「DJ募集!」
スキマバイトサービス「タイミー」にこんな求人を出したのは、なんと保育園だった。
なぜ保育園でDJを募集することになったのか。タイミーに求人を出した西新ぶんか保育園(福岡市早良区)に話を聞いた。
「キッズディスコ」の前段階としてDJを募集
Xではこの求人が、保育園とDJとのミスマッチな印象などから面白いとして注目を集めた。また、求人には当日の流れとして「タイミーからDJしに来ました!」とインターホンで伝えるよう指示が掲載されており、こうしたことも笑いを誘っていた。
その後、保育園でのDJが実現。ボーカロイドプロデューサー(ボカロP)やDJとして活動する「んべべ商会」さんが、実際に応募して保育園でDJをしたと報告し、大きな注目を集めた(詳しくはJ-CASTニュース「『保育園でDJ』タイミーでの求人が話題 応募したボカロPに聞くと『保育士さんも一緒になってみんなで踊って...』」)
保育園はどう受け止めたか。西新ぶんか保育園長の猪原勝敬(いはらまさゆき)さんは2024年10月16日、J-CASTニュースの取材に、求人が話題となったことを友人から聞いたといい、「驚いた」と話した。
なぜ、保育園でDJを募集することになったのか。
猪原さんは7~8年前、西新ぶんか保育園の系列保育園「南島原ぶんか保育園」(長崎県南島原市)で園長をしており、その際に知り合いのDJに週に1回程度、保育園に来てもらっていたという。子どもたちからは好評で「ターンテーブルって音が出るし光るし、子どもたちに触らせてみたら、もう最高の楽器だった」。その後、現在の西新ぶんか保育園に移ったが、こうした取り組みは続けたいと考えていた。
さらに、園児の父親同士で集まる「パパ会」で、楽器をやっている父親たちから「趣味や特技を子どもの前で披露する場があっても面白いよね」といった話も出た。こうしたことから、猪原さんは「(子どもたちに)いろいろな大人の姿を見せるという意味でも、『キッズディスコ』のようなイベントができたら」と考えたという。
その前段階として、保育園がDJとのつながりを作ること、子どもたちにDJの姿を見せることを目的に、DJを募集したという。
タイミーは、もともと学生に向けた実習生の募集や、本格採用の前に保育園を知ってもらうため「お試し」の形で保育士を募集する目的で使っていた。そのため、DJの募集も同じサービスを使った。
「タイミーからDJしに来ました!」の案内は、ほかに意図があったわけではなく「わかりやすいかな」と思い載せたのだという。
DJからも好評「ギャラが出るのがありがたい」
猪原さんによると、実は「んべべ商会」さんがDJをしたのは、この取り組みの2回目だった。1回目に採用となったDJは知識が豊富かつ親切で、集合時間の30分前に来園しセッティングを行ってくれた。以来、「専属DJ」として毎週来てもらっている。
DJを呼ぶ取り組みは、西新ぶんか保育園でも子どもたちから大好評だ。
猪原さんは、
「(来園したDJに)見られているからか、子どもたちは意外と、日課の体操とか踊りをいつもより頑張るんですよね。それで、体操などが終わったらDJさんの方を見て、『どや』って顔をしたりとか(笑)」
と、子どもたちの様子を明かした。
DJのプレイは日課の体操や踊り、かけっこの後に行うが、子どもたちは体力を使う日課の後でも関係なく飛び回ったり走り回ったりしており、「(DJは)次いつ来るの?」と次回を楽しみにしている子どももいる。猪原さんは「やっぱり音楽の力はすごい」と感じていると話した。
また、この取り組みはDJ側からも、「自分がかけた曲に(子どもたちが)100パーセント全力で応えてくれるっていうのが楽しい」「ギャラが出るのがありがたい」と喜ばれている。
保育士は「表現者」と考えるとタレントと同じ
こうした取り組みを始めた背景には、猪原さんの子どもたちに対する強い思いがあった。
「子どものためと言いながら親の方が強い、というのがイヤで。子どものために僕ら大人が成長する姿を見せよう、僕らが楽しいことをどんどん子どもたちと一緒にやっていこう、というスタンスでやっています」
もともと保育や教育関係の仕事出身ではないという猪原さん。10年ほど飲食業をしていたほか、過去には芸能事務を立ち上げようと活動していたこともあった。
保育園で働き始めてから、子どもの前で歌い踊り、本を読み楽器を弾く保育士は、「表現者」と考えるとタレントと一緒だと感じている。
「だったら保育士さんたちにできない表現者のところに(子どもたちを)連れていった方がいいなと思いました。いろいろな趣味、特技を持っている人をタイミーで探して呼んでこよう、というのが最初でしたね」
西新ぶんか保育園ではDJ以外にもクラシックのダンサーを招いたこともあり、日常的にこうしたゲストを招く。それ以外にも、月に1回、「園外保育」として美術館や博物館、観劇などに子どもたちを連れて行く。
子どもたちには「働く大人の背中を見せたい」――。猪原さんはそう話す。