2021年 10月 18日 (月)

外岡秀俊の「コロナ21世紀の問い」(35)ワクチン争奪戦に出遅れ 日本の「失われた20年」

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   熾烈化する世界のワクチン争奪戦で、日本は大きく出遅れている。その背景に、バイオテクノロジーの分野で明確な戦略目標を持たなかった日本の「失われた20年」がある。

   そう指摘する日本医学ジャーナリスト協会の浅井文和会長(63)と共に、ワクチン問題を考える。

  •                      (マンガ:山井教雄)
                         (マンガ:山井教雄)
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「失われた20年」の中身

   浅井さんは、京都大理学部生物科学系でニホンザルの発達過程について研究し、1983年に朝日新聞に入社。初任地の長崎支局で4年間勤務した。ちなみにこの時期は、本島等市長が原爆被害について、世界に向けて発信を始めた時期にあたり、その言動を報じながら、原爆を生み出した科学と政治についてその後深く考えるきっかけになったという。

   その後、九州にある西部本社の経済部、学芸部で働き、90年から27年間、東京や大阪にある科学部、科学医療部で記者や編集委員(医療担当)を務めた。

   2017年に会社を早期退職して東京大大学院に入り、公衆衛生学修士の専門職学位課程を修了。今は4年間の医学博士課程の2年目に在籍している。昨年から、発足33年のNPO法人日本医学ジャーナリスト協会会長を務めている。

   東京在住の浅井さんに、2021年2月27日、ZOOMで話をうかがった。ちなみにその日の朝刊は1面で、高齢者3600万人分のワクチンを、6月末までに自治体に配送するという政府方針を伝えていた。浅井さんへのインタビューはその話から始まった。

「このデータを見てください」

   浅井さんが示したのは「Our World in Data」というサイトに掲載された新型コロナ・ワクチン接種の各国別ランキングだ。少なくとも1回の接種を受けた人が国民の何パーセントかを示している。(以下は3月2日現在の数値。人口100万人以下の国・地域を除く)

(1)イスラエル       55・6%

(2)アラブ首長国連邦    35・2%

(3)英国          30・2%

(4)チリ          18・8%

(5)バーレーン       17・8%

(6)米国          15・5%

(7)セルビア        14・3%

(8)トルコ          8・4%

(9)デンマーク        7・8%

(10)ノルウェー        6・2%

   この後は、ポーランドに次いでスロバキア、スペイン、独、伊、仏の欧州諸国が並び、ブラジル、ロシア、バングラデシュ、インドネシアが次いでいる。もちろん、面積の大きさや全人口の規模、資金力などに大きな違いがあり、一概に比較はできない。さらに安全性や副反応の可能性を考えれば、ただ早ければいいというものでもないだろう。

   だが、それにしても、日本が大きく出遅れていることは歴然としている。ちなみにこのサイトは英オックスフォード大の研究者の協力のもと、世界の科学者や研究者がグローバルな問題についてデータを共有する狙いでつくられた。データの提供者やグラフの編集者の名も明記されており、ワクチン接種情報は毎日更新されている。

   もちろん、こうしたデータは各国別に事情を探る必要があるが、浅井さんはこのランキングに「バイオテクノロジー」の勢力分布図を感じるという。

   厚労省サイトによると、現在、世界で製造・緊急使用許可を受けたワクチンは、各国別に次のようなものがある。

(1)米国

ファイザー社・ドイツのビオンテック社

モデルナ社

ジョンソン・エンド・ジョンソン社

(2)英国

アストラゼネカ社とオクスフォード大

   厚労省サイトにはないが、この他、実用化されているものには

(3)中国

シノファーム社

シノバック社

カンシノ社

(4)ロシア

ガマレヤ研究所(スプートニクV)

(5)インド

バーラト・バイオテック社

   接種率トップのイスラエルは、ネタニヤフ首相がファイザー社のCEOと17回にわたって直接交渉をし、他国に先行して契約を結んだ。高値をつけたとみられるだけでなく、全国民の医療情報をデジタル管理するシステムを通し、各種統計を提供する条件で思惑が一致したとみられる。「モデル国」として、どの程度の接種で集団免疫が実現できるか、など「社会実験」の意味合いがある。

   接種率第2位のアラブ首長国連邦は米ファイザー、英アストラゼネカ、中国シノファーム、ロシアのスプートニクVなどを手広く入手して上位につけた。

   ワクチン開発国は当然、自国優先でワクチンを確保している。EUを離脱した英国はEUの共同調達の枠組みには加わらず、接種で先行した。さらに120億ポンド(1兆7620億円)の巨費を投じて米ファイザー社製など7種類のワクチンを調達した。

   中国は巨大経済圏構想「一帯一路」にかかわる国を中心に53か国・地域にワクチンの無償援助を表明し、アジア諸国など14か国に先行援助を始めた。

   他方、世界一のワクチン製造能力を誇るインドも、英アストラゼネカ社とライセンス契約を結び、国内で生産したワクチンを近隣諸国などに無償供与を始めた。

   これとは対照的に、共同調達の枠組み作りで出遅れたEUは、後塵を拝し、域内製造ワクチンを域外に輸出する際には、毎回数量を報告させて許可するという「輸出管理」に踏み切った。当座はEUに供給を頼るしかない日本が大幅に出遅れているのは、そのせいだ。

   こうした事情を顧みれば、ワクチン開発・製造能力のある国が、ワクチン確保で優位に立つばかりか、他国への供与配分で有利な「ワクチン外交」を展開していることがよく分かる。浅井さんはこう嘆く。

「米英はバイオテクノロジー大国。中国、ロシア、インドもバイオテクノロジー大国を目指すという明確な国家戦略を立ててきた。一方この間の日本は、『失われた20年』だった」
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