「私人逮捕」YouTuberなぜ台頭?背景に正義の暴走&スッキリ感 弁護士は法的リスク指摘

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   「犯罪撲滅活動家」を名乗り更生支援をしているYouTuberが2023年9月、X(ツイッター)にジャニーズタレントが出演する舞台のチケット転売をする一般人を私人逮捕したと投稿し、物議を醸した。

   自警団の役割を果たす「私人逮捕系」YouTuberが昨今台頭しており、その是非やあり方をめぐって賛否の声があがっている。

   私人逮捕系YouTuberが台頭した背景には何があるのか。どのような問題点や危険性があるのか。

   J-CASTニュースは9月中旬、ITジャーナリストと弁護士に取材した。

  • フナイムさんのX(@funaim5)より
    フナイムさんのX(@funaim5)より
  • フナイムさんのX(@funaim5)より

「ずるいことをしている人が許せないという感情が...」

   元特殊詐欺グループのリーダー格で逮捕され服役した過去のあるフナイムさんは、「Youたち ジャニーズのチケット13000円を60000円で違法転売しちゃだめだよ in Dream Boys 帝国劇場」としてジャニーズタレントらが出演する舞台のチケットを転売した女性を確保したとツイートした。

   フナイムさんをめぐっては、8月28日にもアイドルグループ「乃木坂46」のコンサートチケットを転売したとされる人物を「制圧」する様子を収めた動画を公開し、賛否の声が上がっていた。

   別のYouTuberが「3時間以上、駅周辺を徘徊している人は問答無用で警察に引き渡します」として男性を取り囲み、交番まで連れていく様子を撮影した動画も話題となった。連行された男性の携帯からは盗撮画像が見つかった。

   SNSでは、私人逮捕系YouTuberに対して賞賛の声があがる一方、「やりすぎ」「冤罪だったらどうするつもり?」など批判の声もあがっている。

   私人逮捕が台頭してきた社会的な背景には何があるのか。9月15日、取材に応じたITジャーナリストの井上トシユキ氏は「チャンスはみな平等であるはずなのに、そこから抜け出してずるいことをしている人が許せないという感情が過激に出ているのだと思います」と投稿者の心理を推察する。

「背景には、いわゆるネトウヨ(ネット右翼)的なメンタリティーが結びついていると思います」

   井上氏は「悪いことをした人にもその人なりの事情がある」として、多様性が叫ばれる現代において善悪の線引きは曖昧になっていると指摘する。

   一方で、「ネトウヨ的な人は線引きをきっちりしたがります」と見解を示した。

「そういうマインドが一部結びつき、YouTubeで世の中を正すとか、悪いことをした企業のことを調べて動画をあげる人物が増えています」

傷害を負わせると「金銭責任問われる可能性」

   私人逮捕系YouTuberは、社会の関心の高まりを背景に増えてきているのか。

   井上氏は

「それも言えると思います。ニュースとして取り上げられるのも大きいです。視聴回数や登録者数が上がる面と、世の中でずるいことがはびこっており、許せない気持ちから『自分もやってみるか』という面があります。その根拠として『私人逮捕が認められている』という言い訳が後からついてきたと思います」

と分析する。

   視聴者側は、私人逮捕や世直し系の動画に対して、勧善懲悪を描くコンテンツに抱くような「スッキリ感」を抱くと分析する。

   市民権を得つつある私人逮捕だが、危険や問題点をはらんではいないのか。

   9月15日、取材に応じた弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は「私人の現行犯逮捕が適法となるのは例外的な場合であり、私人が現場で即座に適法な逮捕か否かを判断することは非常に困難」だとし、次のように回答する。

「現行犯逮捕の要件を充たさない場合、刑事上、逮捕罪(刑法220条。3か月以上7年以下の懲役)の責任を問われる可能性があり、また、民事上の責任として、傷害を負わせた場合には損害賠償責任、名誉を毀損した場合には慰謝料請求など、金銭的な責任を問われる可能性があります」

   では、どのような場合、私人逮捕ができるのか。

   正木弁護士によると、刑事手続上認められている逮捕手続きは3つある。

①「通常逮捕」(裁判所の発布する逮捕状に基づく逮捕)
②「現行犯逮捕」(現に犯罪が行われている場合に逮捕状なくなされる逮捕)
③「緊急逮捕」(事前に逮捕状を用意する時間的余裕がないため先に被疑者を逮捕し、事後的に逮捕状を請求する方法)

「私的なチケット転売も不正転売として犯罪になり得る」

   私人逮捕は、警察などの捜査機関ではなく、一般市民が令状なく行える②「現行犯逮捕」を指す。

   「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(刑事訴訟法213条)という規定により、誰であっても現行犯逮捕することは可能だとする。

   逮捕手続きは、「被逮捕者の身体的自由を侵害するものであるため、原則的には裁判所の発布する令状に基づきなされる必要」がある。そのため、「現行犯逮捕が適法となるための要件は厳格に定められており、逮捕されようとしている者が『現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者』(現行犯人)にあたる必要」があるという。

   法律の条文に定められている刑が30万円以下の罰金、拘留、科料にすぎない軽微犯罪については、刑事訴訟法217条により、「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合」に限って現行犯逮捕が可能になるとする。これらの要件を満たさない私人逮捕は違法だと指摘する。

「上記の要件を満たしていたとしても、逮捕行為自体が社会的通念上、必要性・相当性が認められない態様でなされた場合(不必要に暴力行為を行う等)にも違法な逮捕行為と評価される可能性があります。
そして、現行犯逮捕後は直ちに検察官又は司法警察職員に犯人の身柄を引き渡す義務があるので(刑事訴訟法214条)、この義務に反する場合も違法な私人逮捕となる場合があります」

   フナイムさんがジャニーズタレントが出演する舞台のチケット転売をする一般人を私人逮捕した件については、被逮捕者が「業として」(仕事として)継続的に経済的な利益を得ようと転売をしていたとすれば「私的なチケット転売も不正転売として犯罪になり得る」とする。今回の被逮捕者が「業として」転売した前提で次のように述べる。

「チケット不正転売禁止法により規制されている不正転売の罰則は『一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金』であるため、軽微犯罪ではなく、不正転売の犯人を私人逮捕することは適法となる可能性があります。
もっとも、犯人が抵抗していないのに必要もなく暴力行為をしたり、一人の犯人について理由なく複数人で制圧した場合には、逮捕行為の必要性・相当性が認められず、違法となる可能性があります」
姉妹サイト