そこで、FBは3つの手法を駆使してきたとされる。今回の提訴に加わった州司法当局の訴えのなかで「買うか、葬るか(buy or bury)」という戦略を指摘している。インスタグラムなどは買収する一方、先述のFBサービスからの排除で多くの新興企業が「葬られた」(ニューヨーク司法長官)。この2つの手法に加え、「模倣」もいとわず、写真・動画共有アプリ「スナップチャット」や、中国・北京字節跳動科技(バイトダンス)の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」が若者に受けて急成長すると、FBに類似サービスを導入した。

   こうした手法の是非が、今回の提訴の争点になるが、実は、インスタグラムとワッツアップの買収はFTCの認可を受けて行われたもの。FBは当然のことながら、「歴史を修正しようとするものだ」と反発しているが、FTCなどは、昨年来の調査で、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が2008年に「競争するよりも買うほうがよい」と電子メールで言及するなど、競争相手を飲み込むことで挑戦を退けようとしていたことを示す新事実が判明したと強調する。

市場独占の「被害」はどこに

   米下院司法委員会も2020年10月にGAFAの市場支配力に関する調査報告書をまとめ、FBが買収前のインスタグラムを「強力な脅威」と警戒していた社内メールを示したうえで、ライバル企業の買収によってSNS市場を独占したと結論づけている。

   ただ、反トラスト法違反を立証するためには、市場独占に伴う「被害」を特定する必要がある。FBに対する訴えから「被害」を要約すると、(1)不当な手段でライバル企業の対抗の芽を摘み、(2)技術革新を阻害し、(3)サービスの選択肢を狭め、(4)個人情報保護の品質を低下させている――ということになるが、具体的な被害状況は説明していない。FBは基本的に消費者に無料でネットサービスを提供しており、当局側が主張するのが市場独占による価格の引き上げといった「目に見える被害」ではない点には注意が必要だ。

   裁判としては、米当局がどのような証拠を示し、裁判所がどう判断するかが注目点ということになるが、SNSが現代社会を支える情報インフラになり、そこで巨額の利益を上げている以上、FBなどが運営を透明化する責任があるのは間違いない。

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