年をとって、ポッコリおなかが目立ってきた。ぜい肉がついて体形が崩れてしまった。そう嘆く中高年は少なくない。「肥満は万病のもと」という戒めもあるから、ダイエットに励もうと考える人がいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。シニア世代が無理な食事制限に走ると、体に悪影響を与え、目指していた健康とは逆に命を縮める恐れさえあるから、注意が必要だ。
60代では男性の35%、女性25%が肥満
年を重ねていくと基礎代謝機能が衰えるため、太りやすくなる。太ってしまうと、今度はやせにくくなるから、これが厄介だ。さらに、外出がおっくうになるなど、運動量が減るといった生活習慣の変化も、シニア世代ならではの肥満要因の一つだ。
厚生労働省が2023年に実施した「国民健康・栄養調査」をみると、年代別の肥満(体格指数BMI 25以上)割合は男性では60代が35.0%と最多、次いで50代34.8%、40代34.3%の順で、70代以上でも29.0%あった。女性もやはり、60代が25.0%と最も高く、以下は50代24.3%、70歳以上22.2%だった。男女ともに60代以上の3~4人に1人が肥満に該当したという結果だ。
鎌田實さんは「しっかり食べる」に重きを置けと
シニア専門のマーケティングリサーチ「コスモラボ」が2024年、60歳以上のモニターを対象に実施した「シニア層のダイエット実態と意識調査」によると、「過去にダイエットした」と答えたのは39.6%で、「現在、ダイエットしている」の12.2%を含めると、51.8%となった。2人に1人がダイエット経験者で、今なお進行形でダイエットに励むシニアが10人に1人の割合でいた。
しかし――。年をとったら、気をつけたいのは「メタボ」よりも「フレイル」と説くのが、医師で作家の鎌田實さんだ。要介護状態の前段階「フレイル」(虚弱)の予防を重視してきた鎌田さんによると、肥満症などの生活習慣病を抱える「メタボリック症候群」に着目した「メタボ健診」が始まった2008年当時に受診した世代が今、高齢期を迎えている。週刊誌「サンデー毎日」の取材に対し、鎌田さんは「働き盛りにメタボはいけない、という情報を刻み込んだために、年齢を重ねても太ってはいけない、と信じ込んでいる方が多い」との見方を示す。
確かに60歳ぐらいまでは血管のダメージを抑えるメタボ対策が、将来の心筋こうそくや脳こうそくの予防に役立つが、65歳を過ぎたら、衰え始めてくる筋肉量や骨を維持するため、「しっかり食べる」に重きを置くべきだ、と鎌田さんは言うのである。健康目的で始めたダイエットの食事制限が、筋肉量を減らしてフレイルの危険性を高めてしまう恐れさえある。
筋肉量が落ちるサルコペニア肥満に注意
実は、シニアの肥満で特に注意したいのが見た目は普通、もしくは少し太り気味ながら、実際には筋肉量が著しく落ちている「サルコペニア肥満」である。老人ホーム検索サイト「みんなの介護」は、サルコペニア肥満に関して(1)転倒や骨折のリスクが高まる(2)日常生活動作が困難になりやすい(3)要介護状態になるリスクが増加する――などの危険性を挙げて警鐘を鳴らす。
予防・改善策として、体重の減少だけを目指すのではなく、筋肉量の維持・増加に向けた「適切な運動と栄養摂取の両方が重要」と指摘する。鎌田さんも自著などで「ウオーキングやスクワットなどで筋肉を動かし、たんぱく質をしっかりとる」を推奨し、シニアからも始められる、筋肉を蓄える「貯筋」活動を提唱するのだ。
シニアになったら、フレイル予防や健康維持の観点から最優先に取り組むべきは筋肉量の維持・増加である。筋肉量が増えれば、基礎代謝機能が高まり、自ずと適正体重の道が見えてくる。
(フリーライター 倉井建太)