陸上自衛隊の練馬駐屯地(東京都練馬区)が「ニセ科学」製品を導入しようとしていると、物理化学の専門家からX(旧ツイッター)上で指摘があり、批判が出ている。
入札対象の製品の基準となったメーカーは、専門機関などに効果検証を行ってもらっていると公式サイトで説明し、その正当性を主張している。一方、防衛省の記者会見や国会議員のX投稿でも、その効果に疑問が出て、陸自はその後、入札を取り消したとサイト上で公告した。
電磁波を発生させて水中の鉄値を低下させるという内容
製品の入札は、陸自の東部方面会計隊のサイトで2024年1月19日に公告された。
練馬駐屯地の「200号建物」について、「冷温水管」に「保護装置」を取り付けるものだと説明されていた。1月30日に一般競争入札を行い、3月29日までに設置することになっていた。
この保護装置の「仕様書」もあり、そこでは、「5℃~50℃の水に対し、鋼管越しに水と非接触でゼーマン分裂を起こせる磁場を生じる品質の磁石を内蔵し、無電源で核磁気共鳴を生じるに十分な電磁波を黒体放射により供給可能な製品」を配管に装着するとなっていた。
装置の規格は、日本システム企画(東京都渋谷区)の製品「NMRパイプテクター」とした。この製品か同等以上の性能を有すると認めた製品が入札の対象になると書かれてあった。磁石を内蔵した配管保護装置を導入する目的は、電磁波を発生させて水中の鉄値を低下させるためだとしていた。
日本システム企画のサイトを見ると、パイプテクターは、外部電源がなくても電磁波を発生させ、その電磁波は金属も通過するとされている。その結果、「水の自由電子」が働いて、赤さびを黒さびに還元できると説明している。この装置を使えば、過去の実績から、配管について、本来は20年の耐用年数を40年以上に延長できるなどと主張している。
陸自の仕様書にあった鉄値を低下させるとの表現は、赤さびを黒さびにすることを意味しているとみられている。
国会議員からも疑問が出るも...メーカー「ニセ科学ではない」
陸自の入札公告が出ると、1月22日になって、専門家からこの配管保護装置は「ニセ科学」ではないかとの指摘がX上で出た。 冷温水が流れる鋼管は、強磁性体であり、電気伝導率が大きい金属のため、電磁波は鋼管を通過して水中に入らず、化学変化について何も起きないと説明した。
こうした指摘は、ネット上で大きな話題になり、陸自の導入方針に異論の声が相次いだ。
防衛省の記者会見でも翌23日、非科学的と指摘が出ていることから科学的根拠を示すよう質問が出て、報道官が早急に確認すると答えた。また、自民党の山本朋広衆院議員は同日、ニセ科学の指摘があり入札を止めるように防衛省に伝えたとX上で報告した。
その後、24日になって、保護装置の入札公告や仕様書が東部方面会計隊サイトから削除された。それに代わって、入札公告から「『200号建物冷温水管保護装置取付』について、取り消す」との「変更公告」が同日付で出された。
一方、日本システム企画の熊野活行社長は25日、取材に対し、自社製品のパイプテクターについて、「金属は、格子状の結晶ですので、そのすき間よりも幅が小さい電磁波は通過します」などとして、「ニセ科学ではありません」と主張した。入札取り消しについては、「誹謗・中傷するグループがどういう人たちか調査して結論を出さずに、会見で言われたから止めるというのは、短絡的すぎて納得できません」と述べたが、抗議などは考えていないという。
ニセ科学の指摘をどう考えるか、入札取り消しをなぜ行ったのかなどについて、陸上自衛隊に23日からJ-CASTニュースが取材を申し込んでおり、25日19時現在で回答は来ていない。回答が来次第、追って伝える。
追記(1月26日11時30分):陸自の練馬駐屯地の広報班が26日、取材に回答し、ニセ科学については、検証する立場でないためコメントできないとしたが、入札取り消しについては、次のようにコメントした。「本件公告の目的である老朽化した配管の赤さびによる詰まりを改善することを達成するために何が適切なのか、という観点から情報収集を行うため調整をいったん保留することとし、入札の公告を取り止めました」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)
午後、防衛省の担当者達が国会事務所に来所。元自衛官の再任用制度に関して議論。加えて、NMRパイプテクターなる効果がよく分からない、疑似科学との指摘も散見されるモノを自衛隊が入札で導入する可能性があり、公告済みではあるが、入札を止められるのであれば止めるように指摘。調査するとのこと。 pic.twitter.com/MQCReDmdpf
— 山本ともひろ℗ (@ty_polepole) January 23, 2024