「仕事ができる人」は「優秀な上司」になれない エース社員を一気にダメ上司にしない方法 専門家のアドバイスは

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   「仕事ができる人」が「優秀な上司」になるとは限らない――。

   むしろ、本人にとっても、部下にとっても、いや会社にとっても危険な結果を招きかねないことが、人事向けサービスを展開する調査会社アスマーク(東京都渋谷区)が2024年2月15日に発表したリポート「自主調査:『仕事ができる人』と『優秀な上司』の差」であきらかになった。

   いったい、どういうことか。調査担当者に聞いた。

  • リーダーシップのある上司(写真はイメージ)
    リーダーシップのある上司(写真はイメージ)
  • (図表1)「仕事ができる人」に重要なこと(アスマーク作成)
    (図表1)「仕事ができる人」に重要なこと(アスマーク作成)
  • (図表2)「優秀な上司」に重要なこと(アスマーク作成)
    (図表2)「優秀な上司」に重要なこと(アスマーク作成)
  • (図表3)「仕事ができる人」と「優秀な上司」、立場別に能力比較(アスマーク作成)
    (図表3)「仕事ができる人」と「優秀な上司」、立場別に能力比較(アスマーク作成)
  • 部下から信頼される上司(写真はイメージ)
    部下から信頼される上司(写真はイメージ)
  • リーダーシップのある上司(写真はイメージ)
  • (図表1)「仕事ができる人」に重要なこと(アスマーク作成)
  • (図表2)「優秀な上司」に重要なこと(アスマーク作成)
  • (図表3)「仕事ができる人」と「優秀な上司」、立場別に能力比較(アスマーク作成)
  • 部下から信頼される上司(写真はイメージ)

「仕事ができる人」に重要だと思う能力トップ5は

   アスマークの調査(2023年11月15日~21日)は、正社員として勤務する20代~50代の男女1200人(それぞれの年代で男女150人ずつ)が対象だ。

   まず、「仕事ができる人」にとって重要だと思う能力には何が重要だと思うかを、「専門知識・スキル」「学習能力」「リーダーシップ」など23項目から5個まで選んでもらった【図表1】。

   トップ5位には「専門知識・スキル」「責任感」「時間管理と効率性」「決断力」「目的意識」が並び、「リーダーシップ」は最下位という結果に。また、「コミュニケーション」や「協調性」など、職場のチームワークに必要と思われる項目は上位には入らず、「優秀な一匹狼」の姿に近いようだ。

   全体的に「仕事ができる人」には、知識が豊富で責任感が強く、時間管理が上手というイメージ像が浮かぶ。

   性別年代別でみると、女性20代では「時間管理と効率性」「計画性」「協調性」が上位に並び、時間のやりくりや人付き合いを円滑にできる人物像がうかがえる。

   一方、男性50代では「責任感」「問題解決スキル」「クリティカルシンキング」(現状の課題を批判的にとらえ、問題の本質は何かを深く考え抜くこと)が上位に並ぶ傾向に。思考力やビジネスセンスが高い人物像が浮かぶ。

「優秀な上司」に重要だと思う能力トップ5は

   続いて、「優秀な上司」にとって重要だと思う能力を23項目の中から聞くと(5個まで選択可)、性別年代を問わず「リーダーシップ」がダントツの1位に。次いで、「傾聴力」「責任感」「決断力」「問題解決スキル」が続いた【図表2】。

   「リーダーシップ」は、「仕事ができる人」では最下位だったから、「仕事ができる人」と「優秀な上司」とでは、求められる人物像が真逆であることがわかる。

   全体的に「優秀な上司」には、指導力と、人の話を聞く能力、そして統率力が求められる。このほか、男女とも50代では「問題解決スキル」「クリティカルシンキング」を重要視する傾向がみられた。

   こうした結果を踏まえ、仕事に必要な能力のうち、特に「仕事ができる人」と「優秀な上司」の、立場別に重要だと思うものを比較したのが、【図表3】だ。

   これを見ると、「仕事ができる人」には、知識の豊富さや、責任感の強さ、時間管理の上手さなどが求められるが、意外にも指導力や行動力、コミュニケーション力は求められていない。

   一方、「優秀な上司」には指導力、傾聴力、決断力が求められるが、専門的知識・スキルや、仕事に関する「当たり前に高い水準」は求められておらず、必ずしも「仕事ができる人」でなくても、「優秀な上司」になれることがわかる。

仕事ができる人間像は 20代女性「家庭と両立」、男性「兄貴肌の人」

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったアスマークの担当者に話を聞いた。

――多くの人は、なんとなく「仕事ができる人が、必ずしもよい上司になるとは限らない」と感じていると思います。そんな「実感」を明確にグラフに示した手法が見事です。これはなんという調査方法ですか?

担当者 いえ残念ながら、学術的理論に基づいたものではありません。多くの人が漠然と感じている疑問を、定量的なデータに表してみました。昇進検討の際や、昇進後に行う管理職教育の内容を考える際のお役に立てばと思っております。

――「仕事ができる人」に必要な能力の上位に「専門知識・スキル」などがくるのは理解できますが、性別年代別で大きな差が出る点が非常に興味深いです。
たとえば、女性20代ではその後に「協調性」「計画性」「時間管理と効率性」が上位にくる。
それなのに、男性20代では「決断力」「傾聴力」「目的志向」といった違う項目が並びます。なぜ、若い男女で目指す「仕事ができる人間像」がこうも違うのでしょうか。

担当者 20代男女で比べると、女性は「計画性」「時間管理と効率性」といった回答が男性より多く、タイパ(タイムパフォーマンス)重視の傾向がうかがえます。一方、男性は「決断力」「傾聴力」を挙げた人が女性より多く、普段はよく話を聞いてくれ、仕事では果断な「兄貴肌な人」の人物像が浮かびます。
これは仮説になりますが、20代女性は「仕事も家庭も両立しながら、活躍している人」を、目指すべき「仕事ができる人」として考えていることが、タイパ重視の傾向に表れているのかもしれません。

もともと20代は、上司に期待していない

――なるほど。ところで、大ベテランの男性50代では、「責任感」「問題解決スキル」「クリティカルシンキング」が突出して上位に並びます。意外にも「専門知識・スキル」が高くありません。
これでは、「仕事ができなくても構わない」と考えていると思えます。男性50代が描く「仕事ができる人間像」とはどういうものでしょうか。

担当者 50代男性ともなると、重要な役職についている人も多いかと思います。経営決断を下す立場の「仕事ができる人」として考えると、単に知識があることよりも、大局的な立場から、思考力やビジネスセンスが高いことが重視されるのかもしれません。

――しかし、同じ大ベテランの女性50代が描く「仕事ができる人間像」は全く別ですね。「専門知識・スキル」があらゆる世代性別の中でダントツ1位、次いで「目的意識」「問題解決スキル」が上位にきます。これはどういうことでしょうか。

担当者 先の50代男性は役職者が多いという仮説で考えると、女性管理職はまだまだ少ないことが、この差につながっていると考えられます。同世代の男性に比べ、現場レベルでの「できる人」の人物像を強く思い浮かべて回答されているのではと思います。

――ところで、「優秀な上司」に必要な能力が、若い層と年配層ではずいぶん違いますね。男性20代で「リーダーシップ」「傾聴力」「責任感」「決断力」が全体より軒並み10ポイント以下という点が、非常に冷めた感じがして、上司にあまり期待しないように見受けられます。
ところが、男性50代では「リーダーシップ」に加え、「問題解決スキル」「クリティカルシンキング」が突出して高いです。面白いことに、これは男性50代が描く「仕事ができる人間像」と重なります。
ということは、上司層でもある男性50代は、「優秀な上司」=「仕事ができる人」=「自分たち」と考えているわけでしょうか。

担当者 アンケートでは、上司にとって重要な能力を「最大5個まで」選んで下さいと聞いています。ところが、じつは20代は男女ともに、ほかの年代に比べて、上限まで選んで回答した人が少なかったのです。この「冷ややかな」点から見ると、20代は上司にあまり期待していないというのも、あながち間違いではないかもしれません。
50代男性は、先の「ある程度以上の役職についている人が多い」という仮説に立つと、「優秀な上司」=「仕事ができる人」を想定して回答しているため、結果が似通っているのではないかと思われます。

成績トップのエース社員がダメ上司に、会社の損失

――最後の「立場別の重要な能力」の比較をみると、「仕事ができる人」にリーダーシップやコミュニケーション力を期待する傾向が低いです。一方、「優秀な上司」に専門知識やスキルを期待する傾向が低いですね。
つまり、仕事があまりできなくても、指導力や包容力があればよいというわけですね。
両者に求められるものが全く別の能力だとすると、企業の人事担当者は、昇格人事の時に何を重視すべきだと思いますか。

担当者 おっしゃる通り、調査では「仕事ができる人」と「優秀な上司」に求められる能力が異なるという結果が出ました。単純に「仕事ができる人」をそのまま昇進させても、うまくいくとは限らないと思います。
であれば、どういう基準で昇進させればいいの? と言われてしまいそうですが、大切なことは昇進させた後、そのまま本人に任せっきりにするのではなく、「上司」に必要な能力やスキルを学べる場を、会社としてしっかり提供することではないでしょうか。
実務的に難しいかもしれませんが、昇進候補の時点で研修を行い、適正を確かめたうえで人事決定をすると、よりよい結果になるでしょう。

――つまり、昇進させた後もしっかりウォッチする必要があるということですね。

担当者 「仕事ができる人」を昇進させるだけさせておきながら、後はほったらかし......これでは、成績トップのエース社員を一気にダメ上司に変えてしまう危険性を秘めていると思います。それは、会社にとっても大きな損失です。
入社時だけでなく、昇進時にも、各階級で必要な研修を行うことが、組織にとっても、個人にとっても、プラスになる道ではないかなと感じました。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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